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第230夜 毒蜘蛛との戦い

 “黒死の毒蜘蛛(タランチュラ)”は巨体であるあやかし政宗を背に乗せても何ら動じない程に大きく、楓達にとっては正に怪獣そのもの。その体長は言うならば高層ビル群を遥かに凌ぐ。街中にもしも出現すれば一瞬にしてパニックに陥るであろう。真っ黒な身体に蜘蛛と何ら変わらぬビジュアルだが、大きな8本の脚1つ1つが彼女達の体長を遥かに超えているのだから。更にそこから続く胴体は黒光りし厚い甲冑の如く覆われた鋼甲体。全身を硬い甲羅の如く覆っている。

 そしてその頭は目の前に立つ155㌢の小柄な鬼娘を見降ろしている。黒光りする両眼で。

 楓はそんなドでかいあやかしを前にしても怯む事はなく、寧ろ怒りで蒼い鬼火を全身に纏っていた。

 「クソがっ!こんなモン呼びやがって!ブチ殺してやるっ!!」

 夜叉丸にまでも怒りの蒼い鬼火は纏う。

ゴォォォッ……と、燃え盛る炎の刀を握り締め楓はやはり特攻隊長ーー。だんっ。と、地を蹴り上げ跳び上がり大きな黒蜘蛛の頭目掛けて突っ込んだ。

 その線上ーー、背に乗り仁王立ちしてる政宗と眼が合う。

 「だからムダだって言ってんだよ?修羅姫(しゅらき)。」

 にやり。と、その次には政宗は口元に笑みを浮かべた。

途端に、グワッ!と、黒蜘蛛は大きな身体を半身上げ前脚を振り上げた。

 「!」

 楓は真向から突っ込んでいる、そこに巨体は半身立ち上がり大きな前脚2つを振り上げ、楓の身体を突き刺そうと2つの前脚を振り降ろしたのだ。

 「楓!」

 葉霧がそれに気付き咄嗟に放つーー。

 「“破光”っ!!」

両手を黒蜘蛛に向け白い波動を放ったのだ。

 カッ!!

 「!」

 楓は背からその白き力が放たれた事に気付き、咄嗟に振り下ろされた黒蜘蛛の右脚を蹴り付け、上へとジャンプした。彼女の鬼としてのポテンシャルは戦いの中で発揮される。白き力に巻込まれれば彼女とて傷を負う。それは退魔師の力だから。

 なので、葉霧は名を呼び自ら力を放つと伝えたのだ。

 回避したその足元を葉霧の放った波動は真っ直ぐと黒蜘蛛に向かって飛ぶ。

 白い眩い光線の如きその力は。

 「グギャァッ!!」

波動は不意討ちの様に黒蜘蛛の顔面に直撃し、カッ!!と、、、更に閃光放った。同時に呻き声を上げながら半身上げたまま黒蜘蛛は仰け反る。大きな身体が反り返るが、チッ。と、背中に乗っていた政宗は舌打ちし、黒蜘蛛の背中を蹴り上げ少し浮かぶと仰け反る黒蜘蛛の大きな頭を右脚1つ、黒い下駄を履いた足裏で蹴り付けた。

 ドカっ!と、、、。

まるで反り返り倒れそうになったその身体を元に戻す様に。

 後ろから蹴られた黒蜘蛛は完全に蹌踉めきつつも、反返るのを免れ大きな前脚を両、地面に着けて体制を整えたのであった。

 政宗は黒蜘蛛の背に着地しながら言う。

 「弱過ぎ。今度ブっ倒れそーになったら俺が殺してやるよ。」

 白き光で顔面焼かれ、硝煙上げながらフー……フー……と、黒蜘蛛は荒い息を放っていた。

 楓は宙から降りながらその様子を眺めていた。

 (葉霧の力で消えねぇってことは……やっぱ“魂”狙うしかねーか。)

 そう思いながらたんっ。と、地面に着地する。

白き力で顔面を半焼にされた黒蜘蛛は、硝煙上げつつも口元を大きく開いた。

 シャーッ!!

目の前に立つ楓目掛けて放たれるのは、1本1本が銀色の棘で出来た蜘蛛の糸である。

 それが何重と大口から放たれ楓を捕えようとして来たのだ。

 だんっ!

