表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/71

第227夜 玖硫鎮音の誤算

 玖硫葉霧(くりゅうはぎり)は淀みの地で退魔師の力、白き光に包まれながら空中に浮いていた。そして目の前には“政宗”と言うあやかし、更に“紫鳳(しほう)”と言うあやかしが居る。

 更に彼は聞いた。

 『政宗!鬼娘を捕らえろ!』

紫鳳がそう怒鳴った声を。

 政宗と対峙しているのは鬼娘楓である。

 「捕える?」

葉霧の碧色に煌めく眼が紫鳳を睨みつけるが、直ぐに楓の怒声が響いたーー。

 「は?オレを捕えるだと?ナメてんのか?てめぇら。」

楓は直様に愛刀である夜叉丸を両手で握り締め政宗、紫鳳を睨みつけたのだ。

 「…………。」

その状況を見ていた玖硫家現当主、葉霧の師匠であり祖母の“玖硫鎮音(くりゅうしずね)”は険しい顔をしていた。

 むぅ。と、眉間にシワを寄せ、自分たちよりも到底巨体のあやかし2人を見据えた。彼女の眼も退魔師一族の証の如く“碧の光”をライトの様に神々しく光らせている。その両眼が細まる。

 (紫鳳は元“銀狼”。その力は土地神……ヌシの“妖狐釈離(ようこしゃり)”と同等と言われていた、だから私は追い詰め殺しはしなかったが瀕死に追い詰めた。その後、生き延びる為に逃げた先が幻世(うつせ)……。間違った、私は。あの時に殺しておくべきだった。)

 今は銀狼の姿などしておらず、容姿は人間である。が、巨体で軽く4㍍は越えているであろう。そして、その前で楓と対峙しているもう1人のあやかし“政宗”に眼を向けた。

 (コイツは元土地神……つまりヌシ。逆上しその象徴とされる深紅の眼になっておる。はぁ、、、まさかこんな者までもが沸いて出て来るとは。これは完全に誤算、過去の我等退魔師の怠慢が産んだ強敵、、、それをまだ力を目覚めさせたばかりの孫……葉霧に押し付ける事になるとは………。)

 ぎゅっ。と、、、鎮音は両手を強く握り締めた。

 (今の私では倒せない。かと言って鬼娘に頼るのもそれまた違う話。そもそもこれは我等退魔師達が犯した大罪……、螢火(ほたるび)皇子(みこ)の様に先見の眼がなく、保身に走った代償。平和ボケした我等一族への返事。此処は……私が逝くしかあるまい。いや?それだけの力を放たなければ此奴らには勝てない。そして、この先にはまだ居る、、幻世にはこの2人よりも強大な力が待っている。)

 ちらっ。と、、鎮音は葉霧、そして楓を見た。勇ましい2人の姿を。

 (護らねば。この2人を。何があっても。私にはその責任がある。いつかこうなる時が来ると読めなかった私の甘さ、そしてそんな事にはならないと油断していた。私は……当主として……螢火の皇子の後継者としては不出来者と言うこと。ただ、それだけ。そして……葉霧を護る楓を少しでも拒否するべきだったと思った私はもう既に………。)

 鎮音は思うと直ぐに目を閉じた、そして全身に葉霧よりも大きく強い白い光を放ち始めた………。

 (私は……愚か者だ、、、何処かで螢火の皇子が贈り者としてこの時代の為に遺した鬼娘楓の存在に安心し、頼っていたのに。そしてそれを大切な者として囲う葉霧に安堵していたのに、けど

、そう、、、私にとって都合がいいと。何処かで思っていたのかもしれない、今思えば。何と浅ましい人間なのか……私は。)

 鎮音はそう思いながら“生命”を燃やす様にその全身に白い光を放っていた。

 「……鎮音さん?」

葉霧はその異様な膨大な力の放出に不穏な感じがし、名を呼んだ。鎮音はちらり。と、空中に浮かぶ葉霧を見上げ微笑んだ。とても優しい笑みを浮かべた。

 「!?」

葉霧はその表情に一瞬にして顔が強張った。が、、鎮音は微笑んだまま言った。

 「悪かったな、葉霧。お前を結果……苦しめる世界線になってしまった。だが安心しな。ここは私が責任持つ。」

 そう言うと葉霧から目線外し、、、政宗と紫鳳を見据えた。その表情は険しく歪む。

 (死に損ないは貴様らだ。お前達は私と此処で終わる、悪く思うな……銀狼、元土地神、逃してしまった退魔師達……そして、銀狼に至っては私。その罪を今、償わせて貰う。この私の生命を賭けて。)

