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第212夜 橘玲衣×Part2×鬼娘楓

 モスグリーンのコート……今の季節、夏には似つかわしくないソレを着ていた“探偵如月”の身体は完全に幻世から来た“妖”に寄り取り込まれ養分とされた。如月は名を“如月翼”と語り淡雪街をメインに“探偵事務所”をやっていたネズミ系の妖である。

 淡雪街に住む葉霧、鎮音に出遭わなかったのは彼がそれだけ隠れて動いていたからである。だが、淡雪は“退魔師”が棲む街であり良くも悪くも“妖”は集まる。如月は妖の街を彷徨き仲間たちと街に蔓延る妖たちが絡む事件を自分達なりに調査し、解決して来た。が、彼の活躍は此処で終わった。

 そしてーー、一部始終を眺めていた“橘玲衣”が叫んだ。

「如月さんっ!!」

 と。彼女は直ぐに苦渋の表情をした。

(見掛けた“怪しい集団”の中にまさか如月さんが居るとは思わなかった……、気付かなかったっ。)

 橘玲衣は街中で楓達を見掛けて追って来ただけである、その為そこに如月が居るのは見えなかったのだ。彼女はそれを少し悔いている様子であった。  

 ハッとして楓と葉霧は玲衣に顔を向けた。蒼く光る刃……日本刀に似た“夜叉丸”を握る楓の蒼い眼が宝玉の様に光る。

 「なんて??つか、知り合いなのかよっ!?」

楓が怒鳴ると橘玲衣は、養分として取り込み自身の一眼レフカメラをも壊した大男から目線を外し楓を見た。楓はその“瞳”を見てハッとした。彼女の瞳はさっきまでの黒い瞳とは異なり、薄桃色の光りを放つ瞳になっていた。楓はその人間とは異なる瞳と煌めきに眼を丸くした。

 「な……何なんだ?お前……。」

(つか……この“瞳の色”……どっかで見た事あんぞ?え?何処だっけ?)

 暖かくもあり優しい光でもあるのだが、何処か強く光る瞳だ。そしてーー薄桃の桜の華と同じ色だ。

 楓はじっ。と、橘玲衣の瞳を、その色を見据えていた。すると葉霧が険しい眼をして言う。碧の眼はエメラルドの様に煌めいている。

 「君は一体何者なんだ?」

そう言いつつ彼の右手には“退魔師”の力である白い光が放たれる。掌にその光は充満して今にも橘玲衣に放出されそうな程、強い光が。

 橘玲衣は、目元に掛かる少し長めのブラウンの前髪を掻き上げて、葉霧を薄桃の光放つ瞳で見据えた。

「それはコッチが聞きたい。」

 え?と、葉霧は眼を見開く。はんっ。と、橘玲衣は呆れた様に息を吐き彼に問う。

「え?貴方……“退魔師”なんだよね?だったら何で今迄放置してたの?この現状、この現実、全ては貴方の所為じゃない?」

 それを言われた葉霧は白い光が灯る右手をぎゅっ。と、握り締め涼し気な顔が一瞬にして険しくなる。眉間にシワが寄る。

 「得体の知れない奴に言う必要はない、それを知りたいならお前は何者で何で如月さんを知っていたのか教えろ。」

 威嚇的な口調で言うと、橘玲衣はあろう事か“雨水秋人”の拘束解け地面に落ちた大鎌の刃が銀色に光る大刀拾うのを見据えた。そして、彼女は言う。

 「そこの“妖”、あたしのカメラをブッ壊してイキってるけども?無意味だから。」

 は??と、大男は大刀を右手で握り締めながら眼を丸くした。“妖狐斜離”と同様の紅い眼が。橘玲衣は薄桃の煌めく瞳向けながら言う。それはとても強い口調だった。

 「あたしの“眼”。これ“激写記録”❨メモリーログ❩言うて、一度観た物は脳内に記録されて記憶されんの。カメラ持ってんのは仕事上。二段階認証ってやつ?つか、力使うと疲れるしね、でもあたしの眼に映ったモンは消えねぇので、貴方の事も既にインプ済。後はパソコンにあたしの記憶❨データ❩をダウンロードするだけ。」

 は??と、大男は眼を見開いた。橘玲衣は強気な眼を向けて言った。

 「舐めんなよ?現代のブログ記者。つか……お前ら絶対に逃さねぇからな!」

 彼女はそう豪語したのだ。

 楓は葉霧を見た。

「どーゆうこと??」

彼女がきょとんとした顔で言うと、葉霧は気難しい顔をした。だが、橘玲衣を見て問う。

 「橘玲衣……、家族を惨殺されたか?それも妖に。」

彼の低く冷たい言葉に楓は、ハッとした。その猫目が一瞬にして憂いた眼差しになる。すると、橘玲衣は、ぎゅっ。と、両手握り締め眉間にシワ寄せて葉霧を睨みつけ怒鳴った。

 「ええそうよっ!あたしの父親は妖に喰い殺されたっ!でも、死体検分で猟奇殺人事件って言われて、未だに犯人解んないのよ!でもあの殺され方は、猟奇殺人事件なんかじゃないっ!何者かに喰い殺されたっ!しかも頭から噛み付かれて頭部半壊してたんだからっ!」

 生々しい発言に楓は眼を潤ませていた。

(まじか……、この時代でもまだ……人喰いがあんのか……。)

 比較的、平穏であり平和で静かな世界。

それが彼女が思う現代である。平安の時代とはとてもじゃないが違う。この平成の時代は。

 楓は頭を抱えた。そしてその顔は苦渋に満ちていた。

(何でだ?平和……、満たされてる世界なのに……何で他者を喰らう?オレらの世界の様な戦乱はねぇ筈なのに……。喰い物に困らねぇ筈なのに、妖はなんで人間を喰らう?)

