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魔王様とスローライフ  作者: 二ノ宮明季
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 日は大分傾き、森の木々にオレンジ色を移している。これが洗濯物だったらがっかりだが、自然の色移りは結構好きだ。


 俺とレイラで作った木製のテーブルと椅子を庭に並べ、ドナベも箱型のタイプを用意して勇者達を待つ。

 テーブルの上には、虫が寄り付かない草を加えて作った蝋燭と、人数分の食器。それからドライアドの葉で作ったお茶を用意した。

 ちょっとしたパーティーのようでなかなか楽しい。

 魔王城に住んでいた時は、これよりももっともっと多くのテーブルや食材が並び、賑やかに食卓を囲んだものだ。それでも、今日のお客さんを待つ感じだとか、レイラと二人っきりのいつもの食卓とは違う浮足立った感じだとか、そういった物が楽しかった。


 勿論、いつものレイラと二人での食事も好きだ。

 やっぱり一人は寂しいし、大切な人と「美味しい」と言い合える空間が俺は好きなのだ。


「サイラスー!」


 ふと声のした方を見れば、台車のようなものに樽を詰んで、こちらに手を振る勇者がいた。一緒にオリヴィアも来ている。

 勇者はその時々で連れて来る女の子が違うが、大体はオリヴィアが一緒だ。以前「正妻だから」とか言っていたから、多分勇者は一夫多妻タイプなんだと思う。

 勇者とオリヴィアは俺達の近くまで来ると、持ってきた樽をポン、と叩いた。


「これ、約束してた果実酒」

「うわぁ、ありがとう!」

「ありがとうも何も、こちらで作った物だけどな」


 レイラがボソっと言ったが、それはそれ、これはこれ。飲み頃だけど飲めないと思っていた物が貰えたんだから、ラッキーだ!

 俺は台車から果実酒の樽を持ち上げると、いそいそと家の中へと運ぶ。


「そんな軽々と」

「ふふん。魔王様は貴様と違って力があるからな」

「いやー、レイラには負けるって」


 運びながらも相槌を打つと、俺の背後でレイラが嬉しそうに「そんな事は無いぞ」と言ったのが聞こえた。

 レイラはドラゴンだからな。魔王パワーで何かちょっと重い物を運べるようになるか、粉砕してしまうかの二択の俺よりは、ずっと力持ちだ。

 レイラが力持ちだからこそ、塩作りも捗るんだ。感謝していないはずはない。

 家の中に酒樽を置いて庭に戻ると、レイラが駆け寄ってきた。


「ボクは断じて魔王様よりは強くないぞ!」

「お、おう。知ってる、けど」

「それならいいんだ!」


 あれ、さっきの「そんな事ない」って、もしかして謙遜だったのか?

 レイラは魔王である俺を持ち上げてくれるからなー。肉体的にも精神的にも。


「よし、早速ドナベをしようか」

「ドナベ……」


 勇者が何とも複雑そうな表情を浮かべている。

 一体何が複雑何だか。人間というのは繊細だからな。変なところに引っかかったりするから分からない。


「先に、味をつけて乾かしておいたこれを焼く!」


 俺が言えば、レイラが置いておいたお肉と蛇を指差し、「これだ」と補足してくれた。流石だ。頼れるー!


「これ、は?」

「ボクがコカトリスを捕まえたのは見ていただろう。それに、これを調理するとも言ったはずだが」

「そ、そうだね」


 勇者は引き攣った笑みを浮かべ、彼の隣でオリヴィアがもっと表情を引き攣らせた。折角の美人が台無しになる位、顔の皮膚を上下左右に思いっきりひきつらせたような表情は、ちょっと複雑な気分になる。

 何でそんな顔をするんだ。……お腹空いてるからか。仕方ないなー。


「ごめんな、調理にはちょっと時間がかかるんだ」

「そういう問題じゃないわよ……」


 どういう問題なんだろう。


「と、とにかく、続けて貰ってもいいかな?」

「おう! そうだよな」


 ゆるゆると首を振ったオリヴィアに代わり、勇者に促された。あー、お腹空いてるもんなー。こんな話をしていないで、早く食べたいに決まってるよな。

 俺は用意していた石で囲ったところに火を起こした炭を入れ、その上に網を置いた物のあたりに勇者達を招く。

 別に焼くのにこんな風に手をかけなくてもいいんだけどな。家の中でも出来るし。

 ただ、折角の外ご飯だから、ちょっと雰囲気を出してみた。その方が楽しいし。


「これで焼いていくぞ」

「まさかの炭火焼」

「焼けるなら何でもいい。より美味しくというのなら、石窯でもいいんだけどな。でも、今日のところはこれで」


 俺は網の上に、お肉を並べた。

 美味しくなれよー。


「魔王城にも、石窯があるだろう?」

「え、ええ。確かにあるわ」


 壊されてないみたいだな。よかったよかった。


「そっちでやる時は、それを使った方が楽かも!」

「わかった。使わせて貰うよ」


 今日は焦げ目までバッチリ付けるが、火が通ればいい。人間に生は、お腹を壊しそうで不安だから与えられないし。


「魔王様、焼いておいてくれ。ボクはウッドクンを持ってくる」

「おう、頼むなー」

「ウッドクン……」


 俺は次のドナベの準備をレイラに任せ、そのままお肉の様子を見る。

 蛇は身が薄いから、もうそろそろひっくり返してもいいかな。


「これ、は、毒は無いのよね?」

「おう、無いぞ」


 オリヴィアは口を開けば不安を吐き出す。お腹を壊したくないから、慎重になるのもわかる。


「正確には人間にとって毒になる場所はあったけど、全部捌いたから安心してくれ」


 説明をしながら蛇をひっくり返す。これが終わったら、内臓の食べられる場所も焼いちゃおう。

 火に炙られ、豆の液体発酵調味料が香ばしく焼ける匂いがする。凄く美味しそう。


「サイラス、これってもしかして」

「ん?」


 これって、どれだ?


「醤油?」

「ショーユ?」


 どれが? あ、炭?


「違う違う。これは炭」

「ごめん、それじゃなくて」

「あぁ、わかった。アミだな」

「そうじゃなくて」


 一体何がショーユ?

 これを見て勇者が反応しそうなのって、あとは……。


「あ! 石! これは石だぞ!」

「僕の言い方が悪かった。この肉の味付けに使っている調味料は?」


 なんだ、調味料の話をしてたのか。


「なんかなー、黒くてシャバシャバでしょっぱい、豆の発酵液体調味料だぞ」


 しかも良い匂いのするやつ。万能で美味しい。


「レイラと一緒に絞ったんだよ」

「……やっぱり醤油だ」


 また名前を付けたなー。まぁ、ショーユでいいかー。


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