 鎮音は両手を突き出し2人に向けていた。葉霧はその様子に楓を見て言った。

 「楓!お菊とフンバを連れて来て欲しい。」

名を呼ぶ声こそ強かったが最終的には穏やかな口調だった。

 「へ?は??今!?や?つか、、、ばーさん大変な感じじゃね!?」

 楓は鎮音の様子が可怪しいと察していた。だから葉霧の言葉にとても驚いたのである。が、葉霧は静かに穏やかな口調で言った。

 「頼む、2人をこの場に。」

葉霧の声は静かだったが、その眼差しは強く……、

 「…………っ。」

楓は何も言えずであり、、、黙ってその地面を蹴り上げ2人の前から飛び立った。

 ふぅ。と、、、息を吐く……心を鎮めるかの様に。が、楓が居なくなると葉霧の眼は鋭くなった。白い光に包まれ何やら力を放出させようとしてる鎮音を見降ろしたのだ。

 「それで?何をしようとしてます?鎮音さん。」

とても冷たい口調で彼は言ったのだ。そして、、、ふわり。と、空中から降り地に足を着けたのであった。

 「……………。」

鎮音は葉霧の声に、フッ……と、諦めた様な笑みを溢した。

 (ああ……何処までも忌々しく優しい孫だよ、お前は。だから……切れない……、私の弱さだな。)

 葉霧の察しの良さ、敢えて楓を離れさせ2人での対話を望む感じ……全てに鎮音は……参ったのだ。

 はぁ。と、、、鎮音は溜息溢してから両手を降ろした。白い光は全身を纏ってるがその力は少し弱まり、生命賭けて放出しようとした力は弱体化したのだ。

 鎮音はくるりと振り向き葉霧を見た。

 「先に言っておく、私はあの紫鳳と言う者を知っている、奴は私が若い頃に出遭った銀狼だ、人間を喰い殺しているあやかしで私に退治の依頼が着た。」

 え?と、葉霧が聞き返すと鎮音は少し戸惑った顔をして言った。

 「何十年も前の話でその頃はあやかしが普通に現世で人間を襲う時代だった、現世に棲むあやかし達は今の様に潜む事はせずその力を存分に使い人間を喰い散らかし自由に生きて居た、私達退魔師も多く存在していて、霊能者や退治屋なんかも居た時代だ。そんな中で私はこの紫鳳と言う銀狼の退治を依頼されたんだよ。」

 鎮音が言うと葉霧はちらっとラベンダー色の髪をしたあやかし紫鳳を見た。

 「……銀狼?とてもそうは見えないが……。」

紫鳳は巨体を黒い着物で覆ってる人間と大差無い容姿した男である、何なら美麗な顔立ちをしている。ラベンダー色の髪は長く腰元まである。

 「どうやら……その後、幻世に行ったらしい。そこで“妖術使い”に会い姿を変えて貰ったらしい、銀狼のままでは都合悪かったのかは知らん、が、アイツは私が逃したあやかしである事に変わりは無い。」

 !?

葉霧は目を見開いた。

 「逃がした?」

 「言いたい事は解る、、、解っておる。私の甘さが招いた結果がコレと言う事も。」

 葉霧は…………。押し黙る。少し思考は停止していた。すると、鎮音は、はぁ。と、溜息つき項垂れた。

 「私は信じたんだ……、アイツが謝罪し改心した態度を見せたから。変わってくれるなら。と、、、若かった……甘かった……、見抜けなかったんだよ、アイツの“体裁の良さ”に。だから私は逃してしまった、滅せず……リスタートの機会を与えてしまった。」

 はぁぁ。と、鎮音は頭を抑えた。

 「今は激しく後悔しているよ、、、何十年も経ってからこうしてまた……敵意示して来るとは思っても居なかったから。それも、お前や楓達を殺そうとして来た。」

 ああ……なるほど。と、、葉霧は鎮音を見た。そして、彼女の項垂れた姿を見て強い眼を向けた。

 「それで?過去の負債を滅しようと生命捨てるつもりで?それこそ保身だろ?鎮音さん。自分はスッキリ解決かもしれないが、遺された俺達は何を思うと?楓、お菊、フンバは?同じあやかしとして彼女達の心に大きな傷を負わせる事になる。違うかな?」

 !!

葉霧の言葉に鎮音は顔を上げた、葉霧はとても優しく……だが強く自身を見ていた。鎮音はその眼差しに、ああ………と、、、力無く返事をし項垂れたのだ。

 「…………。」

葉霧はそんな鎮音を見つめていた。

 (鎮音さんは本来ならとても温情あり熱い人。只、俺、玖硫一族に関する事になると極端に冷たい人間になる。それは、俺や玖硫一族を護ろうとするから。その念が強過ぎてこうして自分の生命を軽く見る傾向にある……、そんな事を誰も願ってない事をこの人はずっと気が付いてくれない。)

 葉霧がそんな事を思っていると、背後に気配を感じた。

「連れて来ましたけど!?」

 地に降り立ったのは楓だった、、、しかも彼女はとても不貞腐れた表情をしており、その左脇にはお菊を抱え右肩にはモグラのフンバを乗せていた。フンバは楓の肩に立って乗っており蒼い髪した頭に掴まっていた。そして、、、きょとんとした顔で言う。