 楓の眉間には縦皺寄っていた。けれども、橘玲衣の言葉は響く。

 「お前達はなんなんだっ!何で人間を食べるのっ!?最終的に何がしたいのっ!?」

 すると、ふははっ。と、バカにした様に笑ったのは“政宗”だった。この世界の秩序を護る為に本来なら存在する妖。それがヌシ。その者達と同じ真紅の眼をした男は玲衣を見て嘲笑う。

「何で喰う?それは食事だからだ、お前ら人間も他者を喰らい己の養分とし生き永らえるだろう?お前ら人間は同族喰いを嫌うが、俺達は別にソコは気にしてないし、養分の為に喰らう。只……好みってのはある。俺は同族よりもやっぱ人間よ、それもお前みたいな勝ち気で胸くそ悪い女。それを喰ってる時が1番の至高。頭から齧りついて涙流して悲鳴上げる瞬間なんて最高。ゾクゾクするね。」

 政宗はにたりと笑いその口元から鋭い牙を覗かせた。ゾッとした玲衣は少し身体を退くが、彼女は負けじと政宗を睨みつけた。

 「ド変態っ!お前みたいな鬼畜が生きてていい世界は終わってんのよっ!何で如月さんを殺したっ!?アンタに殺されるよーな事を彼がしたのっ!?」

 玲衣の言葉に楓はぎゅっ。と、夜叉丸を握り締めた。彼女の表情はとても憂いていて、尚且その蒼き眼は炎の様に滾る。玲衣を見て楓は言う。

 「ソコに理由はねーよ、目の前に居る。後……、下位の妖より役に立つ養分だから喰う。只、それだけ。人間もそうだろ?品質イイ肉、野菜喰うじゃん?オレらもそれと同じ。」

 すると、玲衣は楓を薄桃の眼でキッ!と、射る様に睨みつけた。

 「だったら!同族だけ喰えばっ!?何で人間を喰うのよっ!それも何も出来ない弱者ばかりを狙って喰い殺すじゃないっ!アンタらの言ってる事は破綻してる!食事じゃない!弱者の命を喰い散らかして尚且、それすら愉しんでるサイコパスよっ!アンタら妖はこの世界にも何処にも必要ないっ!存在価値は無いっ!死ねばいいっ!!」

 玲衣の言葉に楓は……眼を見開き言葉が出なかった。だが、政宗は大鎌に似た刃を持つ大刀を握り、フッ。と、冷たく笑う。

 「はいはい、お嬢様、演説は終わりましたか?それならそろそろ死んで貰おうかね。お嬢様……、この世にはどうしようもない圧倒的な力の差ってのがある。どんたけお前が俺を、妖を責めてもお前は最終的に殺され喰われる。お前の父親の様に。な?」

 政宗はスッ。と、大刀を突き出した。それは銀色の刃を玲衣に向けた。彼女は少し怯む、何故なら政宗の右足がスッと前に静かに一歩出て、彼の真紅の眼が彼女を捉え睨みつけたからだ。

 つまり………玲衣は気づいてないが、政宗は一瞬にして地を踏込み間合いを詰めその大刀で玲衣の心臓を穿こうとしていたからだ。距離はあるが、それが出来るだけの俊敏さを政宗は持っている、大男で体重も重い筈だが、そこは“鬼”。彼等には産まれ持って“風”が味方してくれている。つまり、疾風の如く戦では特攻隊になっていたのだ。それは今も特性としては変わらない。

 とーー、バッ!と、橘玲衣と政宗の間に入ったのは楓だった。

ハッとしたのは政宗で真紅の眼は見開く。

 「止めてくんね?この姉ちゃん喰うの。コイツには聞きてぇ事がある。つか、お前はさっき幻世の退魔師とか言うてたが、全然違げぇし。お前は只、好き勝手に同族喰ってるクソじゃねーか!」

 楓がそう言うと政宗は、フッ。と、柔らかく笑う。

「あーそー……東雲の言う通りお前は“人喰い”辞めてんだな?へぇ?禁断症状出ねぇの?修羅姫。」

 楓はそれを聞き真っ直ぐと彼を見据えた。

「出ねぇよ、喰いてーとも思わねぇ。」

 政宗は、あーそー。と、身体を起こし大刀を右肩に乗せた。楓を少し小馬鹿にした様に見ると言う。フンッ。と、鼻で笑いながら。

「東雲に人肉の美味さを教えたのはお前だよな?修羅姫。アイツはそう言ってたが?」

 え?と、葉霧達は目を見開く。政宗は更に言う。

「お前……、俺を否定出来んの?つか……幻世を否定出来んのかよ?“人喰い鬼”が。」

 政宗の言葉に、楓は目を見開き動揺を隠せなかった。

「……………っ。」

只………、彼女は政宗を見据えるしかなかったのだ。    

      

   

     

 

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