砂利の宴
岩場に到着した。
ここから川沿いに上流へ登っていけばジェネラルの家。
真っ暗な森で、川の流れる音と星空だけが鮮明に刻まれる。
不安定な足場をゆっくりと踏みしめながら進むと、焚き火の光が見えてきた。
あちらも足音で気がついたのか、火のついた木の棒を振る。
「こんばんは、ジェネラルさん。」
「あぁ、わざわざすまないな。座ってくれ。」
「はい、失礼します。」
ジェネラルは小枝を焚き火の下に差し込んでは火を見守る。
暫く無言が続き、俺も黙って火を見続けてきた。
積んであった小枝は徐々になくなり、ジェネラルは両手を組んで額にあてた。
「ジェネラル、少しですが家の酒を持ってきました。コップをお借りしてもよろしいですか?」
「すまないな、小屋の入ってすぐ左にある。」
尻を叩いて小屋へ行く。
扉を開けて、立ち止まった。
蝋燭の小さな灯りだけが部屋を照らすそこは、鉄の塊がそこら中に転がっている。
奥までははっきり見えないが、無機質でそれでいて鋭利なそれは、それらは明らかに刃物。狩りや細工で使うそれとは違う無慈悲なものだった。
しかし、何故こんなに大量に。仮に狩猟で使うものだとしても違和感しか無い。
「口で説明するのが難しくてな。実際に見てもらったほうがわかりやすいだろ。」
いつの間にかジェネラルは背後に立っていた。
促されるようにコップを取り、焚き火へ戻る。
これは、殺されるかもしれない。そう覚悟するのと、ただではやられないぞと決意も固める。
ジェネラルは安心させるためか先に座り、コップを構える。
無言で目を見ながらゆっくり腰を下ろし、持ってきた酒を注ぐ。
一口で飲み干すと、ジェネラルは少し笑ったように見えた。
「緊張するな。おまえさんを殺そうなんて思っちゃおらん。」
「…。」
どちらにせよ、老いたとはいえ狩りの腕も及ばぬのだから、考えても仕方ないとコップを前に出すと、ジェネラルも酒を返した。
一口でいく。
喉を焼きながら胃にふわっと燃え広がる。
その最中もジェネラルはずっと見続けていた。
「だいぶ、立派な顔立ちになったな。バルサン。来た時は死んだ目をしてたもんだが、子を育てて生き還ったか。」
「えぇ、お陰様で。今はこんな生活でも楽しくやってます。子供もそうですが、」
「なら良い。」
コップを出してきたので、酒を注ぐ。
壺を渡すと俺のコップにも注いでくれた。
「あの頃では無理だったが、今のお前なら俺の仕事が出来ると思うんだが、どうだろう?」
口にあてたコップを止める。
「いえ、まだ無理でしょう。」
「正直に答えてくれ。」
真剣な眼差しを向けてきて、少し黙ってしまった。
俺が森に来た時、ジェネラルがしてくれた事は本当に凄いと感じ、俺もそうなりたいと心から思った。。だから、生活に慣れてからはジェネラルに教わりに行くようになって、数年前からは率先して俺が代わりをする様になっていた。
だが、無理といったのにも理由はある。
俺はまだ森についてジェネラル程詳しくないということ。
そして、淡々とこなすだけでそれ以上はないということ。
「あなたがやってきた事は立派です。貴方ほど俺は器用にやっていけません。」
ジェネラルはそれを聞くと笑顔でうんうんと頷き、酒を飲み干した。