盗賊の森
ジェネラル…いや、ブリガンはそれから懺悔するように話し続けた。
黙って聞くしかなかった。
話しながら泣いているブリガンを見ていると、もはや大盗賊の面影はない。
その姿は、ただの老人である。
「…なるほど、それでいつか森が人の助けになるようにと。」
「あぁ、償いの気持ちで始め、盗賊の噂が薄れた頃、少しずつ森に流れ着くものが増えてな。世話をしているうちに、それが生き甲斐となり、生きる目的になった。…殺した罪は消えないがな。」
「…。」
ブリガンに代わって、焚き火に枝を焚べる。
この火のようにただ自分勝手に殺しを続けたブリガンは、たしかに許されるべき存在ではない。
その気持と裏腹に、今まで世話になった気持ち、そして森の民たちのブリガンを慕う気持ちも交差する。当事者でない俺からすれば、まだブリガンは優しく厳しいおじいちゃんに過ぎないのだ。
「…俺は街では異端だった。人付き合いは苦手だし、おかしいと思えば立場を考えず口にしてしまうから、ギルドでも街でも嫌われ者だったんだ。信用もないから徐々に仕事はなくなって、上司にはめられてギルド辞めた。それからは街にいることすら気持ち悪く感じて、森に逃げてきたんだ。」
ブリガンは泣き止み、黙って俺の話を聞いていた。
「人間嫌いから人間不信さ。元々、森で暮らしていくつもりはなくて死ぬつもりだったんだ。数日彷徨って、いよいよきつくなって倒れた時、貴方が俺を勝手に助けた。目が覚めた時は絶望しかなかったんだ。死ねなかったと。それでも貴方は、俺が生きるために色々教えてくれたし、上手く出来ない時は手を貸してくれた。…今は、死ななくてよかったとすら思ってますよ。」
「…そうか。」
「貴方がやってきたことは、少なからず今、この森にいる人達は感謝しています。過去の過ちは一生をかけて償いましょう。この森がもっと人の助けになるように、貴方自身が自分を許せるようになるその日まで、俺も一緒にがんばりますから。」
差し伸べた手を、ブリガンは戸惑いながらも握り返してくれた。
初めて、本当の意味で心から感謝できたと思った。
既に陽が昇り始める前の、闇夜で解散しようとなった。
「今日はありがとう。もう少し、頑張ってみようと思う。」
「はい、俺も頑張るんで、よろしくおねがいします。」
最後の火を消して、また明日とブリガンと別れた。
音をなるべく立てずに家へ戻り、荷物を机に置いてひっそりとベッドに入った。
俺がいなくて寂しかったのか、ラバーはぬいぐるみを抱きながら寝ている。
少し心細くて頭を撫でてしまったが、全く起きる気配はなかった。
酒が入っていた事もあり、そのまま眠ってしまった。
次の日は早かった。
寝たのが遅かったのもあるが、ラバーが起きるのが単純に早かった。
「パパ―、もうお日様でてるよ!」
「…んん。おはよう…、ラバー…。」
およそ二時間ほどの睡眠で、起き上がるとラバーが朝ごはんを作り始めている。
体に力が入らない。暫く布団でごろごろしてからゆっくり起き上がった。
「おはよう。ラバー、ありがとうね。」
あくびをしながら頭を撫でると、嬉しそうに笑った。
かまどに火が入っている。
ラバーが自分で点けたのだろうか。
「ラバー、自分で火つけたのか?」
「うん! お父さんがやってたの見てたから、もう出来るよ!」
「うーん、ラバー偉いけど、まだ火は一緒にやろうな。危ないから。」
鍋で温めてるお湯が少なかったので、水を足して机に座る。
昨夜の事を寝ぼけたまま、頭をかきながら考える。
酒が抜けた今、昨日のテンションで頑張ろうとは中々言えない。
しかも、よりによって大盗賊だったとは――。
ラバーがお湯をコップに入れて持ってきてくれた。
「はい、パパ。」
「お、ありがとう。」
熱いお湯を少し冷まし、少しずつ流し込む。
酒でひりついた腹に流れ込んで、大きく息を吐いた。
まぁ、やることは変わらないか。
それにこの話を聞くまで、まともな人だったし本当に変わったのだろう。
「どれ、ラバーお父さんも朝ごはん作り手伝うよ。」
ラバーのところに行って、野菜を切り始めた。