表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様とスローライフ  作者: 二ノ宮明季
PR
23/30

23

 お肉の一部は丈夫な紐でぎゅっと結び、ショーユ、水、樹液と、紫のブドウで作った果実酒も加えて煮込む。ついでに畑で取ってきたマンドラゴラも突っ込んだ。

 断末魔が「いやっ……熱い……酷い……」だったのが、結構心に来る。容赦なく煮込むが。

 これがマンティコアの煮込みだ。匂いは美味しそう。トマトのスープとミソのスープは勇者のところに材料を持ち込んで出来るので、こちらはお肉や野菜を先にドナベしておいた。


 ベエコンに関しては、暫く塩漬けが必要なので、その内勇者におすそ分けしてやろう。今日は塩漬けまでだ。

 お肉の表面にフォークで穴をあけ、美味しそうだなー、と感じる程度に塩をまぶし、袋に詰めて保冷庫の中に放置。これで七日くらい寝かせたら、塩を抜いて乾かし、ドナベする予定だ。

 硬かったら俺達だけで食べるけどな。勇者、人間だから顎が弱いし。

 お肉そのままの味を味わう部分は、一番やわらかいところを使う事にして、切り分けて炭火で焼き、これもドナベしておいた。


 何分肉の量が半端じゃなく多い為、中々ドナベが追いつかず、結構時間がかかっている。

 何度もレイラに「疲れていないか?」「辛くないか?」と確認したが、彼女はけろりとしていた。問題がないようで安心と言えば安心だが、あんな事の後なので、もしも無理をしているのであれば早めに休んで欲しい。


 正直、魔王である俺は、それほど相手の弱さを推し量れない。

 人間よりも遥かに強いレイラでさえ、俺に比べれば弱いのだ。俺なら、きっと蠍の毒を食らっても「ちょっと痛い」で済んだだろう。

 ドラゴンが毒針に倒れる事を知らなかったとはいえ……やはり己よりも弱き者というのは怖い。特に、レイラのように傍にいるのが当たり前になった相手が倒れるのは。


「魔王様、焦げているぞ」

「う、うわぁぁ、本当だ!」


 そのまま食べる用にと炭火で焼いていたお肉……何回目かはそろそろ分からないが、とにかくそれが、俺の手元で黒くなっていた。幸いな事に全面ではなく、端っこだけだが。レイラが言ってくれなければ炭になるところだった。危ない。


「さっきからこちらを見ては悲しそうな顔をしているな」


 ……視線が向かっていたらしい。恥ずかしい。

 恥ずかしいついでに、網の上のお肉を皿に乗せた。


「安心しろ。ボクは案外丈夫だ」


 レイラは俺に近づき、ペシ、と背中を叩く。全然痛くない。


「次はあんな攻撃を食らわん」

「……次は、お肉よりもレイラを大事にするし、大事にしてほしい」


 俺は切実に彼女に言うと、レイラは満面の笑みを浮かべで俺にすり寄った。角が刺さってちょっと痛いけど、嫌ではない。


「これだから魔王様が好きなんだ!」


 よりぐりぐりと擦ってくる。うっかり貫通したらどうしよう。いやいや、どうにも出来ない。とりあえずびっくりする。


「ボクはもう、怪我をしたりしないぞ!」


 尚もぐりぐりしたまま、彼女は上機嫌に続けた。


「魔王様が心配そうな顔をしてしまうからな」


 ここまで答えると、ようやっと俺は角の洗礼から解放された。よかった。穴、開いてない。


「いや、しかし、たまには心配そうな顔を見ると言うのも……。こういう顔はレアだし……ちょっとハラワタが零れるくらいまでだったらいけるか」

「いけない! 止めて!」


 レイラ、時々怖い!

 なんで自ら傷つく事を選択しようとするの。痛いだろうに。


「冗談だ」


 冗談!? これが!?


「こんな怖い冗談、冗談じゃない!」

「ん? どっちだ?」

「冗談じゃな……えーっと、冗談じゃすまないぞ!」


 これだ。冗談じゃすまないぞ。


「ふっふっふ。心配して貰えるのは悪くないな」


 心配する方の身にもなってみろ、という言葉は、ギリギリ飲み込んだ。例えばレイラに、今の俺と同じ気持ちを味わわせたいとは思わなかったからだ。

 味わわせるのは、ご飯だけで十分。


「ほら、魔王様。手を動かさなければ調理は進まないぞ」

「……わかってる」


 肝が冷える様な冗談を口にしてからかってきたのは、レイラなのに……。

 こんな風にじゃれ合いながら、俺達は下準備を重ね、勇者の家におすそ分けに行ける支度が整ったのは、大分時間が経った後だった。


   ***


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