第215夜 闘う少女たち②
“妖”であるモグラの姿をした“浮雲番”を先頭に、楓が突き抜けた事で出来た空洞を歩く夕羅たち。フンバの御用提灯のオレンジ色の灯りのお陰で真っ暗だった空洞は明るく、彼女達は足を取られる事もなく奥に進んでいた。ふと、夕羅は後ろを振り返る。自分達が歩いて来た道のりを。
(入口があんなに小さい……、随分とふっ飛ばされたんだ……楓。)
捜し者である鬼娘楓の姿はまだ見えない。そして、空洞の入口はとても小さく見えた。丸い穴をぼんやりとオレンジ色の灯りが照らしている、そこには葉霧、灯馬、秋人、鎮音、そして鎮音の“隠し者”である化猫の蒼と紅が居る。更に幻世から出て来たあやかしの2人組も。
夕羅は振り返るのを辞めた。前を向き強く奥を見据える。
(それよりも……なんなの?この異様な寒気。一気に冬になったみたいなんだけど。)
夕羅が前を向いた理由ーー、それがこの異常な寒気だった。奥に進むにつれその寒気は強くなり身震いさえ起きる。今は夏本場である。この地底トンネルを出れば気温35℃と異常気象だと騒がれる程に常夏な世界が広がっている。なので、夕羅、水月共にキャミソール姿である。けれども、ぶるっ。と、彼女は身震いしモグラのフンバに声を掛けた。
「ねぇ?フンバ、なんなの?この寒さ。ちょっと異常じゃない?」
その表情は我慢出来ぬと言いたげだ。すると、水竜率いて歩いていた水月が言う。
「私も思ってた……、ねぇ?フンバ。この気温の差とかももしかして現世、幻世に関係あるの?」
ちらっとフンバは2人を見るがその隣を歩いているお菊が答えた。
「あるよ、だってこの寒気は“瘴気”だから。」
「瘴気??」
夕羅が聞くと、お菊は歩きながら言う。
「現世の空気みたいなモノ。瘴気は幻世の空気。でも、違うのは瘴気も生きてるってこと。現世の空気は生命じゃない、けど幻世の瘴気は生命。つまり……“意志”があるんだ。」
水月と夕羅は、え?と、目を見開くが、声が聞こえた。
「“羽村本部長”!居ました!鬼ですっ!」
それは、少し先の方からであり空洞に響いたのだった。その情景、状況は見えなくとも男の声が空洞に響いたのだ。
「ヤバくないっ!?」
見えないが……その声に夕羅は言った。
「え?まさか……楓ちゃんのこと?」
水月は表情が強張った。そして、夕羅が言う。
「行こう!」
うん。と、水月は頷き2人は駆け出した。
「わっ!待ってくだせぇいっ!アッシ居ないと暗闇!真っ暗ですぜ!!」
慌てた様にフンバが2人を追い掛けたのであった。
❋❋❋❋❋❋❋❋❋
夕羅、水月達が駆けつけた場は少し距離があり2人は、はぁ、はぁ。と、息を上げていた。
全速力で50メートル走を走り抜けた様に2人の呼吸は荒かった。だが、その疲労感をフッ飛ばす光景が直ぐに目前に突き付けられた。完全武装した人間達がマシンガンを構え、地面に仰向けに倒れている楓を包囲していたのだ。
「え?なに?警察??」
夕羅は完全武装した男達を見て目を丸くする。夕羅が迷わずにそう言ったのには理由がある、彼等の右腕には、“特殊班”と印された赤の腕章が嵌められていて、ネイビー1色の武装した服装、防弾チョッキを着込み頭部には当然の如く護る為のネイビーの硬そうなヘルメットを被っている。楓を包囲しマシンガンを構える男達の身体は屈強そうであり、その背中には“DST”と表記されている。“DangerSpecialTroopsl”その略である。英語では簡易表記だが、意味は“最も危険な存在を排除する部隊”である。彼等がテロ組織や自衛隊では無い事を夕羅は察したのだ。だからこその発言であった。
「ええ、そう。警察です。“特殊部隊本部長 羽村海里”。私は“あやかし”を排除する為に来たの。」
そう言ったのは楓を包囲する屈強な男達の少し後ろに居る女性であり、彼女はリボルバーを夕羅に向けた。その銃口を。
「………っ!」
夕羅は冷たい眼をしたその女性を見据えた。細身の身体だが身長は175㌢とそこそこに高い女性だ。更に、さらっと流れる黒ツヤのロング髪は腰元まであり、リボルバー向けた時にその髪はさらっと揺れ靡いた。黒いパンツスーツにちょっと高めのヒール、美人顔も重なり美しく気高い孤高の姫……、そんな言葉が似合う女性だった。夕羅は何の迷いもなく自分にリボルバー向ける羽村海里にちょっと怯んでいたが、隣の水月は違う。
その孤高の姫を睨みつけていた。
「楓ちゃんを殺しに来たのっ!?」
そう怒鳴ったのだ。すると、ちらっ。と、スッとした目元をした海里の視線は意識喪失状態で仰向けのまま地面に倒れてる楓に移った。その眼は楓の額に生えてる白い角を見ていた。
「この鬼と言うよりも……そうね、あやかしを殺しに来た。そう受け入れてくれる?」
すっ。と、海里は水月に目線向けるとリボルバーの銃口を自身の頭上に向けた。天井にリボルバー向けると、ガンッ!と、放つ。1発。銃声が轟き海里の頭上の天井に丸い小さな風穴は開く。
「…………!」
それは威嚇としての行為であり、それは水月、夕羅には効果的だった。彼女達はその行動と音に怯んだのだ。特に水月は、睨んでいた眼が一瞬にして弱まった。
(え?なにこの人!ヤバっ!!ホラーじゃん!)
