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第224夜 淀みの地

 東京都皇海(すかい)街……臨海副都心の中心地であるその街中の地下30㍍では……あやかし達の闘いが行われていた。

 バチッ……バチッと、稲光の様な電撃が地下トンネルの壁や天井に走り、そこから亀裂し脆く古いコンクリートはボロボロと落ちてくる。ココは何十年も前に廃線となった地下鉄の線路である。長く放置されあやかしの棲家になっていた。その上……地上は高層ビルに囲まれた街並みが広がっている。当然……そこには多くの人間が生活している。

 だがそんな事はお構いなしで“闘争心”に駆り立てられた鬼娘楓とあやかし政宗の力のぶつかり合いは強烈で、廃線と化した地下路線のトンネル内は正に2人の闘技場になっていたのだ。ボロボロと天井から崩れ落ちてくる破片に、ブロンド髪の灯馬(とうま)は叫んだ。

 「葉霧(はぎり)!やべぇて。このままじゃ崩れんぞ!」

葉霧はその声を受け、吹き飛ばされて壁に直撃し背中を強打していたが、その痛みもやり過ごしトンネルを見回した。

 (アッチコッチで崩落始めてる……、あやかし同士……しかも強者達の闘いはこんなにも凄まじいのか。)

 楓と政宗が激突すればする程……トンネルはその力の衝撃で風圧、爆風で破壊されてゆく。それも目に見えぬ速さで、葉霧の眼には閃光にしか映らない、アッチコッチでぶつかり合い閃光放ち、トンネル内を破壊していくのだ。

 葉霧は崩落を始めたトンネル内で不安を感じ、右往左往してる面々に声を放った。

 「灯馬、秋人(あきと)!落石を破壊し彼女達を護れ。」

 ここで言う“彼女達”とは楓と政宗の力のぶつかり合いの反動で吹き飛ばされてしまった水月(みつき)夕羅(ゆら)、そしてフンバとお菊の事であった。彼女達は一同に近い場所で壁に直撃し、やっと地に降りた所であった。うぅっ……と、誰もが背中を強打し苦痛に顔を歪めて地面に座り込んでいたのである。葉霧はそれを見て咄嗟の判断を伝えたのだ。

 「……解った。」

灯馬は既に臨戦態勢状態で葉霧の動向を伺っていた。ぎゅっと右手拳握り締めて強く頷いた。灯馬の身体は紅炎の様に紅い光に覆われている。彼自身の身体を燃やす様に紅い光が炎の様に纏っているのだ。ゴォォと燃える炎の音を立てながら。それは“授かりし者の証”であり、灯馬は“炎の鬼神嵐蔵(らんぞう)”から力を授かった人間だ。故に身体は嵐蔵の紅炎の力で守護されており、通常の人間とは違い頑丈である。それは秋人含め水月達にも言える事である。

 彼等はこの地の“土地神”から力を授かった者達であるからだ。それは“(ヌシ)”と呼ばれるあやかしで神に近いとされる存在でもある。特に彼等の守護神達はこの世界でも強者の部類に入る。灯馬の守護神“炎の鬼神嵐蔵”は火山島を守護するヌシだ、彼が居なくなればその火山島は噴火し爆破し、一瞬にして日本列島の周りを覆う海は溶岩に覆われ島国を襲うーー。

 “土地神”としても最強クラスの嵐蔵の力を授かった“雨宮灯馬(あまみやとうま)”は、自身の生誕で受継いだ稀少なグレーの瞳で崩落していく地下トンネルの天井を見上げた。

 途端にボコっと、天井に穴が開いた。それは家の天井に設置された蛍光灯程度の大きさだが、バチっ、バチッとその周辺に蒼い稲妻みたいな稲光が走る。

 ピシッ……亀裂がその穴から天井全体に走り始めた。ボコ……ボロッと天井が崩れ始めた。大きなコンクリートの塊が落下してくるのだ。

 「まじかっ!」

灯馬は瞬間的に右手を落石に向けていた。燃える紅炎に覆われた右手。

 「“炎嵐(えんらん)”っ!!」

灯馬は叫び紅い炎の波動を放った。それは崩落しそうな天井に直撃し覆った。

 紅い炎が灰色のコンクリートの天井を覆ったのだ。

「!!」

 その力を感じ、秋人、葉霧は振り向いた。そしてーー、灯馬の紅炎の力はほぼ爆発だった様で……、天井は燃え上がり爆破したのだ。

 カッ!