楓はその糸が自身を捕えるよりも速く地を蹴り上げ跳び上がり躱す。シャーッ!!それを見て荒れ狂う様に黒蜘蛛の大口は楓を追い、まるで咆哮の様に蜘蛛の糸を放っていた。

 「!」

 葉霧は楓が居なくなった地面に広がる蜘蛛の糸を見据えた。螺旋を巻き貼り付く様なその銀色の蜘蛛の糸を。それはジュウゥ……と、地面を硫酸の如く溶かしていた。直ぐにその目線は宙で身を翻し飛びながら、その蜘蛛の糸を躱す楓に向く。

 そして声を張り上げた。

 「楓!触るな!触ればお前を溶かす!」

葉霧はそう言いながら右手に白い光を溜めている、そして向けるのは黒蜘蛛だ。

 「!」

 楓は、その声にハッ。とした顔をしつつ既に降下していた。たんっ。と、地を蹴り、空を舞う。

 蜘蛛の糸から逃げながらその声に地面を見下ろした。

 ジュウゥ……。

地面に広がる螺旋巻く蜘蛛の糸は言う通りに地を溶かしていた。

 (まじか。アレは幾らオレでも溶けるかも。)

 地面が一瞬にして真っ黒な焦土の様になり、ボロボロと崩れてゆくのを見て楓はそう思ったのである。

 「何してやがるっ!さっさとあの鬼娘を捕らえろっ!!」

怒りに満ちた声を発したのは政宗だった。

 その一声に、、、黒蜘蛛は楓に向けて蜘蛛の糸を乱発し始めたのだ。

 シャーッ!シャーッ!シャーッ!!

それは四方八方にまで飛び、空中、地面と楓が行く末を追い掛ける様に放っていた。

 葉霧は眉間にシワを寄せる。

 (くそっ!楓もそうだが……あの蜘蛛も速過ぎて追えない!照準が合わない!)

 それを見ていた“地のヌシ”が秋人の肩の上で言う。

 「何をしておるのじゃ?退魔師、さっさと消してしまえば良かろう?」

 “九雀(くじゃ)”が言うと葉霧は宙で旋回しながら蜘蛛の糸を躱す楓を見上げたまま言った。

 「あの黒蜘蛛の“魂”はアイツが吐く“蜘蛛の糸”の中にある。しかもガチャの如く。」

 は??と、、、九雀だけではなく誰もが驚いた。

 「おい……まさか、当たる確率とか言う感じ??」

灯馬がそう言うと葉霧は言った、蜘蛛の糸を追いながら。

 「タランチュラが放つ蜘蛛の糸の中に紛れ込んでいる。その糸だけ蒼く光る。それがアイツの“魂”の隠し所、だが速過ぎて追えない。見つけて捉えた時には消えてる。」

 は??と、灯馬は目を見開く。すると、秋人が言う。

 「なん?それ、一生当たらねぇ宝くじかよ?」

 「いや……、秒で消えるお助けエンジェルだよ。」

と、夕羅が言うと秋人は、は?と、眉間にシワ寄せた。

 「ゲーム路線ヤメろ、俺は解かんねぇ。」

あ。ごめん。と、夕羅は即座に謝った。

 つまり?と、灯馬は言う。

 「その“魂隠してる蜘蛛の糸”とやらをなんとかしねぇと、あの毒蜘蛛は死なねぇと?」

 ああ。と、葉霧は頷いた。彼は話ながらもずっと楓と、黒蜘蛛の動向を追いつつ白い光を放ちながら右手を向けている。何度かに1度、蒼く光る蜘蛛の糸を追って。

 「憤慨。」

 と、、、ここで鎮音が言った。

 「え?」

 夕羅が耳を傾けると鎮音は言う。

 「あの黒蜘蛛を憤慨させ暴走させれば力を無駄に放出するだろう、なれば魂も現れる筈。」  

 すると、秋人の右肩に乗っている金の錫杖を持った地のヌシ九雀は言う。

 「鎮音とやら……、ならば翻弄するしかあるまいて。」

 「ああ、同意見だ。」

 九雀の言葉に鎮音が頷いた時だった。

荒れ狂った様に地、天へと蜘蛛の糸を吐き出す黒蜘蛛から逃れていた楓が地に足を着け夜叉丸を握り構えたのだ。

 「逃げ回ってんのは性に合わねぇんでな、いい加減イラつくんだよっ!!」

 ゴォォォ……。

全身……夜叉丸巻込んで大きな蒼い鬼火を纏う。

 グゥゥ……。

大きな頭を目の前の楓に向けるのは黒蜘蛛であり、その口からは何とも警戒してる様な低い声が呻く様に響く。

 楓は黒蜘蛛を睨みつけ、だんっ!と、勢い良く地を蹴り飛んだ。真向から黒蜘蛛の頭目掛け突っ込む。

 「“蒼炎刃(そうえんじん)”っ!!」

両手で握る夜叉丸を大きく降り下ろす。

 ギャオォオンッ!