ある意味……不気味に思えたのである。
フッ。と、海里は2人が戦意喪失した様子を見て軽く笑うと、リボルバーを下げ言った。
「私は本気。解ったなら黙ってて。ああ……貴女達にとっては少し……辛い現実かもね?でもそれは致し方無いことだから恨まないで。」
は??と、海里の言葉に夕羅と水月は意図計り知れぬと怪訝な顔をしたが、その答えは直ぐに解る事になる。海里はリボルバーを持ったまま両腕を組み楓を包囲してる“DST”のメンバー達、数十人を見据えた。地面に倒れてる楓の周囲を取り囲む男達は実に、10人を越えていた。そして全員がマシンガンを持ち今にも撃ちそうな構えをして待機しているのだ。彼女はそんな面々を見て言う。涼し気な顔で。
「撃て。」
それはとても冷たい一声であった。
その一声の後にーー、ズガガガガガガっ!!
意識不明、倒れてる楓の身体にマシンガンの銃弾が何十発と放たれたのだ。楓の身体は撃たれ衝撃で地面から跳ね上がる。まるで実験模型の様に。それと同時に銃弾が撃ち抜く箇所から紅い血飛沫が上がる。
「いやぁっ!やめて!!やめてーっ!!」
水月は叫んでいた。
そしてーー、その目には涙が浮かび、マシンガンで撃ち抜かれ鮮血の血飛沫上げる楓を見ていた。
「…………っ。」
夕羅は、泣きそうな顔をしていたが、ぎゅっ。と、右手を握り締めた。
(クソが。許さねぇ。)
夕羅の身体が碧い光に包まれる。風が巻き起こるーー。全身に碧い竜巻が巻き起こる。
うわぁ!
と、、、マシンガンで楓を撃ち抜いていた警察官達は、その光景に怯み武器を持ったまま退いた。
そして彼女の身体は碧い竜巻に纏われながら、右手に虹色の弓が握られる。それは羽の様にふわふわした第1形態とは異なりボーガンの様な形状だった。しかも、その矢は3連。一度に3本の矢を放てる形状であった。夕羅はそれすらも気にも留めずボーガンを構え、海里を睨みつけていた。
「……許さねぇぞ、まじで。」
夕羅の声は低く響く。そして、その3本の矢が狙うのは本部長羽村の心臓だった。彼女は標的をそこ1点にし、涼し気な美女を睨みつけた。
フッ……と、海里は何処か余裕ある笑みを浮かべていた。けれども、ずっとこの戦況を見守っていたお菊は、空洞の奥を見据えていた。彼女の黒い瞳はじっ。と、黒い靄と煙に覆われる空洞の奥深くを見ていたのだ。
(居る…………もっと大きな何か………。アイツらが幻世の扉を開いたから瘴気が流れ込んだ……、そのお陰であたしの“力”も強くなってるけど……、でも……それってきっと現世に居るあやかし達にも同じ様に影響あるって事。)
お菊は地面に血だらけで倒れてる楓を見つめた。その黒い瞳は潤む。悲しそう、切なそう、寂しそう。いや、もうどうしていいのか解らない様な顔になっていた。そして、彼女の唇はぎゅっ。と、噛みしめる様に結ばれる。
(楓っ!起きて!)
お菊は紅い紅葉柄の着物の裾を、ぎゅっ。と、握り締めた。涙を流しはしないが泣きそうな顔をしていた。
そしてーー彼女は叫んだ。
「楓っ!!起きてっ!!」
可細い身体の幼女が全身全霊込めて叫んだのだ。はっ。と、したのは、夕羅、水月、そして……羽村海里だった。
海里はリボルバーを即座に構え楓に目を向けた。
ポゥ。と、、、楓の胸元が蒼く光る。
「え??」
海里は柔らかく光るその蒼い光を見て目を見開いたのだった。




