16
家に戻って直ぐにするのは、収穫した野菜を軽く洗い、上にザルをかぶせておく事。それからお湯を沸かす事だ。
新鮮な野菜はよく動くので、脱走防止のザルが不可欠なのである。
もし脱走されると、勝手に日の光で成長し、やがて蔓状の手足をつけ、「ケケケ」と笑いながら走る存在になってしまうので、脱走には十分な注意が必要だ。
お湯が沸くのを待つ内に、少し硬くなったパンを焼き、昨日勇者に出した残りのベエコンも焼く。
お湯が沸騰すると、レイラが野菜達をドサドサとお湯の中に入れ、野菜の動きが鈍ったらザルにあけて水で冷やした。
俺が朝食を作っている間に、ドナベの下準備をしてくれる。何も言わなくても必要な事をしてくれるあたり、非常によく出来たドラゴンだ。
いつでもお嫁に行ける。嘘。行かないで欲しい。
「はっはっは、儚い命だったな」
お嫁に……やるのは問題がありそうだ。野菜が動かなくなった事に対して、つっつきながら勝ち誇っているんだから。
あー、でも、レイラはウチに永久就職するらしいし、俺が気にしないなら問題ないか。
ちらりと冷えた野菜を見ると、ピーマンの一部が削れていた。収穫した後、どれかのピーマンに食べられたらしい。
弱肉強食だしなー。仕方がない。
それに、ちょっと食べられたくらい、そんなにデメリットがあるわけでもない。齧られた方はちょっと削れて、齧った方は野菜の味が濃くなるのだ。
つまり当たり。強い野菜は味も濃くて美味しい。
問題は軽くでも茹でてしまえば、どれが食べたピーマンか分からなくなってしまうところくらい。
「魔王様、ちょっと思ったんだがいいか?」
「ん? 何だ?」
さっきまで野菜に対して勝ち誇っていたレイラが、唐突にこちらの手元を覗きながら問う。
俺の手元にあるのは、フライパンと、その上で油をじゅわじゅわ出しながら焼けているベエコンだ。
「このベエコン? に、昨日のシャバシャバの、えーっと」
「ショーユ?」
「そう、その、ショーユをかけて、パンに乗せたら美味しそうじゃないか?」
ふむ。確かに美味しそうだ。元々塩味の強いベエコンだが、これにあの香ばしい香りがプラスされるとなると、悪い組み合わせには思えない。
俺は戸棚から、昨日絞った後に使いやすい容器に入れたショーユを取り出し、スプーン一杯分だけ、回し入れた。
ジュワーっと大きな音を立て、大きなあぶくも立てるショーユはベエコンによく絡み、ベエコン自体の色をも染める。
「美味しそうだな」
「ああ、美味しそうだ」
俺とレイラのお腹から、きゅー、と音が鳴る。お腹が空いた。
俺は焼いたパンの上に味付けしたベエコンを乗せ、それから梅の漬物をドライアドの樽から出して、少しだけ添えた。物凄く酸っぱいのだが、これが悪くないのだ。
使う物も至って簡単。梅と塩とシソ。後は食べられないカビが生えないように酒と、作る過程の根気さえあれば出来上がる。
「ご飯だご飯だー」
レイラが嬉しそうに声を上げ、直ぐにお茶を淹れた。俺はその間に作った物を食卓に運び、フォークを準備する。
お茶が食卓に置かれると、俺とレイラは二人で声を合わせて挨拶してから食事を始めた。
「レイラが言うとおり、ショーユと相性がいいな。美味しい」
「そうだろう! しかし、これでパンはおしまいか」
もぐもぐと咀嚼しながらも、これから必要になりそうな物を呟く。
「今日はパンを作ろうか。さっきの野菜も一回ドナベして、ちょっと時間を置いてからスープにしたいし」
「と、なれば、先にドナベしておいて、その間にパンを作る感じになりそうだな」
「そうだなー」
昼間は野菜に水を掛けなくてもいい。昼になると土の温度が上昇し、水をやる事とでかえって熱くなってしまうのだ。
そうなれば、折角の野菜がぐったりしてしまう。ピーマンだって他を齧る気力を失ってしまうだろう。
「ベエコンはまだあるし、ミソもショーユも出来た。塩もまだあるから海水を取りに行かなくてもよさそうだ。でも薪はそろそろ欲しいかな」
「ふむ。後で薪も割ろうか」
「ついでに炭も作っておくか?」
「ああ、それはいい」
今は二人暮らしになったから、やる事が結構多い。
それでも俺達は、それなりにこの生活を満喫していた。
「ごちそうさまでした!」
朝食を終え、二人揃って手を合わせる。
「今日も一日頑張るぞ!」
「おー!」
俺達に休みは無い。だが、毎日楽しく生きている。
***




