漢への道のり それ、逆走してます
とある街に、美女と野獣と呼ばれる仲睦まじいカップルがおりました。厳つい顔に見事な筋肉を持つ彼氏と、モデルと言われても誰も疑わない美貌の彼女は結婚し幸せな家庭を築きました。
一年後に二人の間に産まれた男子はすくすくと育ち、父親似の見事な肉体美を持つ青年へと育ちました。
その二年後に産まれた男子も、長男と同様に固い筋肉を持つナイスガイへと成長しました。
しかし、更に三年後に産まれた三男は、母親に似た優しげな顔つきにしなやかな体躯を持つ美男子高校生へと成長しました。
男の服を着ているにも関わらず女性と間違えられ、ひっきりなしに男からプロポーズされ、女性から迫られたと思えば百合な人という始末。
頭があまり良くない三男には、打開策が見当たりません。鍛えようとしてもすぐに息があがり、筋肉が全くつかないのです。
悩んだ三男は考える事を放棄し、隣家に住む頭のよい幼馴染みの少女に助けを求めました。
「なあ、どうしたら兄達のような立派な漢になれるか教えてくれよ」
三男に仄かな恋心を寄せる少女は一計を案じ、三男改造計画の監督を務める事にしました。
「もうすぐ夏休みだから、集中して特訓するのよ。私の指示に従えるのであれば協力するわよ」
三男は即決で従う事を誓い、夏休みに入ってすぐから三男改造計画がスタートしたのでした。
「まずは体を鍛える事。初めからキツイのは逆効果だから、日舞を習ってもらうわ。舞は武に通じるのよ!」
漢になりたい三男は、一生懸命日舞の細やかな動きを習得しました。
「次は言葉遣い。本当の紳士は、丁寧な言葉遣いを心掛けるものよ。粗雑な言葉を使うのは、漢ではなくて野蛮人よ」
少し疑問を持った三男でしたが、従うと約束した以上、それを破るのは漢らしくないと従いました。
「次はお料理。今の時代、料理系男子は人気があるのよ。漢の中の漢は、女子にモテるのよ!」
ネットのレシピや買い込んだ料理本により、三男はクッキーから満漢全席まで作れるスーパーシェフへと変貌を遂げていました。
「それと、髪を伸ばすわよ。丁寧に洗って、髪質にも拘らないとダメよ」
「髪は短い方が漢らしくない?」
流石に反論する三男ですが、頭のよい少女は説き伏せる材料を用意していました。
「中国の武人は、殆どが長い髪を三つ編みにしているでしょう。古代ヒッタイトでは、その中に武器を隠したそうよ。戦いの時に急所である首を守る意味があったそうね」
戦闘に利点があると説かれ、三男は髪を伸ばす事にも同意しました。
「次はお茶よ。茶道を習いましょう」
「それは何の為に?」
「戦国武将は茶道を嗜んでいたでしょう。漢になるならば、お茶の嗜みくらいないとね」
日舞で着物を着た時の所作を覚えていた三男は茶道も驚くべき早さで習得し、繊細な動きに更に拍車がかかりました。
そして夏休みが終わりに近付き、三男改造計画は終盤となりました。
「素質は凄いと思っていたけれど、ここまでとは思わなかったわ」
少女の前には、扇を持ち艶やかな舞いを見せる立派な男の娘がおりました。
「ねえ、僕、立派な漢になれたかなぁ」
「大丈夫、どこからどう見ても立派な男の娘よ!」
この時、三男は幼馴染みの少女に騙された事を悟ったのでした。
「そ、そんな、話が違います!」
「大丈夫よ。責任を持って私がお嫁に貰ってあげるから」
「えっ、ちょっと・・・アッー!」
数年後、幸せそうなお嫁さんとお嫁さん以上に美人なお婿さんか結婚式をあげたそうです。
めでたしめでたし。・・・なのかなぁ。