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第210夜 雨水秋人と地のヌシ九雀

橘玲衣は、楓と葉霧の姿を持ち前の一眼レフカメラに捉えた。

 だが、ん?と、トンネル奥で固まるカピパラ並みに大きなドブネズミの姿を見るとカメラを構えレンズを向けた。

「え?何??なんであんなでっかいネズミが居るの??」

 そう言いつつパシャリ、パシャリとシャッター押しまくる。その光で、うきゃっ。と、ネズミ達は眩しさにパニック状態になるが玲衣はお構いなしでトンネルの奥で光から逃げ惑う彼等の姿をカメラに押さえていた。すると、此処で楓が怒鳴る。

 「オイ!やめろっ!嫌がってんじゃねぇかっ!」

だが、玲衣はトンネルの奥、壁際で逃げ惑い光から逃げ道探すネズミ達をレンズ向けて撮影しながら言う。

「は?何が?妖ってのは残虐なのよっ、あたしは隠さない。その為にこの道を選んだんだから。」

 そう言いながらその流れでトンネル奥に立つ大男の姿をレンズは捉えた。大男は顔面こそ人間と然程変わらぬが、人相は悪い。眼つきは鋭くわかり易く三角に尖っている。通常の人間では有り得ない眼付である。そして瞳は炎の様に紅くまるで燃えている様だった。

 は?と、玲衣はレンズ覗く目を見開く。だが、そのレンズでしっかりと目の前の大男の姿を見据えた。

 大男は曼殊沙華の柄の着物を着てるが、右肩叩けておりその筋肉質な肩には白く尖る角が生えている。彼女はそれを見てカメラを握る手が震えた。

 (嘘………、此処にも鬼??)

楓にも同様に額にその角は生えている、が、大男は三連の角が右肩に生えている。剣山の如く鋭い角だ。

 (怯むな……橘玲衣っ!やっとここ迄来たんだからっ!) 

 玲衣はぎゅっ。と、カメラ握り締めた。そして彼女は構えたのだ。カメラを。白い着物に曼殊沙華の柄……大鎌の刃、大刀持つその者をカメラで捉え撮影したのである。

 パシャパシャっ。と、シャッター音鳴る。大男はフラッシュの光に一瞬目を晦ませ野太い腕で光を遮ろうと目元隠した。

 「と……撮った!撮ったわよ!逃さないんだからっ、今度こそっ!」

 玲衣は撮影した事に歓喜極まりカメラを目元から提げた。が、大男の紅い炎の様な瞳がその一眼レフカメラを見据えた。その時、ボッ。と、カメラは炎に包まれたのだ。

 「きゃっ!」

玲衣は慌てカメラを直様に首元から外し地面に放り投げた。コンクリートの地面で彼女のカメラは炎に包まれた。

 「…………!」

玲衣はそれを見て驚きを隠せず呆然としていた。が、直ぐに大男の声が聴こえる。

 「悪いな、お嬢さん。まだ俺等の素性っての?それを人間に晒すつもりはねーのよ。なんで、余計な事はしねぇのがアンタの為になるぜ?」

 ドスの利いた声ではあったが何処か橘玲衣を諭す様な口調でもあった。玲衣は未だ燃えるカメラを見つめて青褪めていた。

 (え?何なの?どうゆうこと?)

 玲衣がそう思っていると秋人が大男を睨みつけながら言う。

「だとしてもお前らが悪一色なのは解ってんだよ、で?俺らはそれを止めるかブッ壊すしかねーのもな。」

 ポゥ。と、秋人の身体の周りに九つの黄金の光の玉が現れた。直ぐにそれはまるで彼の身体を護る様に纏わりつく様にうようよと動きながら光を放ち現れたのだ。

 大男はそれを見て少し目を細めた。

(ほぉ?只の人間かと思えば“主”率いてんだな。)

 大男は九つの黄金の光の玉を身体の周りに纏わせる秋人の右肩を見ていた。そこにちょこんと乗る小人サイズの坊さんが居る。法衣姿の“地の主九雀”だ。今の大男と同様に燃える様な紅い瞳を宿した坊主。金の錫杖を持ち秋人の肩の上で仁王立ちしている、だがその全身は黄金の光に包まれている。それは炎の様に小人サイズの九雀の身体を包んでいる。

