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第220夜 暗蛇亡き後

 楓は、暗蛇(あんじゃ)を切り裂き殺した。

壁面に浮いた顔を夜叉丸の刃で断裂し文字の如く斬り裂き、そして夜叉丸を握る右手から放たれる蒼い“鬼火”を操り焼き殺した。

 ゴォォォ……と、蒼い鬼火に壁面から浮いた半裂したあやかしの顔面は燃え滾り焼かれていた。

 うぎゃぁぁ………。

苦しむその声を聞きながら楓は、夜叉丸を握り締め目の前に降り立つ。

 チッ……と、彼女は舌打ちした。

 (斬りつけて殺した筈なのにまだ生きてやがる……、鬼火放って正解。)

 斬殺だけでは生命は奪えないと楓の勘が働き、結果鬼火を使い焼き尽くす事を選んだ。

 それは正解であり、苦しみながら鬼火に焼かれ暗蛇は息絶えたのだ。けれど……魂が浮かんだ。暗蛇の焼かれた身体から“蒼い発光した人魂”の様なモノが脱出し、浮かびそれは天井に向かい吸い込まれる様に消えた。楓はそれを眺めながら、クソ。と、、、1言漏らした。

 そして……暗蛇の魂抜けた顔面は鬼火に焼かれ……焼失した。

 (やっぱ……ムリか。“退魔師”じゃねぇと……。魂までは殺せねぇ……。クソ。コイツはまた“幻世(うつせ)”に戻って生き還る……。)

 楓は、はぁぁ。と、溜息ついた。

 (あやかしがずっと生きてられるのは……魂があるからだ。完全消滅出来るのは……退魔師、この現世では葉霧(はぎり)だけ。オレ達は撃退してるだけ。退魔師は確実に魂まで滅し……“黄泉がえり”を許さねぇ。冥府に送れるのは………葉霧だけなんだ。今は。)

 楓は暗蛇を撃退し再度……その現実を認識した。この世界で蔓延る闇を葬るのは……退魔師……“玖硫葉霧(くりゅうはぎり)”しか居ないのだと。

 (葉霧の“眼”はあやかしの“死柱”……、つまり魂を捕らえる。それをオレが破壊する、つまり……“あやかしの死滅”は葉霧にしか出来ねぇ。)

 ぎゅっ。と、楓は夜叉丸を握る。美しく蒼い眼は険しさが宿る。

 (オレに出来るのは……倒すことだけ。完全に殺すには葉霧の“眼”が必須だ、葉霧の眼……それは退魔師の力。オレらあやかしには絶対に持てねぇ力。)

 楓の眼は壁に浮き彫りになっていたあやかしの顔面が蒼い鬼火で焼き尽くされ、黒焦げになり壁画の様にコンクリートの壁にその影だけ遺っているのを見ていた。

 (だから“幻世”のあやかしは葉霧を狙う……、“東雲(しののめ)”は現世を取り戻すと言ってた……、つまりあやかしの世界をこの世界に創ろうとしてる。さっき来た奴等は東雲の仲間だ、10割で。現世のあやかしは葉霧に友好的で玖硫一族寄りだ……、だから敢えて“新種のあやかし”を産み出した。あやかしの魂、人間の闇を喰い散らかし生きる“闇喰い”を使って。)

 はぁぁ。

楓は溜息吐く。

 (葉霧……や?“玖硫一族”……つまり……退魔師を殺す為に。この現世で今……アイツらの敵は葉霧、玖硫一族しかいねぇ。螢火の皇子(ほたるびのみこ)が居た時代とは違う……葉霧には“同族”が居ねぇ、“後釜と背任者”が。だから……待ってた。東雲はこの好機を……、確実に退魔師を滅ぼせるチャンスを。オレは……だから皇子が“封印”した……、葉霧を玖硫一族を救う為に。)

 楓は傍に居るあやかし……お菊に目線向けた。彼女は突然と目を向けられきょとん。とした顔をした。

 (オレが出遭い傍に居るあやかし……お菊、フンバ。それに次郎吉、燕爺(えんじい)…、忍さん、元ヌシのアリサ……。けどアイツらは好戦的じゃねーし戦いには向いてねぇ。でも……“お菊”は……。)

