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魔王様とスローライフ  作者: 二ノ宮明季
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9

「レイラ、一人で狩ってきたのか」

「ああ。魔王様がこいつらばかり相手にして飽きていたからな。ついでに仕留めておいた」


 コカトリスは殆ど人間の言うところの鶏。身は、鶏肉と蛇肉が同時に味わえる親切設計。

 狩りに失敗すると石化させられる事以外は、非常にいい食料だ。


「そうだ、折角だからドナベしていくか?」


 俺は勇者とオリヴィアの前に出ると、固まっている二人に問いかける。


「う……えっと……」

「それ、は……」

「貴様達が食べていくのかいかないのかはどちらでもいいが、ボクは血抜きするぞ。この辺で」


 一応レイラなりの配慮だったのだろう。血抜きの一言を聞いた二人は、慌てて距離を取った。へたり込んだオリヴィアなど、そのままの状態でずるずるとお尻で移動し、ややあってから立ち上がったせいで、可愛い服が台無しになっていた。

 お尻のあたりが、土で汚れ、擦り切れている。ここがピカピカの廊下とかだったら、綺麗なまま帰してやれたんだけどな。ごめんな。


「魔物といえども、血抜きとか捌いたりとかは、目の前では見たくないな」

「ドナベをするところは見てみたいけど、これは、ちょっと」


 人間、繊細。お肉を食べる時は捌くのが当たり前なのに。


「それじゃあ、夕方にもう一回来いよ。夕食を食べさせてやるから。その時にドナベしよう」


 それまでに血抜きして、捌いて、乾かしておけばいいなら、結構余裕がある。この二人がお肉になる様を見たくないのなら、それしかないし。


「そうして貰えると有難いな」


 勇者が頷くと、隣でオリヴィアも全力で首を縦に振っている。

 もげそうだけどもげない。縦に振っても頭はもげないもの。人間、結構頑丈。


「ただ、なんか土鍋するって単語がもう……」

「駄目か?」

「駄目じゃない! 全然駄目じゃない!」


 ドナベって言ったのは勇者なのにな。変な奴。

 勇者は慌てて咳払いをすると、「一回帰るから! ありがとう」とそそくさとこの場を後にした。勿論、オリヴィアを連れて。


「やっと邪魔者は帰ったな」

「邪魔者っていうのは酷いだろ、レイラ」


 勇者達は、色々と知りたくて来ているのだろう。あの感じだと、人間界は随分と遅れている。


「いいや、ボクにとっては邪魔者だ」


 レイラはぷくっと頬を膨らませた。


「あいつらはちょくちょくボクと魔王様の愛の巣に来やがる。邪魔だ」

「まぁまぁ、そんな事言わず」


 ドラゴンだから、やっぱり家っていうと巣のイメージになるのだろうか。家の中に卵とか無いけどな。


「魔王様、手伝ってくれ」

「当たり前だろ。レイラ、いい獲物を捕まえてくれてありがとう」


 礼を言うと、俺とレイラはナイフと鍋を持って近くの沢に場所を変え、血抜きを開始した。

 既に絞めてくれてはいたようで、コカトリスから石化の魔法を受ける事も無い。手早く作業し、内臓とお肉とに分け、血を洗う。

 コカトリスは、鶏と蛇の顔がついているにも関わらず、不思議な事に内臓が一つずつ――それも鶏のそれしかない。

 俺が捌いている間に、レイラが木の枝と石を組み合わせ、火をつけたら上に鍋を置けるようにセッティングしてくれた。


「魔王様、火をつけてくれ」

「お、ありがとう」


 俺が魔法で木の枝に火をつけると、直ぐに彼女は水を張った鍋をその上にかけた。


「このくらい、お安い御用だ」

「よっ、お値打ち価格!」


 よくわからないが、胸を張ったので相槌を打っておこう。

 こうしてちょっとはしゃぎならお湯が沸くのを待った後で、俺は尾(蛇)を落とし、内臓を取ったコカトリスをくぐらせた。

 これで簡単に羽根を毟る事が出来る。

 羽も食べようと思えば食べられない訳ではないが、消化するまでに結構な時間を要するので、申し訳ないが別の物に加工している。干した後に、掛布団にしたりとか。


 これらを終えたら、後は部位ごとに切り分け、乾燥させ、夕方にドナベするのを待つだけだ。

 内臓の取り分けは既に終わっている。我ながら綺麗に出来た。これもドナベする。


 あとは蛇か……と思いながらレイラの方を見れば、先程まで俺とはしゃいでいたはずが、既に彼女が捌いていた。スパパーンと皮をはぎ、しっかりと血合いを除き、干す段階まで出来ていた。

 綺麗な白身は、淡白な魚の切り身のようにも見える。魚にしては筋肉質ではあるが、中々に美味しそうだ。


「ありがとう。美味しそうな切り身になったな」

「出来れば勇者どもには食わせず、ボク達だけで食べてしまいたいほど、美味しそうな姿になっただろう?」

「美味しい物は分け合った方が美味しいと思うぞ」


 レイラはちょっと面白く無いように唇を尖らせたが、やがて「魔王様がそう言うのなら」としぶしぶ頷いた。素直じゃないなー。

 うーん、それにしても、このまま干すよりも下味をつけるか……。特に今回は、お腹を空かせている人に振る舞うんだし。


「レイラ、一回家に戻って下味をつけよう」

「何味にするんだ?」


 ふっふっふ。これはもう考えてある。丁度食べ頃の調味料に覚えがあるのだ。


「俺、気が付いたんだ」

「ん?」

「そろそろ、豆の発酵液体調味料が出来ている頃なんじゃないか、って」

「おお、あれか! 確かにそろそろだな!」


 ミソと作り方は似ているが、違うのは豆そのものではなく、そこから絞り出した液体を使う、という部分。あれがまた、ミソとは違った独特な風味を孕み、非常に奥深い味がする。

 調味料系は、どれも作るのに時間がかかるのが難点だが。


「あの、黒くてしょっぱくてしゃばしゃばしている!」

「そう、その黒くてしょっぱくてしゃばしゃばのアレと、ドライアドの蜜を混ぜて下味にしたら……」


 俺とレイラは想像し、同時に腹の虫を鳴かせた。


「絶対美味しいな。コカトリスとの相性は抜群だ」

「そうだろう。絶対美味しいよな」


 てりってりの鶏のお肉が、ドナベする事によって、更に独特な艶が出る。美味しくない訳がない。


「そうと決まれば、早速絞ろう!」

「な! 早く戻ろう!」


 俺達は一気に上がったテンションはそのままに、捌いたコカトリスと共に家へと戻った。


   ***


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