紅い炎が天井を纏い爆破する。

 「灯馬!」

葉霧がその現状に焦った声を放ったが、時は既に遅し……紅炎の力は脆いコンクリートの天井を爆破し、木っ端微塵に破壊したのだった。

 ドゴゴゴゴッ……。

天井の破壊と同時に起きたのは辺りの壁面、そして地面までも亀裂が走りこの場所が崩壊の音を立て震動したのである。

 「うわっ!?」

流石に楓も気付いた。政宗との対峙、そして着地した地が大きく揺れていたからだ。

 「は?何がどーなってんのっ!?」

楓は地面に、ピシッ……ピシッ……と、亀裂走るのを見て叫んだ。 

 それは……敵である政宗、紫鳳(しほう)も同じであった。

大きな崩落を感じた2人は天井を見上げていた。

 「崩れるぞ……。」

声を放ったのは政宗だった。楓とのぶつかり合いは一時休戦と言えるかの様に大鎌の刃をした大刀を左肩に乗せたのだ。

 紫鳳は……険しい表情をしていたが、銀色の眼が光る。

 「今は現世に“コチラ”を知られる訳にはいかない、致し方無い……“幻世(うつせ)”の手前……“淀みの地”に招くか。」

 紫鳳は言うと右手を楓達に向けた。

ポゥ。

 彼の大きな掌が妖しく淡い紫色の光に包まれる。が、その光は淡い紫色の灯火の様に変わる。

 「なんだ??」

楓は向けられた右手がまるで松明(たいまつ)の火の様に暖かく燃ゆるのを見て驚いた。

 紫鳳の右手には紫色の灯火が放たれてるが、その周りに集まってくる。黒い人魂みたいな炎が。

 むぅ。と、眉間にシワ寄せたのは“鎮音(しずね)”だった。

 「人間の黒い闇に包まれた“魂”を集荷出来るのか……此奴は。」

 「は??」

蒼い髪……頭の上には白い角一本、、、この現世で生存してないとされる“鬼”である楓は眼を見開いた。

 「御名答、で……彼等は“鍵”と言うよりも……“案内人”。淀みの地に案内してくれるんだよ。」

 紫鳳は紫色の灯火に包まれ、更にその灯火に喰い付く様に集まる黒い人魂を見つめていた。銀色の眼がギラリと光、楓とそして鎮音に向く。

 「俺達はまだ人間に知られる訳にはいかない、でもお前達とは()り合いたい。なんで案内するよ、“淀みの地”に。」

 そう言うと紫鳳の右手から、カッ!と、紫色の光が放たれた。

 「うわっ!!」

眩い光であり、楓達はその光に包まれたのである。そして、目も開けてられず誰もが……眼を閉じその紫光に包まれていた。

 その中で紫鳳の声は響く。

 「さぁ、存分に闘ろう。鬼娘、退魔師。そして……人間。」

 低く冷たく響く紫鳳の声………。

眩い光の中で楓達は吸い込まれてゆく……、紫玉の光の中に。 

 

 ❋❋❋❋❋❋

 「うっ……。」

紫鳳の光に包まれ軽く意識を飛ばした葉霧は眼を開けた。冷たい地面に自分が倒れ伏してる事を知ったのは、頬がその地面の温度を伝えたからだ。

 現に何か冷たい……それを感じたのだ。それが意識を取り戻した理由かそれは定かではないが、彼は冷たい感触を左頬に感じ眼を開けた。

 「!」

咄嗟に顔を上げた。

 すると、少し離れた所に紫鳳と政宗の姿があった。

「!」

 再度……ハッ。とし、彼は立ち上がった。瞬発力抜群に地に手を着き立ち上がったのだ。紅色交じる茶髪……、美麗な少年、玖硫葉霧(くりゅうはぎり)の眼は今も碧色に煌めく。その眼は両者を見据えた。薄ら笑い浮かべる政宗、そしてその隣で涼し気な顔をする紫鳳を。

