VRなんか初めてだったが
水道管を探すかの如く街を歩くが、ダウジング棒が開かない。
コントローラーの十字キーに合わせ、画面の中が歩く速度で移りゆく。耳からは海人の足音らしき物とオレのコントローラーからカチカチと音が室内に響く。
背中にはソファーの感触。
「…自宅にいるのに、無駄に出かけた気分になってるんだが」
「このサンダルで、移動するのも無駄に体力つかわされるだけだし…」
「…美幸はどうした」
「たぶん寝落ちしてる」
メガネをズラせば、だらしなくソファーにもたれかかった妹の姿。
朝から、歩き詰めて新たなダンジョンを探しているがなかなか見つからない。
近隣にユーザーがいないって訳ではなく、設置するとダンジョン化するまで一週間かかる。
まだ浅いダンジョンしか見つからないから、数時間長くても二三日あれば攻略できてしまう。
一度クリアしたダンジョンは、同じプレーヤーが入れない。
新しいダンジョンを設置し、その間に他のダンジョンにあたりをつけての探索か、ランダムに探して歩き回るプレーヤーの方が多い。
まさに探索だが、寧ろ気分はトレジャーハンター?
因みにダンジョンは、洞窟タイプと石壁の遺跡だ。
洞窟は迷路みたいで、石壁タイプはちょっと昔の雑居ビルとか、昭和の百貨店みたいな間取りがパターン化している。
「…あ、他プレイヤー発見」
「俺が話しかけるから、奏はダウジング続行」
「了解」
リアルタイムで通信してるから、他のプレイヤーとチャットやインカムを使用した会話もできる。
メガネにマイクスピーカーがついてるんだが、メール打ちを選択したみたいだ。
チャットを選択すると、画面の中にスマホが出てきてそれを操作するんだが、あれは海人みたいな装着者向き。
インカムに関しては、互いに設定を許可にしてないと機能しないんだが、同じ部屋にいるから、海人以外は否許可状態のまま。
「…はぁっ?ちょっマジかよそんなのありっ?!」
「どうした、なんか聞けたのか?」
「違うよっ!コイツいきなり殴りかかってきた!MPK…じゃなかった。いきなりPKしてきた?!」
「プレイヤーキラー?」
MPKは、釣りしてトレインしてなすりつけるモンスタープレイヤーキラーだ。
とりあえず、視点操作でクルリと反転。
「…へ?」
目の前で手にした何かを振りかぶる男と、。
ちょ!??!
「いいから外せぇっ!?」
衝撃・更に激痛
「いづぁぁっ!?」
押しつぶされるように画面が歪んだタイミングで、髪の毛もプチプチと数本巻き込みながら海人がモニターをひっぺがされた。
クソ痛え。
「力づくやめぇ!!」
「…ッャオゥッ!?」
あまりの痛さに、苛立ち紛れに海人に前蹴りしたら“竿”…うん、つぶれちまえ?
「主砲沈黙!うわは。今のはあぶなかったわ」
トントン叩きながら口にする海人。損害軽微かよ。竿蹴られてあり得んくらいのこの余裕。
ああ、もう日が落ちてんじゃん。
「てか、出会い頭にPKって何なんだ」
驚きすぎて、反応出来なかったし…。
引き剥がすタイミング悪いしマジで殴られたかと思った。
画面の中真っ赤なんだけど、こんな機能あったっけ?
「…ネットじゃ噂になってたけど、PKは基本的にペナルティーはなかったと思う」
「ヤり放題!?」