第221夜 巣喰う
“神梛夕羅”は暗蛇の巨大な手で身体を掴まれ、まるでマヨネーズの使い掛けを搾る様に握られいた。が、蒼い鬼火で暗蛇が焼かれると直ぐに、フッ…とその力は緩まり手は離れた。
「わっ!!」
握られ自由効かない身体が突然解放された。拘束解けた夕羅の身体は必然的に地に落ちた。
どすん。と、、、尻餅付くカタチでコンクリートの地面に落ちたのだ。
「イタっ。」
苦しくて息絶え絶えだった夕羅はいきなり解放され落下し、体操選手の様に格好良く両足での着地とは行かず尻から落ちた。尾骶骨を打ったかもしれない。痛みが脊髄に走ったのだ。
が、、、直ぐ隣でドサッとやはり物音がした。同時に声も聞こえた。
「きゃあっ!」
それは同様に暗蛇の巨大な手で掴まれ拘束されていた水月の声であった。空中に浮いていた身体が突然と落下し、地面に叩きつけられるのだ、悲鳴も出てしまうだろう。
「水月!」
夕羅は確かに尻が痛かったがその声が“桐生水月”だと知ると瞬時に立ち上がり駆け寄ったのだ。水月は夕羅とは違い……“水竜”がその身体を背に受け止めていた。ので、コンクリートの地に叩きつけられること無く彼女は、水の化身の背中をクッション代わりに落下したのだ。
ほっ。と、、、夕羅は胸を撫で下ろす。
鮮やかな水色の龍の背に背中から落ち受け止められている親友の姿を見て。
が、、、。
「大丈夫ですかっ!?」
「直ぐに救護班をっ!!」
男達の声が響いたのだ。
夕羅はその声に顔を向けた。そこにはマシンガンを持つ屈強な男達が居た。
「……………。」
夕羅の眼は細まる、警戒心を向けた眼を向ける。そんな彼女と水竜の背中から降りる水月、そして水色の鱗に覆われた龍の周りにマシンガンを持ち男達は集まる。“DST”、“DangerSpecialTroopsl”……、『最も危険な存在を排除する部隊』は特殊であり警視庁、警察庁から派遣されたエリート集団である。つまり彼等は“あやかし特殊部隊“。その格好も防護服……ネイビー色の厚手のジャケットを着ている。そして、頭は防護目的のヘルメット、誰もが武器としてマシンガンを携帯している、更にその眼を保護する様にちょっとブルーシールド入ったゴーグルを掛けている。
その集団から1人……歩み出て夕羅と水月の前に立った。
ブルーシールドで護られたゴーグルを外し、シルバーのチェーン掛かったそれを首元に掛けた。
「大丈夫ですか?“あやかし”の生命反応は未だ警戒レベルです、一刻も早くココから脱出し兎に角病院で治療を受けて下さい、我々がサポートしますので。」
この中では中堅な風貌……。とは言え誰もがゴーグルを着けていて目元は解らない。が、彼はその顔付きから青年ではなく中年だと解る、のも、目尻には歳相応のシワがあるからだ。同時にこの“隊”の中では1番に冷静であった。何故なら周りの男達は水月の隣の“水竜”……、大きなドラゴンを目の当たりにして少し引いているからだ。
夕羅はずっと険しい表情をしていた。その中堅の男性の言葉を聞きながらも。
「……………。」
ふぅ…………、夕羅は息を吐く。そして警戒の眼を彼等に向けた。
「そのあやかしの生命反応って何で解るの?」
努めて冷静に……。彼女はそれを心に聞いた。すると、ああ。と、その男は言う。
「申し訳ありません、自分はこの“特殊部隊のリーダー”でありまして…、“知念理人”と言います。貴女達を救う為に“マシンガンぶっ放せ”は私の指示でした。」
にこっ。
と、、、笑う。
夕羅は一瞬でドン引きした。
「は??聞いてねーけど??そんなこと。」
