第223夜 鬼娘楓と政宗
羽村海里を連れて楓達は灯馬達の居るトンネルの奥に向かって歩いていた。そこには、あやかしの棲む世界“幻世”から這い出て来た奴等が居る。そう……“政宗と紫鳳”。
この2人の元に楓達は舞い戻る為に今、、、地下トンネルを歩いていた。不思議な事に今は壁にオレンジ色の灯火が点々と掛りトンネルの中を明るく照らしている。夕羅、水月が駆けつけた時は真っ暗だったのに。
フンバは自身の持つ提灯を見ながら言う。
「アッシのコレいらねぇっスね?明るいでやんす。」
ほぼ、ドール様の提灯でソケット10㍉程度。なので、本来ならピカっと光るおもちゃの灯りぐらいなのだが、いちお彼はあやかし。その提灯で懐中電灯の様に照らすだけの光は与えられる。だが、それすら必要無いと知ったのかフッ。と、提灯の中の灯火に息を吹き消した。フンバの提灯の灯り無くともトンネル内は明るく見通しも良い。歩くには何の障害も無い。
「確かにそうね………、さっきまでは真っ暗だったのに……。」
水月が余りにも明るいトンネル内を見回しながら言った。ココに来た時は見通し悪く、足元すら良く視えない状態だった。だが、今はとても明るく普通に歩けている、それを不思議に思っていたのだ。が、そんな中、夕羅が口を開く。
「あのさ……楓、アイツらに銃殺されそうになって……無事だったのはいいんだけど……、ずっと“蒼い勾玉”が光ってたんだよね?その勾玉って……“生命回復装置”なの?」
え?と、楓はそれを聞き首元に提げている蒼い勾玉のネックレスを見た、そしてその“ターコイズ”の様な煌めく勾玉を掴み、眺めた。彼女の眼と何ら変わり無い同色の勾玉を。
すると、羽村海里が言う。
「それは私も思っていたわ、私達の扱う“弾”は“霊弾”と言って、元“死霊狩り”をしていた術師が造ったモノ、つまり“人間以外”に有効な弾丸の筈……。」
羽村海里は眉間にシワ寄せるが、楓は勾玉眺めながら言う。
「え?解んね、コレは皇子がくれたんだ。あ、でも……“蒼月の姫”が一緒に居た……、コレくれる時に。たしか……。」
と、楓は蒼い勾玉から手を離し遠い目をした。
「“貴女の救いになる筈です、どうか肌身離さず持っていて下さい。”って……言われた。うん。」
思い返す様に楓が言うと、夕羅は目を丸くしながらも言った。
「あ。そーゆうこと。だから、楓は助かったんだ。だって、マシンガン乱発されて血だらけなのに、その勾玉が光って治癒したの。そう、楓の身体をその光が治したんだよ。」
え?と、楓は再度……勾玉を眺める。
「そーなのか?解んね、オレは只……貰っただけだ。でも、この勾玉になんか力あんのは解る。けど、それが何なのかは解んねー、だって皇子も蒼月の姫もなんも言わなかった、只……持ってろ、としか。」
楓は勾玉を眺めながら目を丸くしていた。
羽村海里は、眉間にシワ寄せて言う。
「ちょっと待って、その皇子とか……蒼月の姫とか……なんなの?」
すると、葉霧が言う。
「話せば長くなる。が、貴女は知る必要があるのかもな。」
「え?」
羽村海里は目を見開くが……トンネルを歩く最中……葉霧、楓からこれ迄の事を話され顔面蒼白になったのであった。
❋❋❋❋❋❋❋❋
「遅せぇな……。」
イラ立つ様に言うのは“政宗”。