 大男はそんな九雀と黄金の光に包まれた棍を右手に握り自身を睨む秋人を、再度眺めた。

 (なるほど。コイツら何気に“主”を仲間に率いれてんのか、ははっ。クソ面倒だな。“退魔師”と“修羅姫”だけブッ殺せば終いかと思ってたが、そうはいかねぇってか。)

 大男はフッ。と、不敵な笑みを浮かべ大鎌の刃をした大刀を右肩に乗せ言う。

 「来いよ?地の主に護られし人間。てめぇが先ずは1人目、俺がこの“現世”で殺す人間のな。」

 秋人はそれを聞き眉間にシワ寄せた。

 「あ?舐めんな、お前が死ぬんだよ。」

彼が言うと九つの黄金の玉はぐるぐると、秋人の全身を頭の先から爪先まで巡る様に纏わりつく。

 大男はその様子に大刀を肩から降ろし身構えた。体制少し低くし、何時でも斬り掛かれる様に右足を前にし構えたのだ。秋人はそんな大男を見据えて黄金の棍を突き刺す様に振り降ろした。

 「“九珠法陣”。」

 九つの黄金の玉が一斉に大男に向かって放たれる。はっ。と、した大男だったが遅く、その身体は九つの黄金の玉により制圧されたのだ。カッ!と、光ったのも束の間、大男の全身は黄金の光の縄で捕らえられ身動き出来ぬ程に縛られたのだ。

 「うっ…。」

少しの苦しそうな声が漏れる。

 大男は身体を屈める事も後ろに仰け反る事も出来ない。蓑虫の様に黄金の光の縄で縛られ両手、両足も直立不動の様に身体にくっついていた。ガシャン……と、大きな音を立てて大男が持っていた鎌の刃持つ大刀がコンクリートの地面に落ちた。更に、バチッ、バチッと黄金の縄からは稲妻の様な光が放たれる。締め付ける縄と電撃の攻撃に大男は苦渋の表情を浮かべた。が、彼の眼は死んでない、燃ゆる紅い瞳は秋人の肩に乗る小人サイズの坊さん……“九雀”に向いていた。

 ギリっ。と、奥歯噛み締める。その口元には白く鋭い牙が唇の両端から覗く。

 (地の主……九雀……。“封”を得意とする得体の知れねぇ坊主だったな、あーそうかい。このガキがお前の弟子か。)

 バチッ……バチッ……と、全身を駆け巡る様に黄金の光の電撃は彼を襲う。けれども大男はフン。と、鼻で笑う。

 (“封”ならコッチは“破”。)

大男は電撃を食らいつつも右手を動かす。動かすだけで痛みがあるのか少し顔は歪むが、少しだけ右手上げると握り締めた。

 ボワッ。と、握り締めた右手に紅炎が纏う。燃え滾る紅い炎が。更にその炎に纏う様に黒い電撃の様な光まで纏う。バチッ、バチッと相反する様に。むぅ。と、気難しい顔をしたのは“地の主九雀”だった。秋人の右肩の上に乗ってる小人サイズの法衣姿の坊主だ。

 「秋人よ、さっきから言おうとは思ってたんだが………。」

あ?と、秋人はその小人に目を向けた。

 う〜む。と、小人サイズの坊主は眉間にシワ寄せながら目を閉じた。なん?と、秋人がイラついた様に聞くと、彼は答えた。

 「アイツは……“元ヌシ”じゃな。」

は??と、秋人が目を丸くすると九雀は右手に持つ金の錫杖を大男に向けた。

 「あの“紅い眼”。アレは我等“ヌシ”の象徴。故に“妖”で紅い眼を持つ者はヌシ以外におらんのだ。これは遙か昔からの理、理由は解らぬとも我等は継いで来た。」

 九雀の言葉に秋人は片眉吊り上げた。

 「あ?じゃーなんでアイツは?って話になるよな?で、結果、アイツは元ヌシだと?てことは?アイツは死んでんの?」

 九雀はそれを聞き、ほぉ?と、眼を見開いた。秋人を見て言う。

 「お主……ちと理解力アリ過ぎんかね?」

 「や?いーからどーなんだっつの。」

秋人が言うと九雀はフッ。と、軽く笑い答えた。

 「そうさね。あやつは“妖”、最早ヌシではない。1度死に絶え“幻世”に囚われそこで間違った力を手に入れた憐れな魂。あの“身”も与えられたモノだろう。だが、身は抗えなくとも“心”は未だ“ヌシ”。故に……戸惑っている。だから象徴が現れた。」

