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第222夜 あやかしと人間

 “羽村海里(はむらかいり)”は……眼の前で大勢の部下が大津波に飲み込まれ息絶えたのを眺めつつ、“神梛夕羅(かんなゆら)”が放った七色の弓矢で特殊班リーダーの“知念理人(ちねんまさと)”の身体が黒い煙に覆われながらも破裂し粉砕したのを見ていた。その顔は驚きに包まれ構えていたリボルバーが自然と下がった。

 「…………っ。」

 漆黒のロング髪、すらりとしたスーツ姿の所謂“デキ女史”の知的な美人顔は真っ青だった。

 引き連れて来た“特殊班の部隊全滅”……。それが現実として眼の前で起きたのだ、しかも“水竜”と言う未知の生命体、それを操る人間の少女、人間を殺す事の出来る武器を持ち操る少女。それらを面前に羽村海里の頭の中は真っ白になっていた。

 只、立ち尽くし面前の出来事に茫然とするしかなかったのだ。だが、“退魔師”である“玖硫葉霧(くりゅうはぎり)”はそんな場に到着したのである。

 「…………。」

 眺める。その場を……宝石“パライバトルマリン”の様に煌めく緑色濃い碧色の眼は光る。瞳も本来の白目部分も同一色であった、その眼はライトの様に眩く光っている。その眼で現状把握の如く……、現場を眺めたのだ。だが既に“事後”、水竜の放った大津波は引きその力は消え、トンネルの風景は元に戻っていた。

 ココは“東京都皇海街(すかいまち)”と言う臨海副都心にある都市だ。海を埋立て創られた都市には数多くの“荒廃した土地、場所”が残っている。その名残は至る所に在り放置されている。そしてそれらは必然的に“闇に紛れ棲息するあやかしの拠点”になった。この“地下トンネル”もその1つであり、地下鉄として繁栄したが時代の流れと共に廃線となった。都心部から地下30㍍にトンネルを掘り線路を作ったのだが、一時期の繁栄は失われ惜しまれつつも廃線になった。取壊し有効活用する案も無く放置され数十年が経過し、その間に“ネズミの巣窟”になったのである。それは只のネズミではなくあやかしであり、“如月(きさらぎ)”と言うあやかし探偵の棲む地になっていた。が、今……如月は殺されこの地下トンネルで“新たな怪異”が起きているのであった。

 そして……“退魔師”の玖硫葉霧は碧に煌めく眼で現状把握する如くその場を眺めていた。

 (多くの人間が“溺死”……、水月の水竜か。何があった?)

と、思いながら葉霧の登場に驚きつつも何処か、ほっ。とした顔をする夕羅、水月。その脇に居る水竜を見て言った。

 「何が?」

 その1言に水月が応えた。

 「………ごめんね?葉霧くん。でも……私は許せなかった。」

水月は憂いた眼で葉霧に前置すると詳細を話したのだ。

 

 ❋❋❋❋❋❋

 

 ………………。

ここ迄の詳細を聞いた葉霧の顔は険しさが滲む。そうか。と、1言……零すと大津波が消えた跡に残る特殊部隊達の亡骸、それを眺め茫然としてる羽村海里に視線を移した。

 (“特殊班の本部長”……つまり……来栖警部の上司か。)

 “来栖宗介(くるすそうすけ)”は元々“あやかし特殊班”として活動していた警部である。その為、葉霧も面識はあり楓の事も知っている。そう、“鬼”だと知っている数少ない人間だ。

 「葉霧ごめん、こんな時になんだけど……、秋人たちは?」

 夕羅が少し戸惑いながら聞くと葉霧は涼し気な顔で言った。

 「ああ……アッチはご心配なく、“冷戦状態”なんで。」

え?と、水月と夕羅が目を丸くする。

 「冷戦状態って?」

水月の問に葉霧は答えた。

 「“何か面白いコトが起きてる”……そう言ったのはあの“あやかし達”だった。それを見届け……“鬼娘を連れて来い”、そこから仕切り直しと提案されたんだよ。」

 は??と、夕羅が聞き返すと葉霧は穏やかな口調で言った。

 「奴等は“闘い”を好んでる、それも……“フェアな状態”で。よーは……“喧嘩”。それを望んでるんだ。」

 え?と、水月が聞き返した時だった。

 「葉霧殿っ!」

 「葉霧っ!」

少し離れた所から、タタタっと軽快な足音が響き同時に声がトンネルに木霊する。

 “浮雲番(フンバ)”と“お菊”の声であった。葉霧はそれを聞き直ぐに、フッ。と、柔らかな笑みを浮かべた。声のする方に目線向けると、ぴょんぴょんと短い足を跳ねながらまるで兎の如く向かって来るモグラのあやかし、浮雲番。全身茶色の毛で覆われている、二頭身で2足歩行可能、体長は40センチ〜50センチのぬいぐるみサイズ。紫色の眼に、黒髭3本。長い鼻の先は真っ黒。手と足には長い爪が五本。そして、額には“お助け隊”の鉢巻、常に何か“含み”を込めた言葉を背中に刺繍された法被を着ている。彼はモグラ特有の穴掘の長い黒爪を器用に操り、茶碗持ち箸使えるモグラである。更にパスタを食べる時はきちんとフォークまで使う、希少なモグラだ。

