表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様とスローライフ  作者: 二ノ宮明季
30/30

30

 悲鳴は、俺達が先程歩いて来た方から。人々は逃げ惑い、俺達を避ける精神的余裕すらも無い様子だ。


「なんだ?」

「……コカトリスだ」


 ふむ。街に紛れ込んだのか。

 俺はさっきの布屋さんに入ると、「何か刃物を貸してくれ!」と声を掛ける。


「あの、何か」

「コカトリスが出たから、仕留めてくる!」

「では、これを!」


 この店員さん、本当はもう俺達の事、怖いって思ってないだろ。俺は店員さんから鋏を受け取ると、レイラと共にコカトリスの方へと走った。

 俺達にかかれば、コカトリスなどそれほど強い物ではない。何しろ勇者とオリヴィアにドナベの説明をしている時に、レイラが暇だったからとさらっと一人で狩った程度の魔物なのだ。


「食べるぞ、コカトリス!」

「次は味噌味も味わいたい! コカトリス!」


 二人で調理法を考えながらもコカトリスに向かい、人々が遠巻きに見る中で、出来るだけ暴れたり、グロくなったりしないように配慮しながら仕留める。


「サイラス、これは一体何?」

「あ、勇者。丁度良かった」


 俺が目いっぱい配慮して仕留めると、不意に声が掛けられた。声の主は勇者。

 このパニックの中で、どうにかしてほしくて勇者に頼った住民がいるのだろう。うん、正しい判断だ。


「買い物してたらこいつが出てきてな。でもまだ買い物の途中だから、捌くとちょっと……」

「……あー、街に出た魔物を、君が倒したと」

「おう、俺が狩った」

「それは、ありがとう」


 ご飯を仕留めたらお礼を言われた。


「皆さん、このように魔王は既に恐怖する対象ではありません!」


 勇者は胸を張り、街中に響く様な大きな声で語る。いつものご飯を食べている時よりも、ずっとしっかりとした演説だ。


「彼らを受け入れ、より良い生活にしていきませんか!」


 勇者の演説に、街の人々がざわめいているのが分かる。


「う、受け入れます! でも鋏は弁償して下さい!」


 やがて口火を切ったのは、あの布屋の店員さんだった。見れば、俺の手元で鋏は血まみれ。

 あぁ、これ、商売道具だった筈だもんな……。ごめんな。


「ごめん! 勇者に頼んで!」

「いやいやいや、弁償するよ。当たり前でしょ」

「第一にして、ボク達は恩人だぞ。鋏は勇者がどうにかするに決まっているではないか」

「……あ、うん」


 勇者が微妙な表情を浮かべながら頷く。


「それじゃあ、ウチの鋏を買って貰おうか」


 次に声を上げたのは、がたいのいい男だった。この人、もしかして鋏屋さん? あ、違うか。刃物屋さんか。

 この会話が皮切りになったのだろう。

 街のあちこちから、俺達を歓迎するかのように拍手がわく。人間って、弱いけど逞しい。


「ありがとう。これから先、彼らはこの街に買い物に来る事になります。けれど、決して悪い者ではないのは保証します!」


 今日の勇者の演説は理解出来るぞ! 凄い、分かる! 俺が街で買い物をしやすいようにしてくれている、という事が、本当によくわかった。

 愛すべき脆弱な人間を、俺は決して食べる事は無いだろう。

 俺はコカトリスを手に勇者に近づくと、無理やり握らせる。


「これ、頼んだ! 俺達は買い物の途中だから、捌いておいて」

「……えっ、僕? でも僕、捌くのは……」


 ちょっとびっくりした顔をしているが、中々どうして。コカトリスを持つ姿は堂々としたものだ。


「行こう、レイラ」

「ああ!」


 俺がレイラを促すと、彼女は嬉しそうに頷いた。


「後で寄るし、その時に調理してやるからな!」

「あ、ありが、とう」


 勇者、なんでぎこちない顔をしたんだろう。その答えは後で聞けばいい。

 俺は片手に鋏、もう片手にレイラの手を握って、目的の店へと走り出した。

 願わくば、もっと人々の笑って過ごせる街を。それを叶えてくれる勇者に、俺はいつでも力を貸す事を心に決めて。

 まずは買い物を楽しむ事にしたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