第四十四話「戦略」
沢崎さんと二人でラーメンを食し、心身ともに満たされた状態で店へ戻る途中。
「……なんだなんだ? やけに店の前に人が集まってないか?」
遠くに見えるお店を細めで見つめながら、沢崎さんが訝しむ。
悪目立ちしている改造バイクのせいかもしれないが、確かに人だかりができていた。
「お昼時だからですかね? 普段の客数を知らないので何とも言えませんけど」
やがてお店の前に辿り着くと、不良少女が複数人で待機列を整理していた。他のお店では見られない、何とも不思議な光景である。
店内に入ると、不慣れな手つきでレジを打ち、一生懸命に客をさばく白井さんの姿。
「遅いっすよ姉御ー! 春姉ー!」
私たちを発見した白井さんが、今にも泣きそうな様子で悲鳴をあげる。
「す、すみません」
白井さんの潤んだ瞳を見て、思わず罪悪感から謝罪をこぼす。
沢崎さんからの誘いとはいえ、私もラーメンに釣られてしまったのは事実だ。
「悪い悪い、腹が減ったもんだからさ……」
良心が傷んだのだろう、沢崎さんも髪先をいじりながらバツが悪そうである。
「二人が帰ってこなくて、本当に大変だったんすよ! 桜雪さんもレジ代わってくれないし! 今だってこんなにお客さんが! 何でか握手を求められるし!」
キッチンの方を覗いてみると、忙しなくお弁当を準備する桜雪さんの姿。
なるほど、別にさぼっているわけではないようだ。
「それにしても、どうしてこんなに人が増えたんです?」
待機列に目を向ける。さっきの主婦層かと思いきや、成人男性が多く見受けられた。
思い違いかもしれないが、この客層……どっかで見たことあるような。
「さっき桜雪さんがインスタで、私とお店の写真を載せたって言ってたっす」
「なるほど、SNSでの宣伝ですか」
徐ろにスマホを取り出し、早速確認してみることに。
「どれどれ……」
『子犬系後輩美少女! えりちゃん本日限定来店』と書かれた金の文字、そして白井さんとお店が写った雑なポスター画像が一枚投稿されていた。
「とてもお弁当屋とは思えないポスター……でもすごいですね、かなり拡散されていますよ」
よくみるとその投稿だけ何故か三万いいねを記録し、コメントも多く書き込まれていた。
「え! 何すかこれ! 私の顔が出てるなんて聞いてないっすよ桜雪さん!」
恐らく話と違ったのだろう。私のスマホの画面を確認し驚嘆の声をあげると、白井さんは顔を真赤にしながらキッチンへ走っていった。
「なるほど、これがSNSを利用した宣伝戦略……」
沢崎さんの顔を見つめながら、ミニドリップでも行けるか本気で考える私。
「何を考えているかは知らんけど、俺はやらないぞ?」
「バニーガール姿の沢崎さんなら、白井さんなんて目じゃないはずです」
「……春姉、それだけは勘弁してくれ」
かつてヤンキー喫茶と化した際に、大きな売上貢献をもたらした沢崎さん。
またいつかヤンキー喫茶をやってもらいたいと思っていたが、どうやら実現は難しそうである。