赤茶色の髪は短髪、その顔は面長。至って人間と何ら変わらぬ顔立ちだが、巨体、そしてグレーの眼。何よりも顔付きが人間とは異なる。明らかに“犯罪者”、そんな顔付きをしている。謂わば、近寄りたくない顔付きだ。白い着物。右肩を開けさせて着崩した姿だが、大きなその右肩には、角が生えていた。白い角が右肩に生えている。白い着物には柄がある。曼珠沙華である。別名……“ヒガンバナ”。真っ赤な華が散りばめられた白い着物は派手だ、彼は下駄を履いている。その両足を地に着けしゃがみ、左肩に大きな鎌の様な刃をした大刀を乗せながらボヤいたのである。
そして、その脇で腕を組み涼し気な顔をしているのは紫鳳であり、彼はフッ。と、笑う。
「政宗、お前が提案したんだ、鬼娘を連れて来いやって。」
ラベンダー色の腰まで伸びた髪をサイドアップにした美しい男は、横目向ける。銀色に光輝く眼で政宗を見据えた。それを受けて政宗は、ふぅ。と、溜息溢し言った。
「だとしても、遅くね??」
その言葉に黒い着物、腰元に刀を差した紫鳳は腕を組んだまま溜息零し言う。
「だからお前は“追放”されんだよ。」
そしてーーそこに楓達が現れたのであった。
「…………!」
先ず驚いたのは羽村海里であった。
(え?なに??コイツら!)
巨体も巨体……、3㍍超えたあやかし2人を見て羽村海里は、リボルバー握る右手が震えていた。
それも、政宗に関しては大鎌みたいな刃の大刀を左肩に乗せて地面にしゃがみ込みその威圧的な眼で、辿り着いた楓達を睨んでいるのである。羽村海里はさっき大きな壁面妖怪も見ているが、それよりもこの“存在感”に退いた、身体ごと。
(さっきのあやかしとは全然違うっ!コレはヤバい!ムリよ!)
そう思うしか無い程に、政宗、紫鳳の存在感、威圧感は只の人間には脅威でしかなかった。
「お〜……やっとご帰還?鬼娘。」
ヘラっと笑いながら言う政宗の声は響く、トンネル内に反響する。羽村海里はその声の響きだけでも、ひっ。と、身引いた。
(デカい……と言うか……巨神??ムリっ!無理よ!コレわ!!)
色んな感情、思いが彼女の脳内を駆け巡る。が、楓達はそんな事は関係ない。
「待っててくれたんだってな?そりゃどーも。」
先陣切って夜叉丸握りながら政宗、紫鳳の前に立ったのは楓である。
「楓!」
葉霧は特攻隊の様に地を蹴り跳び上がり、巨人の様なあやかし2人の前に着地した楓に驚き声を上げていた。
「!」
そしてこの冷戦状態を保っていた灯馬、秋人もしゃがんでいたが立ち上がった。更に鎮音は自分の頭上を秒速で軽々と飛び越え目の前に立った楓の姿にその眼を見開くしかなかった。
「………!」
(“標的“を見据えてからの行動が速過ぎるっ、此奴はやはり鬼。普段はすっ恍けてバカ丸出しだが…“戦闘気質”。鬼は“鬼神”とも言われる程……闘いに従順だ。血が騒ぐ……、正にその象徴。此奴らは“血雨降らし狂った様に笑いながら人を喰い殺す種族”……、それが“鬼”。)
鎮音は……目の前で夜叉丸握り締めて立つ鬼娘の背中を見て険しい顔をした。
(しかも今の楓は“鬼”としての妖力が戻りつつある……、以前よりも強い力に護られている……、“覚醒”……するのかも知れん……、受入は……やはり……悪手だったか……?)