可愛いらしく愛くるしい……そして、常に温厚。彼氏の“秋人”が兎に角、短気で暴君だから彼女はそのサポートに忙しく、、、滅多にブチ切れない。でもこの時ばかりは……だったのだろう。言葉尻が強くなったのだ。
だが……知念の言葉尻も強くなった。
「いやいや……貴女達を救う為に国の“税金”である弾を撃ったんです、なので……我々がやった事を“無”にしないで欲しい。兎も角病院へ。」
……………。
知念の言葉に夕羅は水月に顔を向けた。
「水月………コイツなに言ってんの?」
水月はそれを受け……う〜ん?と、顔を顰めた。
「ごめん、解んない。」
たよね?と、夕羅は言う。
夕羅は知念を見た。それはちょっと呆れた表情で。
「あ〜……と?貴方達が責務果たしたって事は解った、で、ウチらを助けようとしてマシンガンぶっ放した事も解った。」
つまり……、暗蛇の両手から彼女達を解放させる為に特殊班は、マシンガンを乱射したのだ。それを……今、言っている。そして……夕羅、水月は呆れた表情しか出来ないのであった。
だが、知念は意気揚々とした顔をして言ったのだ。
「ご理解戴けて恐縮です。我々は飽く迄も国から派遣されてる身。つまり、我々が動くと言う事はそれだけ“国民に負担”が掛かる。それは“税収”で徴収される、貴女達は“証明”しなくてはならない、あの鬼娘を連れて。」
そう言った知念の表情は一気に“鬼面”の様に豹変した。
!?
夕羅と水月は…“般若”の様な顔付きになった知念に警戒した。
((ヤバい!!))
2人は直感したーー。何故なら知念の身体が黒い煙に覆われたからだ。禍々しいその煙に覆われた知念の顔面は、さっき迄の穏和さを失くし、悪意に満ちた嫌な顔になった。
「………水月……来るかも……。」
夕羅が警戒し、右手に虹色の光を集めた。
ポゥ。
右手が虹色……7色の光に煌めく。そして彼女の右手の光は“変幻”する。虹色の光に覆われた“弓”が出現した。
それは実在し夕羅は弓を握る。
そしてーー水月は隣に居る水竜に叫んだ。
「水竜!先手必勝!」
彼女が叫ぶと、ウォォォォォ……呻く声を上げながら水竜の口は開く。蒼い光がドラゴンの口に集中する。
水月は………黒い煙に覆われた“あやかし特殊班のリーダー”……知念理人に右人差し指を指し示した。
「水竜!行けっ!!」
そう言う彼女の顔も口調も何時ものふわふわした可愛らしさなんて微塵も無い。只、“疑わしき闇は滅する”その思念が働き、彼女の“意志”……、楓と葉霧の敵になる者は滅ぼす。それが働くのだ。そして水竜はその意志を継ぎ放つーー。
水色の閃光を。
カッ!!
それはリーダーだけとはいかず……後ろに居る部隊の人間達をも巻き込み、大津波が彼等をのみこんだ。
ドォォン………。
水飛沫をあげ……濁流の如く水は彼等を飲み込み、そして……窒息させる。
ゴボッ……。
空泡がコンクリートの地面を覆う水面から浮く。
ゴポボ……。
水の中に閉じ込められた特殊班達が苦しみ吐く水泡だ。けれども、彼等は……濁流に飲み込まれ水圧で浮かべず……窒息死する。
「……………。」
それを見て……顔面蒼白なのは……この部隊の“本部長”…、所謂最高責任者の“羽村海里”だった。
(な………何が起きてるの??)
目の前には津波……。
自分の所には来ない。
実際、羽村海里の足元はトンネルのコンクリートの地面、なのに目の前で“大津波”が起こり……特殊班の隊員達が飲み込まれてしまったのだ。
(こ………これが……“あやかしの力”……?だとしたら……人間は勝てない……っ!)
