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作者: ゆえ

ある日は、俺は空を飛んで、大気圏を突破した。

ある日は、俺は手から炎を出して目の前のドラゴンを倒した。

ある日は、俺は絶大な美女(片思いしている子だった)とキスをしていた。

ある日は、道端に捨てられた猫だった。

ある日は、囚われた監獄から脱獄する囚人だった。

ある日は、狂った奴(まさかの上司だったが)に刺殺された。


いつも目が覚めて、こっちが現実なんだとガッカリする。

俺の見る夢は、つまらない日常を吹っ飛ばしてくれる薬みたいなものだ。

平凡な毎日。起きて仕事に行きくだらない時間を過ぎて帰宅し、寝るの毎日。

いつも、そっちに行きたいと手を伸ばして、掴めない。

夢のように自分がヒーローになる日がくると信じてもういい歳になってしまった。

すでに同期の奴らは家のローン、昇進の話、子供の話をするが、俺はどこにも存在しない。

存在しないならば、俺が見ている夢でも変わりはないだろう。

今日もつつがなく仕事を終えて、定時で帰宅。

帰り道でいつものコンビニに入り、いつもの弁当といつものビールを一本手に取る。

家に帰ってTVをつけて食べて、寝る。

そんなくだらない日常から抜け出す為に、俺は目を閉じる。

今日はどんな事が待ち受けているんだろうか?眠りに落ちる直前まで惰性でやっているスマホのゲームの夢かなと思いながら意識が途絶えた。



「目を開けて!!」

普段聞かない女の叫ぶ声にうっすらと目を開いた。

そこには、泣きそうな顔で俺を見る赤毛の切れ長な美人がいた。

目の色は透き通るような綺麗なブラウンアイでまるで今話題のハリウッドの女優のようだった。

見とれたが、寝ている自分に覆いかぶさるように彼女がいるので驚いて上体を起そうと動くと何か激痛が走った。珍しい。夢なのに痛みがある。体全体、特に頭が酷く痛む。

何とか目を完全に開くと、左腕が血に塗れていた。白い服を着ているが、左側全体がほぼ赤く染まっている。右手もしびれるような痛みで動かせない。

「・・いてぇ・・。」とだけ言うのが精一杯だった。

どうやら、左手が肩口から肘あたりまで切れているらしい。

「大丈夫?ダイチ?」と俺を起こした女が心配そうに顔を覗き込む。

「いや・・・結構痛い。イザベラは?」俺の口から自然と出た。

どうやら俺を心配そうに見ている女はイザベラと言うらしい。夢ではよくある事。台本のない映画の中にいきなり入れられたような事。自分はその役になりきって演じればいいだけの事だ。

「ああ・・・ごめんね。上手く助けられなくって。でも頑張ったの。あたしも。ラボの中にいるダイチを探すのが時間かかっちゃって・・・。無理矢理やったから後遺症が少しでるかもしれない・・・」と涙目になりながらイザベラは言う。

「おいおい、物騒な事言うなよ・・。」と言うと回りを見渡した。

病院のような白一色でまとめられ、うっすら塩素特融の香りがする。

俺の体が触れている部分も白い滑るようなタイルで出来ていて、俺の赤い血がそこだけ赤く染めている。

すぐ横にある円形状の大きいカプセルのような機械の蓋になっていたであろう物が粉々に吹っ飛んで割れていた。

落ちているコードも切り裂かれていて、モニター画面には赤い警告のような表示が出ているが、そこには見た事のない文字が並んでいる。状況から察するに、イザベラはこの機械をぶっ壊して俺を引きづり出したって事か。

よく、ゲームで見たラボってヤツだとう。って事は病院か何かの施設か。って事は今回の夢はなんだ?ホラー?脱出系か?少し考えているとイザベラが壁を背にして座っている俺に抱きついてきた。

激痛が走って顔が歪む。

思わず小さく呻くと「あっ!ごめん・・・」とイザベラが少し力を緩めた。

「やっぱり、少し後遺症が出てるね・・。結構長くトリップしてるから心配してたんだよ。全然出てこないから皆で心配して、助けにきたの。本当に大丈夫?」と鼻先が触れるほどの距離でイザベラが言う。

正直俺の人生の中でこんなに綺麗女が近くにいた事がない。少しだけ嗅いだことのない香りがするが、漫画とかで言う「引き込まれそうな瞳」とはこの事なんだなとしみじみ思った。


「・・夢にしてはリアルだな・・」と呟くとイザベラが目を見開いた。

「・・やっぱり、覚えてないの?」と悲しそうな瞳で言う。

悲しそうな表情もまた、綺麗で痛む左手を彼女の顔に当てた。

彼女はその手を払う事はせず、受け入れる。少し嬉しそうな表情になった。

「ダイチ。。。。」と呟く。これは、映画とかで見るいいシーンなんじゃないか?

俺は激痛がする物の、ちょっと期待して体を起こそうとした。


その時、イザベラの後ろで人影が見えた。

よく映画で見る迷彩服を着て拳銃を持ったガタイのいい男だった。

「そこにいるのは誰だ!?手を頭の上に置け!!」と叫ぶ。

「あ、イザベラ助かったよ・・」といい終わらないうちに彼女の表情が変わった。

俺を見る優しい瞳から、鋭い目つきに。

素早く、背中から取った拳銃が炎を吹いた。ガーァァァン!!!銃声が響く。

俺は思わず耳を塞いで蹲った。何が?何が起きた?恐る恐る顔を上げるとイザベラが銃を背中に戻し、さっきの人だった物を見に行く。

「・・チッ。見つかったか・・」と人だった物を引きずって、俺の前に放った。

額に空いた穴から赤い血液と他の物が流れるのが見える。胃から込み上げる酸味がある液体を俺は吐き出した。最後まで出すと、目の前にはイザベラの足が見える。

顔を上げるとさっきの鋭い目のイザベラだった。


「本当にダイチ?それとも長く眠りすぎて忘れちゃった?私達madmoonの事・・・。」とさっき人だった物に向けた銃口が今度は俺に向いた。

「・・イ・・ザべ・・ラ?」と涙目の俺が言う。彼女の瞳は鋭いままだ。何かを求めるように、縋るような感情を感じる。

「ダイチ・・・、政府に捕まってラボで眠らされてて、強制的に夢を見させられてたと思うの・・早く、起きてよ・・。私達のダイチに・・。起きないなら捕まる前にダイチが言ってた事を実行しなきゃいけなくなっちゃう・・・」とイザベラは涙ながらに言う。

「・・・俺が、言った事?・・・」ようやく声を絞り出す。遠くで爆発音が響く。

建物自体が揺れる。響き渡る銃声音、悲鳴。

「・・・そう。ダイチ言ったよね?捕まった俺を助けに来い。もし、その時、俺がお前の上に立つ人間じゃなくなってたら、俺を殺してお前がmadmoonを継げって。」

頭が痛い。涙が出る。イザベラの声が遠のく。目の前には銃口。彼女の瞳は優しい。銃を握っている指に力が籠められるのがわかる。

目が飛び出そうな程、頭が痛い、割れる。こんな痛みは味わった事ない。

いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい




どっちが夢なんだ?


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