 ふぅ。と、秋人は息を吐くと棍を握り締めた。ぎゅっ。と。 

「で?どーやったらアイツをブッ殺せんの?クソ坊主。」

 九雀は右手に紅い炎と黒い電撃を纏う大男を見据えて言った。

「九珠法陣は効かぬ、アレは“妖”の為の封印術。元ヌシには時間稼ぎにしかならん。余り進めたくはないが……“棍”じゃ。」

 九雀は秋人の右肩の上でむぅ。と、やはり険しい表情をしていた。黒の法衣着た海坊主みたいな坊さんだ。だが今は小人サイズで肩に乗っている。

 「棍?」

 秋人は右手に握り締めてる棍を眺めた。黄金の光纏う棍だ。

 「ああ、それが奴にとっての“破”となる。そしてそれを出来るのはお前だけだ、秋人。」

 怪訝そうな顔をする秋人だが、あーそう。と、彼は棍を握り締めた。

 「なる。」

 彼は頷くと、ダッ。と、右足踏み込み走り出した。右肩で九雀が叫ぶ。

 「秋人!アヤツの右肩の“角”を狙えっ!鬼は角が弱点じゃっ!」

 九雀は金の錫杖を突き刺す様に向けた、大男の右肩に生える三連の山の様な白い角を。

 「りょーかい。」

秋人は少しばかり不敵な笑みを浮かべながら、黄金の光の縄で拘束され右手に紅炎を放つ大男に向かっていた。

 大男は、立ち向かって来る秋人を見てフッ。と、余裕綽々の笑みを浮かべた。が、彼は知らなかったのだ。“雨水秋人”は未だ発展途上で日々の鍛錬を欠かさぬ努力家だと言うことを。そして、その背後でサポートする“地の主九雀”の力を。

 「秋人!」

九雀は黄金の錫杖を大男に向けて叫んだ。カッ!と、黄金の錫杖は光を放ち、曼陀羅を光の輪の様に放った。

 それは大男の右肩の白い三連の山の角に向けて放たれた。秋人は、コンクリートの地面を踏み込み飛ぶ。黄金の光放つ棍をまるで槍の様に持ちながら。

 「死ねやっ!」

 黄金の光に包まれた曼陀羅のブーメランの刃達と一体になり、秋人の棍は大男の右肩に突き刺さった。ドスッ。と。

 うぐっ。

と、大男はぐらつき縛られたままに両膝をコンクリートの地面に着いた。右肩には黄金の光に包まれた棍が突き刺さっている。更に九雀が放った黄金の曼陀羅がブーメランの如く、ザシュっ、ザシュっ。と、白い角を削ぎ落とすかの様に舞った。

 けれども、、、彼の白い角は微塵も傷つかなかったのだ。

クソっ。と、曼陀羅が錫杖に戻るのを見ながら九雀は舌打ちする。

 フッ。と、自身の右肩から棍を抜き地面に着地する秋人を見て大男は笑う。それは不敵で何処か莫迦にした様に。

 「………東雲が言う通りだな、、、人間は愚かで阿呆。少しの光に縋りそれに甘え……結果、死ぬ。」

 棍を握りながら秋人は、未だ黄金の呪縛解けずなのに強気な大男を睨みつけた。

 「は?なん?それ。」

フフっ。と、大男は蓑虫状態のままで秋人を見て笑う。

 「解らんならそれまで。だが死ぬんだよ、お前もあの退魔師も、修羅姫もな。」

 ギロリ。と、紅い瞳が秋人を見据える。

 「…………。」

秋人は黄金の棍を握り締めながら言う。

 「あっそ。俺もアイツらも簡単には殺されねーし?つか、死ぬのはてめぇなんだよ。」

 秋人は大男を睨みつけた。       

   

 

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