 まるで何かの咆哮の様な吠声が響く、それは風を斬る剣圧から来る音であり同時に蒼い鬼火を纏った炎刃が黒蜘蛛に放たれる。

 黒蜘蛛は目の前に飛んで来る蒼い炎刃に目を見開き、直ぐに身体を半身上げ両前脚を上げた。

 黒蜘蛛の両の前脚が黒く光る、禍々しい光が放たれると楓の放った鬼火の炎刃を受止めるかの如く大きな銀色の蜘蛛の糸が出現する。それは黒蜘蛛の身体を護る盾の様に大きな蜘蛛の糸であった。

 「!」

 楓はチリ……っと炎刃で焼かれつつも蜘蛛の糸が防御した事を知り、眉間にシワを寄せた。

 蜘蛛の糸は結界の如く楓の炎刃を防ぎ、シュゥゥゥ……と、傷1つ受けずに鎮火させたのだった。

 ギリっ。と、楓は奥歯噛み締め怒鳴った。

 「クソがっ!」

憤怒した楓は直ぐに夜叉丸を握り締め地を蹴り上げ突進しようとしたのだが、そこに待ったをかける声が響く。

 「楓!落ち着け!闇雲に飛び込むなっ!」

 葉霧の声であった。は??と、楓は直ぐに地に両足着け振り返る。

 「なんで!?だって倒さなきゃなんねーでしょうがっ!?」

 楓は理解不能と言う表情でそう物申すが、葉霧は冷静だ。穏やかな口調で返した。

 「倒すには“魂”を破壊するしかない、退魔の力で消えなかったと言う事はそう言うこと。楓、お前の力も通用しない。現段階で格上だ、それを察しろ。」

 「………っ!」

 楓は葉霧の声は穏やかで柔らかいがその眼差しはとても厳しく、強いのを知り何も言い返せなくなってしまった。

 そんな2人の遣取を見て九雀は、ほぉ?と、目を丸くした。

 (少し前まで“力無し、能無し”と言われてた後継者とは思えぬな。瞬時に力量の差を悟るとは。“黒蜘蛛”は“女郎蜘蛛”、“土蜘蛛”らを制圧するあやかし、幾ら鬼娘とは言え簡単には倒せぬ相手、それを見抜いたか。)

 彼は葉霧を眺め少し感心した様な顔をしていた。

 「じゃーどぉすんのっ!?このまんま逃げ回んのかよ!?」

楓は頭に血が昇っている。悔しくて仕方ないのだ。

 「だから魂を消すと言ってる。」

 葉霧は静そのものである。憤慨してる楓に言葉を荒げる事もなく寧ろ宥める様に伝えたのだ。

 だが、楓はその沈着な態度が気に入らないのか、はたまた堪に触ったのか夜叉丸を右肩に乗っけながら鼻息荒く言った。

 「だぁから!その魂ってのはドコにあんだよ!」

 「見つけてある。」

 「は??だからドコっ!?」

怒鳴る楓に、ふぅ。と、葉霧は息を吐き構えていた右手を降ろしながら言った。

 「ちょっと来い。」

 「は??」

 「いいから来い。」

なんだよ。と、楓はブツクサ言いながら葉霧の元に行く為に、地を蹴り上げ浮かんだ。

 その間にちらっ。と、背後の黒蜘蛛を見てにやっと意地悪く笑う。黒蜘蛛の前で蒼い炎刃を消し去った蜘蛛の糸は無かった。

 「隙きアリ!喰らいやがれっ!!」

 ゴォォォッ!!

未だ燃え盛る蒼い鬼火纏う夜叉丸を下投げの如く振り上げたのだ。空中で身を瞬時に反転させ黒蜘蛛に向き合う様にしながら。

 「“蒼炎翔(そうえんしょう)”っ!!」

 疾風の如く……蒼い鬼火纏う炎刃は、トルネードの様に渦を巻きながら飛んでゆく。

 グアッ!!

黒蜘蛛は自身に向かって飛んで来る旋回する炎刃に大きく口を開いた。

 シャーッ!!

 放たれるのは銀色の蜘蛛の糸である。

そしてそれは蜘蛛の前に膜を張る様に宙で張り巡らされ、楓の炎刃はぶつかる。

 が、直ぐに……シュゥゥゥ……と、、、またもや鎮火してしまうのだった。

 クソっ。と、楓は悔しそうな声を溢した。

 「……………。」

それを見ていた葉霧の右顳かみに、ピキィと……青筋は浮かぶ。自然と穏やかな目元が険しさを滲ませた。

 「バカ女。」

 ぼそっと葉霧は呟いたのであった。     

     

   

    

     

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