羽村海里は……“自然災害”でも無いのに起きた大津波に人間達が……“あやかし特殊班”が全員、、、飲み込まれてしまったのを見て認識した。
だが……その怒声を聞く。
「貴方達は楓ちゃんを殺そうとした!絶対に許さないっ!!」
それは……水月の声であったーー。
けれども浮き上がる……。
溺れて窒息しそうな男達の中で唯……1人……。
黒い煙に覆われた“特殊班の装備”を身に纏った男が、地面の津波から浮き上がり夕羅、水月、羽村海里の前に現れたのだ。
羽村海里は……咄嗟に、バッ!とリボルバー構え銃口を浮き上がった“男”に向けた。
「……知念……、お前……狂ったか?」
羽村海里は眉間にシワ寄せ……低い声で言う。が、大津波に身体奪われアップアップし、溺れる隊員達を見下ろしながら水面から浮き上がった知念はにやり。と笑う。
あやかし特殊班のリーダーである筈の中年男性は、特殊班の装備したまま右手にマシンガンを握り“羽村海里”……、上司を睨んだ。
「羽村本部長……、前から気にくわなかったんだよ、お前は俺よりも現場経験ねーのにいつの間にか本部長?は?ふざけんなよ。」
マシンガンの銃口を羽村海里に向ける。そして、更に言う。
「あやかし特殊班?そんなの左遷じゃねーか。俺はそんな得体知れねぇ奴等を取り締る為に警察になった訳じゃねーんだよ。」
羽村海里は、…………。リボルバーを握りながら言う。
「それでも!警察官としての責務よ!変わらないでしょう!?地域の人達の生命を守る!助ける!それは何処の部署に居ても変わらない筈よっ!」
夕羅と水月はその言葉に海里に顔を向けた。けれども、黒い煙に覆われた特殊班のリーダーはその身体を変貌させ始めた。
オォォォ………。
「え?なに??」
夕羅が言うのは“呻き声'”が聞こえたからだ。え?と、水月は夕羅を見る。
「夕羅?どーしたの?」
水月の声に夕羅は、はっ。とした。
(え?聞こえなかったの?水月には……。なんか地の底……から呻くみたいな気味悪い声だったんだけど……。)
夕羅は思うが、
「だからお前みたいな生温い女が上司とか許せねぇんだよっ!死ねっ!」
ハッ。とした。その声を聞いて。
知念はマシンガンを構え羽村海里を狙っている。だが、夕羅はその背後に“黒衣の鎌を持つ骸骨”を視た。
!!
夕羅はそれが“死神”だと察し、直ぐに弓を構えた。
(アレは……“死神”……、死霊祓いの“沙羅姉ちゃん”が良く言ってた……、骸骨は基本……“人間の魂”を奪うって!)
ギュッ。と、レインボーの矢を携え弓を構え、マシンガンの銃口を羽村海里に向けてる知念に照準合わせる。
キリキリ……。
日本の弓……それと同じ形状だが、七色に光、当然……“ヌシ”から授かった武器だ。見た目とは異なり“力”は強い。
(放て!あたしの“力”!!)
特に術文は無い。
夕羅達の武器は……“心”が武器となり呪文となる。
ギュン!!
物凄い速さで七色の一矢は“知念”の左胸に突き刺さったーー。
ドスッーー。
鈍い音だけが知念の耳に響く。
「えっ!?」
知念は自身の左胸に七色に光る矢が突き刺さったのをその衝撃と、音で知った……。痛みと言うよりも、ドスっ!と、何か重い衝撃を感じたのだ。だが……、
ぐはっ。
瞬時にその矢が心臓を穿き……破壊した事で、口から鮮血を吐いた。
ぐらり。
と、、、宙に浮いていた知念の厳つい身体が後ろに倒れる……、同時にカッ!!と、虹色の矢は知念の心臓を突刺しながら7色の光を放つ。
「知念隊長っ!!」
羽村海里はその閃光と同時に爆風を受けながら叫んでいた。
だが……知念の7色に光る身体から蒼い光を放つ“人魂”が浮かび上がったのは直ぐだった。
夕羅の弓矢の力で知念の身体は破裂したが……“魂”は抜け出したのだ。
「え?なに?あの“鬼火”みたいなの。」
夕羅は知念の爆破し……粉々になった身体から抜けでた蒼い光を見て言った。鬼火、たいまつの灯火に視える。そう言われてるのが“魂”。つまり“人魂”は生命の灯火……、故に炎に似ているのだ。
「……あやかしの魂だ。」
えっ!?と、、、その声に夕羅と水月は振り返った。
そこには…“退魔師”……玖硫葉霧が居たのだった。