鎮音がそんな思いを巡らせていると、フッ。と、紫鳳が薄ら笑みを浮かべる。
「“修羅姫”……、さっさと覚醒しなよ。そうすれば幻世に行けるし、人間の世界で我慢しなくて済む。」
「!?」
鎮音はハッとした、自身の思惑を読まれた気がして。だが、は?と、楓は聞き返すが直ぐにぎゅっと両手で夜叉丸を握り締めた。
「ざけてんじゃねーぞ?オレは葉霧の居る世界を護る!その為に生きてんだよ、その為に皇子はオレを封印した、オレは“退魔師の隠し者”……つまり、“守護者”だっ!」
そう怒鳴り楓は夜叉丸を握り……だっ。と、駆け出し、、、2人に向かった。
フン。と、政宗は鼻で笑いしゃがみ込んでいたが、すくっ。と、立ち上がる。そして、大鎌の様な刃を持つ大刀を振り降ろした。
「ナメてんじゃねーぞ?死に損ないがっ!」
ズバァァァッ!
大刀から放たれる風圧はまるで風刃の如くであり、突進して来る楓に直撃した。
「うわっ!」
楓の身体に直撃し、身体に傷も負うが……楓の身体は直ぐに蒼い鬼火と、蒼い光に包まれる。
「楓ちゃん!」
水月が心配そうな声で叫ぶが、ん?と、政宗は蒼い光、更に蒼い鬼火に包まれ宙に浮く楓を怪訝な顔で見る。
「ナメてんのはてめぇだっ!」
楓は怒鳴りながら宙に浮いたまま左手から蒼い鬼火を放った。はっ。とした政宗は、自身の大刀を構えた。
「死ねやっ!クソ修羅姫っ!」
蒼い鬼火の豪炎が頭上から放たれる、、、政宗は大刀を振り降ろした。
ブワッ!
それは大きな風圧となり蒼い鬼火を跳ね返したのだ。
むっ。と、楓は跳ね返され四方八方に散った鬼火にイラっとした表情をし、更に左手に蒼い鬼火を纏う。
(ブチ殺してやる。)
その思いは鬼火に集う。
ゴォォォッ……。
左手に蒼い鬼火は集いそして燃える。
それは楓の全身を纏う。
蒼い鬼火に纏われた楓は夜叉丸を握りながら、天井を蹴りつけていたーー。
「死ぬのはてめぇだっ!!」
蒼い鬼火を纏った身体、、、鬼火に纏われた夜叉丸、、それらを武器に楓は政宗に急降下したのであった。
!!
政宗は、蒼い弾丸の様な楓を前に、ぎゅっ。と、大刀を握り構え、振り下ろす。
「ナメるなっ!!小娘っ!!」
ギュオォォオン!!!
大きな風音を立てながらカマイタチの様な大刃は楓に向かう。
鬼火と……風刃は激突した。
カッ!!
眩い光ーー、力と力がぶつかり合い衝突したその反動……、それは周囲に爆風を齎した。
「うわっ!」
そこに居た葉霧達は、その爆風に煽られ吹き飛ばされていた。
それは途轍もなく……、トンネルの壁目掛け吹き飛ばされ直撃した。
ズガァァァン………。
ココに居た大人数が一気に壁に直撃し、そしてあやかしの力で壁面は亀裂が走る。
ピキッ……ピキピキピキピキ……。
壁から天井まで。
そして……古いトンネルの天井、壁面はボロボロと……崩れ始めるのだった。
ゴォォォ……。
蒼い鬼火に身体纏われた楓は、着地する。
夜叉丸握りながら不気味に笑む。
「てめぇはオレを怒らせた……、ぜってー冥府に送ってやる。」
蒼い眼は光……目の前の政宗に言う。
が、、、政宗も無傷とは言えぬが軽傷……、何ら変わらぬ表情ではん。と、小馬鹿にした笑みを零した。
「お前こそ冥府に逝けや?人間……しかも、退魔師に絆されたクソ姫が。」
大刀を構え政宗は言う。そして楓は蒼い鬼火纏う夜叉丸を握り締め言う。
「うるせぇよ。オレはオレの意志で生きてる、お前らに否定される筋合ねぇんだよ。」
バチバチ……と、、、鬼娘楓、そして幻世のあやかし政宗の睨み合いは続いた。