 「うっ………。」

 その息の零しに、葉霧はハッとして顔を向けた。少し横で俯せて倒れ込んで居た楓が目覚め、身体を起こしたのだ。

 「楓!」

 葉霧は名を呼び駆け寄った、が、直ぐに、ハッ。とする。

周囲には灯馬、秋人、夕羅、水月、鎮音、お菊、フンバが地に付していたのだ。だが、鎮音の“隠し者”である白い化猫の蒼と紅の姿は無く、羽村海里、橘玲衣の姿も無かった。それに気づいてはいたもののまだ意識を失い地に臥している灯馬たち、楓の事が気に掛かった。葉霧はそれを眺めつつも楓の元に駆け寄り、手を貸し身体を支えながら起こした。

 「葉霧?なんだ?ここ。」

楓は……蒼い髪の頭をふるふると振る。

「気付いたらここに。」

葉霧の声に、そか。と、楓は言いつつ辺りを眺めた。だが、直ぐにその表情は強張る。

荒れ果てた地……、炎岩石に囲まれた大地が広がる。楓達の居る地面はかろうじて石灰の地だが、少し先は燃ゆる炎の大地が広がっていた。紅い岩石は炎を放ちゴロゴロと転がり大地のアチコチで紅炎を燃やしている。

 道もある、が、そこを通るのは白い着物姿のぼんやりとした人間達である。影が薄く疲弊した表情でフラフラと炎に包まれた道を歩いていた。それも大行列であった。

 ………!

ようやく起きた灯馬たち、そして鎮音……は、まるで地獄の入口の様な目の前の状況に目を見開く。

 「なんだ?え?ここ……“黄泉”?」

灯馬が言うと、ふふっ。と、紫鳳が薄く笑う。

 「いえ、此処は“幻世の入口”……貴方達の言う死後の世界とは違う、何故なら彼等はこれから“闇喰い”になる。つまり、人間、他者を殺す存在に変わる為に幻世に向かう“悪しき彷徨う魂”。」

 は?と、灯馬が目を向けたが楓が夜叉丸を握りずいっ。と、前に出た。

 「よーは闇の道……、この道を辿った人間の魂は“闇喰い”になり現世に這い出て人間を喰らう。」

 そう言うと、ぶんっ。と、夜叉丸を振り降ろした。

 「ふざけんなよ?てめぇら……絶対に許さねぇ。」

ギロリ。と、睨む楓の眼は蒼く光っていた。

 「…………。」

そして……退魔師の葉霧は何処に向かうのか……フラフラとした足取りで道を歩む死霊達を見据えた。

 (死して尚……利用される。そんな世界が存在する…。)

ぼんやりと光を放ちながら彷徨う様にただ、白い着物を着て前を向き歩くその者達にはもう生気すら無く、虚ろであり物悲しくも見えた。この先の道に操られる世界が待っている。葉霧はそれを見据え思うのだった。

  (……ああ……これはちょっと許せないかもな。)

葉霧は涼し気な顔で両手に白い光を放った。それは突如としてであり、浮いた白い光に包まれた葉霧を見て紫鳳……、政宗は目を見開く。

 「は?なんだ?この……“熱い光“は……?」

政宗は白い光を放ちながら浮いた葉霧を見て驚いていた。が、彼の身体は体温が上昇していたのだ。ジリジリと……ではなく、それは一気に上昇していた。 

 紫鳳は同時に冷汗滲むのを知った。

 (離れてるのにこの威圧感……!これが退魔師の力か……!)

彼は今……忍び寄る死を感じていた。目の前に居るのは只の人間の少年、だがその全身から放たれる白い光は強大で、自身の身を滅っされると瞬時に悟ったのだ。だからか、彼は言った。

 「政宗!鬼娘を捕らえろ!」

とーー。

 「!?」

政宗は目を丸くしたが、紫鳳は眉間にシワ寄せて言った。

 「退魔師の力は本物だ……、や?アイツも“覚醒途中”…、この闘いで覚醒されたら面倒だ。その為にも“鬼娘”が必要だ。」

 「…………。」

政宗は、あ〜なるほどな。と、少し間を置き頷いた。その顔は薄ら笑みで何処か不気味であった。大鎌に似た刃の大刀を構えながら政宗は、白い光に包まれ宙に浮かぶ葉霧を見据えた。

 「絶望を与えるしかねぇのかもな。所謂……お坊ちゃまくんには。」

 「…………。」

 葉霧と政宗の強い目ヂカラがぶつかる時であった。   

     

    

         

    

  

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