森の将軍
暫く森の中を二人で歩く。
森には人は多くないから、動物の声や鳥の声が静かに森に響いている。
リスや小鳥といった小動物も多く、見かける度にパパ、パパと服をひっぱるラバーを見て心が洗われるような心地と、まだまだ子供だなと思う俺がいた。
いつまでも可愛いままでいてくれ、そう思いながらも心配な事があった。
この森にはラバーと歳の近い人間がいない。
そもそも人口が多くない上に年配者が大半。若いと行ってもそのほとんどは成人を迎えているから、少なくとも十は歳の離れているから、ラバーにとってはそれが当たり前となっていた。
勉強なら俺が教えることは出来るが、これからの成長を考えると同い年と過ごす日々はかけがえのない経験である。
今からでも学校に行かせようかと何度も考えた。
でも、街に住むのは俺が嫌だし、かといって通うには子供の足では辛いものがある。
なんとも難しい問題だが、ラバーの将来を考えるのであれば、この問題はクリアにしないといけない。
考えながら歩いていると、ようやく岩場が見えてきた。
岩場の辺りは木々が少なく、小さな川が流れている。森の民にとっては数少ない水源の一つであるのと、魚も穫れるから所々に人がいるのが見える。
その中に、一人ぽつんと釣りをする老人がいた。
「ジェネラルおじいちゃん!」
ラバーが先に見つけ、とことこ走り出した。
「おい、足元気をつけろよ。」
川の周りは小さな砂利道で、体重を乗せると少し沈む。
心配とは裏腹に、ラバーは慣れた足取りで上手いこと走っていった。
ボロボロの麦わらぼうしを被り、擦れて薄くなったシャツを着た老人は、俺が来る何十年も前からこの地に住み、森へたどり着く者たちへ手引きをしている。
この森でジェネラルを嫌うものはいない。
そして皆、尊敬の念を込めてジェネラルと呼ぶ。
「ジェネラル、お元気でしたか。」
ラバーがパンの入った袋を渡すと、嬉しそうに手を合わせて受け取った。
髭は白く、長く垂れ下がっている。ありがとうなぁ、とラバーの頭を何度も撫でる。
「お前さんも、ラバーも元気そうじゃな。」
「おかげさまで。家のことはラバーも手伝ってくれるようになりましたので、だいぶ楽になりました。」
ほっほっほ、とジェネラルは笑った。
「早いもんだなぁ。こないだまであんな小さかったのに。」
「えぇ、毎日見てる俺でも驚かされますよ。」
俺たちが話始めると、ラバーには退屈だったのかジェネラルの竿をとり、一人で釣りを始めた。
俺もその場の石に腰掛け、ジェネラルに近況を話した。
新しい住人の様子や動物の数、街道から街の様子まで事細かに話をした。
ジェネラルは黙って頷き続けた。
話し終えると、ジェネラルはこれはどうか、あれはどうか、と俺が気づいていないところまで質問という形で教えてくれる。
そういった指摘は近いうちに危ないところだと長年の経験で分かっていたので、事細かにメモをとった。
一通り話し終わってから、暫くお互いに喋らない時間が流れた。
森の事以外であまり会話をしないから、何を話して良いのかわからない。
ラバーもとっくに釣りに飽き、砂利場で石を探している。
陽も落ち始め、鳥たちの鳴き声が響く。
そろそろ帰ろうかと思っていた頃に、ジェネラルは口を開いた。
「バルサン、ここに来てどれくらい経つ?」
「ええと、五年程ですか。」
「五年でここまでしてくれるか。」
珍しくジェネラルは小さく笑った。
「何をですか?」
「この森の事をさ。今夜時間はあるか?あるならわしの家に来い。ラバーは連れてくるなよ。」
「…わかりました。」
そう告げると、ジェネラルは荷物をまとめ、ラバーの下へ行った。
パンありがとうな、そんな事を言って頭を撫でていた。
帰るジェネラルの後ろ姿を見届けた後、少し考える。
ジェネラルにそんな誘いを受けるのは初めてだったからだ。
一体今更何の話があるのだろうかと。ただ、考えても分からないものは分からない。
ラバーも帰る頃だと察してこちらにやってきたので、手を繋いで砂利を歩いた。
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