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悪人の森  作者: 未开化人
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プロローグ

「…じゃあ、今日はこれで終わり。」

 書類を書き終え、グリッドはため息をつきながら判を押した。


 にしても今日は時間がかかった。


 昨夜、野盗に襲われ返り討ちにしたのを通りがかりの冒険者が見ていたらしく、俺が盗賊だと間違えられた上での尋問だった。

 現場だけみたらそうなのかもしれないが、これはちょっと傷つく。


 「にしても時間かかりすぎじゃないか? メシも一回しか出ないし、煙草も吸えないし。あ~あ、今日仕事になんないな。」


 背伸びする俺に、グリッドはため息をつきながら額に手をあて首を横に振った。


 「あのなぁ、バルサン。お前ギルドやめてからいい評判聞かないぞ。南の森で人を引き入れて何かやってるらしいけど。こう、月に何度もお前が運ばれてくると、いい加減俺も庇いきれなくなる。」


 そうは言うが、運んでくるのはお前らだろ。

 グリッドとは昔、ここでギルド職員をやっていた時の同僚。

 俺はクエスト斡旋担当で、グリッドは今と変わらず治安維持の担当。

 いくらか出世したみたいだが、俺がこうやって連れてこられると、毎回出てきて対応してくれる。大体世間話で終わるんだが。


 「わかったよ。てか、そもそも毎回盗賊と勘違いして連れてこられるだけなんだがな。」

 「そう見られる普段の行いだろ。」

 「そんな悪くないと思うけど。」


 勤めていた頃に比べれば、たしかに髭を伸ばし髪も放任していたから、怪しげに見えるのは仕方ないだろう。

 かといって、毎回盗賊と間違えられてギルドに連れてこられるのは、俺も堪ったもんじゃない。

 いくら住んでいる森が問題ある場所だとしてもだ。

 それに、森に盗賊が居たのはもう何十年も前の話で、今はそんな場所ではない。


 そいつは大盗賊ブリガン――今尚捕まらず、各地で残虐非道を繰り返し、奴が通った街には金目のものは一つも残らないという伝説は、俺も子供の頃に聞いたことがある。

 しかし、俺の知る限りそんな盗賊はもう森にはいないし、その噂もあって森にはあまり人が近づかないから、街で暮らせない連中が入り浸るようになっていた。


 まぁ、そういう意味では治安は悪く見えるかもしれないが、現実は違う。

 追ってこの話はするとしよう。

 

 暫くグリッドと雑談して、俺はギルドを出た。

 ギルドで飯は出してくれたので腹は減ってなかったが、帰り道にパンをいくつか見繕った。胡桃の入ったパン、後は最近出た白くて柔らかいパンも買っていく。

 しかし、街の風景は昔から変わらないな。

 中央にある時計台も古くなったが動いているし、店の並びも多少の変化はあるが、俺が働いてた頃と大差はない。変化がないというのはある意味成長が止まってしまった街ということでもある。

この街のこういうところはよくないとギルドの頃から話していたが、誰も理解してくれなかったな。

 まぁ、それも今となってはどうでもいい話か。

 

 乗り合いの馬車を見つけ、途中の森で降ろしてくれと伝えると少し嫌な顔をされた。

 いつもそうだ。

 なので、近くの街道まででいいと言うと、渋々了承した。

 馬車に揺られる事四十分程。少し昼寝をして丁度いい時間だ。

 「おい、着いたぞ。さっさと降りてくれ。」

 俺が降りるとすぐに馬車は出発した。

 少し道を逸れて森へ入る。少しの風でざわめく森は最初うるさいと感じたが、今はそうでもない。

 木々が生え、足元は不安定に根が飛び出ている。

 慣れた道を進み、いくつか曲がり、小さな湧き水の川を越えたところに、古い小さな小屋がある。

 それが我が家だ。


 「ただいまー。」


 扉を開けると、ぱたぱたと子供がこちらへ走ってきた。


 「おかえり、お父さん!」


 この子は俺の子。名前はラバー。

 金髪で癖のないストレート綺麗で、目は青く大きい。粗雑な森の俺には勿論全く俺に似てない。

 それはそうだ。

 ――この子は俺が森に住み始めた頃、先に住んでいた夫婦が捨てた子だ。

 父親はその筋では有名な強盗犯だったらしく、暫くしてギルドに捕まり、母親は子供を捨てて何処かへ行ってしまった。一人にしておくのは忍びなく、子供は育てることにしたのだが、まだラバーが三才の頃であったから、記憶に残ってないのが救いか。

 今や八歳になり、家事も手伝ってくれるようになって結構感動している。


 「ただいま、ラバー。いい子にしてたかい?」

 「うん!いい子にしてたよ!パパは大丈夫でしたか?」

 「あぁ、全然大丈夫。それと、はいお土産。」


 先程買ったパンを袋ごと渡すと嬉しそうに中を見始めた。


 「わあ!ありがとー!あたし、この甘いパン好きなんだ!」

 「あぁ、食べたらちゃんと片付けもするんだぞ。」


 やっぱり子供の笑顔はいいなぁと思う。

 袋をあさり、味のない柔らかいパンを小さな袋に移し替える。

 そこにラバーが作ったジャムの瓶詰めと、水の入った革の水筒を肩にかけた。


 「ラバー、父さんこれからおじいさんの所にいくけど、どうする?」


 テーブルに座って、パンを食べ始めたばかりのラバーはもごもごしている。

 半分程残して、ラバーも立ち上がった。


 「あたしも行く!」

 「じゃあ、荷物持ち手伝ってね。」


 パンの袋をラバーに渡して、俺たちは家を出た。

隔日連載していく予定です。宜しくおねがいします。

ちょっとグロいです。

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