 ああ……と、振り向いた葉霧に。

 「葉霧殿??アッシらに何用で??アッシらはどっちか言うと……水月殿達をサポートする立ち位置かと思ってたんスよ、けど、あの水竜がそれは違うって言い出しましてね?」

 と、、、何やら憤慨しているモグラのフンバに、ん??と、葉霧は片眉吊り上げたが言った。

 「少し待て、そのハナシは落ち着いたら聞く。それよりもお菊、フンバ、お前達はあやかしの事を知ってるよな?それなら、あの政宗と紫鳳については何か知らないか?」

 え??と、、、フンバは驚いた顔をしたがお菊は楓から地面に降ろされながら言った。

 「あたしはあの“政宗”なら解る、アイツは元ヌシ。あたしが良く薬草採りに行ってた山……“迦羅(から)の森”のヌシだったから。あたしの事を覚えてるかどうかは解らないけど、何度か遭遇したことあるよ?護身の姿でいっつも金色に光ってる鬼神だった、今みたいな(やから)じゃなくて……もっと神々しい感じだった。」

 え?と、、、楓と葉霧は同時に聞き返していた。

お菊は、う〜んとね?と、、、黒髪おかっぱの頭を少し傾げながら言った。

 「迦羅の森にはヌシが2人居たんだ、政宗が護るその森を生やしてる山自体のヌシも。山の名前は“双樹山”って言ってヌシは、“大和の主”って呼ばれてた。でもごめん、あたしそのヌシには会ったこと無いんだ。その双樹山もいつの間にかトンネル開発で削られて無くなっちゃったし、、、同時に政宗の護ってた迦羅の森も同じ様に削られて消えた……、だから棲家を奪われた土地神なのは確かだよ。」

 お菊が言うと楓はあー。と、強く頷いた。

 「猿のあやかし“亜里砂”と一緒じゃねーか、アイツも元ヌシだがその山を開発とかで削られて棲めなくなったんだよな?あー、つまり?政宗も棲地奪われたってこと?」

 うん。と、お菊は頷いた。

 「そう、で、棲地失くしたヌシがその後取る行動は2つ。1つは別地目指して大人しく退散する、で、2つ目は荒れ狂う。つまり、自分の棲む地を奪われた事にキレて暴れる……、多分、退魔師が動いたって事は政宗は暴れたんじゃないかな?それで、依頼されたけど……その依頼された退魔師は適当な対応しかしなくて結果放置した感じ?だから政宗はこーやって生きてる。」

 葉霧はそれを聞き鎮音を見た。

 「それが過去の怠慢だと?」

 「恐らくな。私はすまぬがこの政宗に関しては知らぬ、只、気配は解る、隠していても。ヌシは特有の気配がする。それが元であっても。それにあの深紅の眼だ。あの眼は所謂象徴でもあり、“妖力増幅装置”でもある。それは我等玖硫一族も同じ。」

 え?と、葉霧が言うと鎮音は葉霧の眼を人差し指で指し示す。

 「その碧に光る眼だよ、それは我が玖硫一族に継がれる力の源であり象徴、同じ様に土地神……ヌシ達もそうだ。彼等は力と土地を受け継ぐ時にあの深紅の眼も象徴として受け継ぐ。」

 葉霧はそれを聞き、ああ。と、頷いた。

「言われてみれば……ヌシ達はみんな深紅の眼をしていたな。」

是迄、出逢って来たヌシ達の事を思い浮かべた。そして、政宗を見据えた。

 「てことは?あの政宗と言うあやかしは元ヌシ、つまり……過去の因縁から暴走してると言う事か。」

 そして葉霧は右手を握り締めた。強く。

 「それなら遠慮は無用、慈悲も温情も必要無い。楓、構えろ、あの2人を滅する。」

 ポウっと、、、右手に白い光が集まり始めた。楓は、少し驚いたが葉霧の退魔の力が放たれるのを見て、ふん。と、軽く鼻で笑う。

 「待たされ過ぎてくそダルいっつーの!いーか?葉霧!今度は待ったナシでオレは突っ込むからな!!」

 彼女は言いながら夜叉丸を両手で握り締めた。フッ。と、、葉霧は笑う。

 「ああ、いいよ。此処で殺しておく、あの2人は。」

その声で……、葉霧、そして楓は政宗、紫鳳に向かって駆け出していた。

 そしてそれを見て鎮音はお菊、フンバに叫んだ。

 「お菊!フンバ!2人の援護をっ!」

 「解った!」

 「待ってましたっ!」

鎮音と共に、、、お菊、フンバも楓と葉霧を追う。

 

 玖硫一家とあやかし達の戦いは始まろうとしていた。   

   

            

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