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第188夜 蒼き鬼娘

大きな黒龍は、少女を2人飲み込んだ。

うようよと黒炎を纏う龍2匹は、高層の展望台に現れ、瞬く間に鬼娘楓と、霊能師の穂高沙羅と言う少女を丸呑みしたのだ。

龍とは言うが、水天龍が寄越した“水竜”の様にシャープでキツネ顔な者ではない。

明らかにトカゲ。

恐ろしい牙を持つ獣感の強い形相。

更に、その体毛は恐竜に近い、硬い皮に護れられた古代の姿。古龍と言うに相応しい者達であろう。

「楓……。」

退魔師の末裔である“玖硫葉霧(くりゅうはぎり)”は、眼の前に現れた黒炎の龍たちを前にして、表情を硬くした。

「ど……どうすればいいんだ?? 葉霧くん?? 沙羅は?? 楓ちゃんは??」

そこに来て、いちお“あやかし専門部署”と言う名目で、警視庁に起ちあがった“機密部署”。

“特殊捜査課”の刑事である“新庄拓夜(しんじょうたくや)”は、狼狽えていた。

葉霧や鬼娘楓に会い、それなりに“人間と異なる種族”とは遭遇して来たが、日は浅い。

戦闘経験も遭遇比率もそこまで高くはない、完全な“素人”だ。

ようやく、“霊力を籠めた銃弾”を持つ“霊銃”を、持たされ撃つようになったぐらいの、ただの人間だ。

(………どうすればいい? あの黒龍を消して……2人は助かるのか? いや、そもそも俺の力で消せるのか?)

葉霧が迷うのも致し方無い。

彼もまた、“退魔師として覚醒”したのはつい最近だ。現れる“(あやかし)“が、初見。戦闘経験は数知れている。闘いに遭遇して、ようやく”退魔の力“を使いこなしてるだけだ。それも、彼の祖先の才能が開花させているだけ。その事で、彼は闘って来れた。更に鬼娘楓の経験豊富な知識のお陰で、命拾いしてきたのだ。

「んじゃーま、食われるのは人間からだな。楓。聞こえてんだろ? お前が“本気”出さねーと、霊能師とかゆーオンナは餌になる。」

黒い和服姿の“東雲”は、右肩に妖刀修羅刀を載せてそう言った。

ぽんっと肩に銀色に光る刃を載せ、隣にいる黒龍に目を向けた。

その時だ。

カッと、東雲の隣ににいた黒龍が腹を蒼く光らせたのだ。風貌はトカゲに似てるが胴体はヘビ。地面に長い尾をトグロ巻き立っていたが、その腹部が蒼い閃光を放った。

ギエッ!!

何とも言えぬ苦痛に満ちたその呻き声。獣とも鳥とも言えぬただの悲鳴。

黒龍は大きな頭を後ろに倒した。

長い胴体はその反動で背面に反り返った。

蒼い閃光を放つ腹部は、破裂したのだ。

それを脇で見ていた東雲だけは、笑った。

(やっと拝めるか……、“覚醒”した(アイツ)“を。)

それは、まるで好奇心。

愉しむかの様な笑みであった。

「楓!」

葉霧は、閃光眩く目も開けてられない程で叫んではいたが、その爆風を感じ目を閉じていた。

眩しい閃光と爆風に必死に堪えるだけだった。

「う……わっ!」

隣にいた筈の新庄は、身体がぶわっと浮くのを感じた。そのまま吹き飛んできた爆風に攫われた。吹き飛ばされた事を知ったのは、葉霧から数十メートルと離れた地面に打ち付けられた時だった。

堪える力を彼は持っていない。人間だから。

葉霧は吹き飛んだ拓夜も気にはなったが、それよりも黒龍の腹を突き破った”それ“を見据えた。柔らかくなった爆風と薄くなった蒼い閃光。その中で、仰け反った黒龍の身体が、蒼い炎で焼き尽くされていた。

蒼い炎を背面にーー、現れた。

長く煌めく蒼い髪。

神々しく煌めくその身体は、蒼い炎を纏う。

白い着物姿であるが、膝下から布は開き長い脚が美しく立つ。

素足は、長い蒼き爪を生やす。

更に右手には、“蒼い炎を纏う刀”。

牙が閉じてる口からもはみ出て視える。

蒼く煌めく炎を宿した眼。

頭の上に浮かぶ角はーー、更に深い蒼。

「まさか? 楓か?」

葉霧は、その顔立ちが何ら楓と変わらないのを見て、目を見開いた。

大きな猫目も健在。

風貌は些か大人びているが、顔立ちは同じ。楓が、10代から20代後半ぐらいまで成長した。そんな風貌だった。

だからかーー、白い着物の胸元は豊満であった。着物が開け、抑えきれないほどに成長していた。身長も普段の楓より高い。

155から170程度まで伸びている。すらりとした長い手足が、美しく綺麗であった。

(え……? てか、 胸デカ!)

と、葉霧が思うほど。通常の楓はとても可愛いらしいサイズだからだ。

少し成長した楓は、色気が強く……、葉霧は少し見惚れてしまっていた。東雲はぼうっと見惚れている葉霧を見て、小馬鹿にするように笑った。


ふん。と。


「このオンナが“鬼一族の長”なのはチカラだけじゃねーんだよ、この“美貌”。これで人間も簡単にコロっとイカれる。貴族どもはコイツを鬼だと知っても手に入れたがる。」

東雲はそう言うと腰に手を充てた。

「破滅と混沌を呼ぶ“鬼女”、当時は有名だったんだぜ? これでも。野郎ってのはどの時代も、オンナで狂うからな。」

その声に

「え?? 楓ちゃん?? 楓ちゃんなの??」

声を出したのは拓夜であった。

吹き飛ばされたが、何ら支障はないらしい。ひょっこりと、葉霧の隣に立ったのだ。

「鬼もバカじゃねーからな、ただ人間の前に現れて喰らう、それやってれば返り討ちだ。騙して喰らう。そうやって生き延びて来た。“種の保存”の為に。」

東雲は葉霧を強く見据えた。

「……沙羅を返してもらう。」

その時だった。

東雲の隣にいた楓が、蒼き炎を纏った刀を構え

右脇にいる黒龍を薙ぎ払ったのだ。

東雲はそれを刀を肩に担いだまま、見つめていた。蒼い炎で焼かれながら、胴体を真っ二つにされた黒龍のその姿を。

彼は切り裂かれた胴体が吹き飛んだのを見て、笑った。


にたり。


と。

(俺の力なんてクズか、なるほどな。)

まるで、新しい獲物か玩具を見つけた様な、愉快そうな顔をしたのだった。

黒龍の身体は胴体を切り離され、腹部から沙羅が落ちてくる。

それを楓が抱きかかえた。

受け止めたのだ。

更に、その後ろで黒龍は蒼き炎に焼き尽くされた。東雲の放った黒炎纏う龍二匹は、簡単に消滅したのだった。

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