 楓はこの一連の流れを思い返しながらお菊を真っ直ぐと見て言った。

 「お菊、お前……何モンだ?」

 疑いを向けると言うよりも真摯に彼女は問う。きょとん顔のお菊はそれを聞き、黒い瞳で楓の蒼い眼を見つめ返した。真っ直ぐ。

 「あたしはきっと……“神童”に入るあやかしなんだと思う、“座敷わらし”みたいに“光”は与えられないけど。」

 ん?と、楓は小首傾げる。

 「座敷わらしが光?や?アイツらどっちか言うと……“闇”じゃね?囲うと確かに富、名声振り撒くが堕落した時の仕返し半端ねーじゃん?それも何か……予測して与えてるよな?人間の欲望に噛み付いて。」

 楓が言うとお菊は、うん。そーだね。と、頷く。が、彼女は言った。

 「でもあたしみたいに“生命”は奪わない。」

あー。と、楓は相槌打った。

 「まーけどそれはその時によるんじゃね?廃れて生命絶つ方面に逝くしかねぇ人らも居るだろ。」

 だが、お菊はハッキリと主張した。

 「それはその人達の末路であって、あたし達あやかしが犯した罪では無い。あたしはどっちか言うと一撃必殺なので。」

 黒いおかっぱ頭の幼女は淡々と言い放った。う。と、楓は困り顔になった。

 「あー……ですね。うん。で?お菊は……“神童”に近けぇの?それなら何で今までその要素隠してた?」

 すると、モグラのフンバが声を発した。

 「“幻世”の瘴気……、それが要因っス。アッシもなんかあの男達が来て……“黒い空気”に当たってから変な感じなんス。なんスかね?心の底から湧き上がって来るんスよ…闘志……、殺意が。」

 フンバの紫色の眼がきらりと光る。楓はそれを見て険しい顔をした。

 「リミッター外れんのか……。まじか。」

ボヤく様に言うと楓は眉間にシワ寄せる。お菊、フンバは“更生”が簡単だった。即ち“闇に毒されても払拭する力があった”。それは退魔師の葉霧と共に暮らし過ごし、心が浄化されていたのも事実である。だが、今……力が沸くのを知った様であったのだ。

 楓は言う。

 「お前らココから出ろ、つか帰れ。“蒼月寺”に。」

玖硫一族の地は“浄化”されており、そこに居るだけで“闇心、邪心”は消える。だからこそ2人は“人を喰らわず生きて居られる”。彼等は“人喰い”だ。その欲望を抑えられているのも玖硫一族の地に棲息しているからである。その事で“現世での邪心”が浄化され人間の様に生きていられるのである。

 もっと言うと……“葉霧の住む地”は退魔師の力で浄化され、あやかし達の大半は“心穏やかに暮らせている”。❨だから楓も人喰いに関する欲望が薄らぎ、更に彼女には蒼い勾玉がありそれが完全に“制御装置”の様に働き……人間と同じ食欲で生きていられるのである。つまり……人を喰わず生きていられ、人を喰いたいと言う欲望が消えている。お菊、フンバも同様であり人喰いを望まなくなったのである。❩

 だが、そこに“邪心”が備われば……それは無意味になる。そして……是迄に葉霧に牙を向いたあやかし達は、“邪心、闇心”に囚われてしまった者達である。

 「楓、大丈夫だよ。あたしもフンバも葉霧のお陰で狂わなくてすんでる、こんな空気で心まで奪われない。」

 「…………っ。」

人間で言えば……5〜から7歳程度の幼女だ。そんな娘が……ハッキリと主張した。楓は驚き……同時に思う。

 (ああ……そうか。仲間……、家族………。)

2人がずっと訴えて来た事を思い出したのだ。そしてーー、2人を見る。フンバとお菊は戸惑う様子の楓を不安そうに見つめていた。

 「楓?信じられない?」

流石は子供。

 お菊は直ぐにそう言ったのだ。ストレートな言葉に、ふっ。と、楓は笑う。

 「や?オレら家族だ。そー…………、オレは信じる事を忘れてた。ごめん。」

 ??

フンバとお菊はお互いの顔を見合わせていた。けれども……声が聴こえる。

 「楓っ!!」

少し離れた場所から響く……その声が。

 「葉霧……??」

その声が葉霧だと知り楓はトンネルの入口の方に目を向けた。すると、お菊とフンバが同時に、ほっ。とした顔をしたのだ。

 「良かった。葉霧……無事だったんだ。」

お菊がはにかんだ顔で言う。フンバも隣で笑う。

 「旦那様がお迎えに来ましたっ!」

楓はそれを聞き、あのなぁ。と、苦笑い浮かべる。が、何処かホッとした顔をしていた。

 (………葉霧……良かった………無事で。)

 その数分後ーー、楓と葉霧は再会するのであった。 

     

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