 そして紅い着物は紅葉柄、黒髪おかっぱは前髪ぱっつん、裸足に草履の幼女が駆けつけたのだった。

 ほっ。とした様に葉霧の表情は柔らかくなった。

 「フンバ、お菊、無事だったか。」

秋人……“雨水秋人(うすいあきと)”から楓を追い2人が消えた事を知っていて心配しかなかった。葉霧の中ではまだ……“お菊が神童”とは知り得ぬ状態である。神童の意味すらも未だ葉霧は知らない。あやかしについての知識は乏しいのが現実である。

 何故なら“退魔師の末裔”として生きて来た訳では無く、一般人として生きて来たからだ。退魔師の末裔で自分自身に力があると知ったのは楓が現れてからである。

 それ迄は只の“家系”であり、あやかしなど幻想だと昔語だとそう思っていた、が、楓と言う鬼娘が現れそれが次第に……退魔師としての血を覚醒させ、彼はその力を引継いだのだ。あやかしなど見た事も無かった。その存在すら気にも留めてなかった、けれども今は……そのあやかし達と同居している。フンバ、お菊はその同居人であり彼の中では“家族”になっていた。

 飛びついて来たのはお菊だ。

葉霧の膝元に飛びつき、その両足を抱き締めた。

 「葉霧っ!」

嬉しそうな弾んだ声を放ちながら葉霧の両足を抱き締め、顔を埋めたのである。葉霧は自然と身体を屈め……、お菊の頭を撫でた。

 にこり。と、笑いながら。

 「お菊……無事で良かった。」

うん。と、頷きながらお菊は葉霧の両膝に顔を埋めすりすりと頬を擦り付けたのである、嬉しそうな顔で。

 葉霧はそんなお菊を愛しそうに眺めながら頭を撫でていたが、ふと隣に居るモグラのフンバに目線向けた。

 「楓は?」

そう聞いた時である。

 「葉霧!」

声は響いたーー。

 葉霧は顔を向けた。

そこには夜叉丸を握り締めた蒼い髪した鬼娘……楓が駆けつけていた。

 「楓!」

葉霧の高揚とした声に……お菊は離れた。

 その後……直ぐに葉霧はお菊から離れ楓に駆け寄ったのだ。お菊、フンバ、夕羅、水月……誰もが……何も言わず2人の再会の場を見つめていた。

 ……………!

2人は……そんな人目も憚らず……再会に抱擁を交わしていた。

 ぎゅっ。と……葉霧は楓の身体を強く抱き締めた。

蒼い髪……白い角。

 人間では無いその象徴の頭を強く抱き締めた。

 「楓……、良かった。無事で。」

ホッとしたのと……心配が強くて頭を抱く右手に力が籠ってしまっていた。ぎゅっ。と、広く暖かな胸元に顔をくっつける状態で抱き締められる楓は少し痛かったが、その胸元におでこを擦り付けながら呟く様に言った。

 「ごめん……、心配掛けて。」

葉霧は、…………。ぎゅっ。と、腰に回していた腕の力を籠めていた。堪らずに。

 泣きそうなその声に。

「心配した。」

 そう言ってから葉霧は楓の蒼い髪を撫でながら言った。

「でも…………いいよ、生きてくれてるなら……それで。」

 重い言葉。

楓はそれを聞き……葉霧の胸元に顔を埋めながら頷いた。

 「…………葉霧………。」

何も言えず……名前だけ呼んでその胸元に甘える様に頬を擦り付けていた。葉霧はそんな所作に再度、ぎゅっ。と、楓の頭と腰に巻きつける腕に力を少し籠めて抱き締めた。

 (生きてくれてるなら………それでいい。)

彼はそう思っていたのだった。

 「貴方たちはなんなのっ!?人間よね!?」

その声は……突如として響いた。

 はっ。として、楓と葉霧は身体を離し声のした方に向く。羽村海里が2人、そして、夕羅、水月を眺めていた。その目は憎悪が滲む。

 「人間を喰い殺すあやかし、そして討伐する立場の人間達、何故……彼等を殺したの?貴方達にとって味方でしょう??」

 羽村海里の声に水月が言った。

 「味方?でも、貴女達は楓ちゃんを銃殺しようとした、だから私は許せなかった。結果的に楓ちゃんは今、生きてるけどもしも死んでいたら私は貴女を多分、殺してる。」

 は??と、羽村海里は目を見開く。

 「鬼よね?その娘は。それなら殺されても仕方ないでしょう?鬼は人間を喰い殺す、私達は人間を守る為に居るの。あやかしなんてこの世界に置いて害悪でしかない、つまり害虫なのよ。」

 彼女が言うと夕羅が言った。

 「それは違う。あやかしにも理性と感情があるし、人間と変わらない倫理観で生きてる。現に楓、そこのお菊ちゃん、フンバが人間を食べてる所を見た事が無いし、楓はこうやって人間の為に戦ってる、表には出ないけどでも戦ってる、だからあたし達も協力してる。」

 羽村海里は、だけれどもっ!と、苦悩する様子であった。それを見ていた葉霧が言う。

 「本物を見たいなら一緒に来ればいい、、、この先にあやかしが居る。」

 「え?」

 羽村は……目を見開くが、右手に掴むリボルバーをぎゅっ。と、握り締めた。

 「いいわ、行く。見届けて私が殺してやる。あやかしを。」

彼女の眼は強く突き抜ける様に葉霧を見据えていたのだった。 

  

     

            

  

    

 

 

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