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拳は武器になるか

窓をうつ雨の音だけになった。雷が止んだ。

イオの手を離し、背を向け部屋をあとにする。


建物の外は世紀末のような光景が広がっていた。

建物はどれも亀裂が入り、黒く焦げて、道端は建物の瓦礫が散乱している。

広場と呼んでいた場所にはただ荒れ果てた大地だけが広がっており、所々に焦げた塊が落ちている。


何だあれ?

注意深くみると、塊には爪があり、耳や目がついていることがわかる。

ボスの取り巻きの熊どもだ。ボスの攻撃に巻き込まれたらしい。

肝心のボスは広場の中心に鎮座している。建物の影に隠れて様子をみる。

ヤツはギョロギョロと辺りを見渡し、獲物を探す素振りをしている。時たま咆哮をあげるが、以前のように雷を纏う様子はない。

あの大技は、一度使うとインターバルがあるらしい。今がチャンスだ。


「ファブリケイト」


一気に加速し、奴の背後中に左拳をめり込ませる。

だが威力が足りず、厚い肉の壁に阻まれてしまい、敵の内部までダメージが通らない。

拳の勢いが全然足りない。幾度となく腕を破壊した時に感じる激痛の経験が拳の初速を緩めているのかもしれない。

奴は振り向きざま爪で横に凪ぎ払いの攻撃をする。

移動速度を100倍にしながら咄嗟に避けるも、風圧で吹き飛ばされてしまう。


さて、どうしようか。右拳は完全に破壊され、左拳は半壊状態。ほぼ攻撃手段を失ってしまっている一方、敵は疲れこそ見えているがまだ戦える様子だ。何か打開策はないか。


考える暇無く、奴は突っ込んでくる。


咄嗟に退避行動をしようと後ろに跳ぼうとするが、体が動かない。今度はなんだ。


頭に電子音が鳴り響く。


必要経験値の獲得を確認。

アップデートを開始します。


いやいや待て。今それどころじゃない。

あとでするからちょっと待っててくれ。


スキルのアップデートを開始します........完了しました。

魔法攻撃力のアップデートを開始します.......完了しました。

魔法防御力のアップデートを開始します.........


アップデートするなら早くしてくれ。

どんどんヤツの顔が大きく見えてくる。


完了しました。

物理攻撃力のアップデートを開始します......構築に失敗しました。

再構築します........失敗しました。諦めます。

アップデート終了。再起動します。


再起動だけはやめてくれ!もうすぐそこに敵いるから!


切実な祈りとは裏腹に徐々に視界が真っ暗になっていく。

最後にみたのは、大口を開け今にも食らいつこうとする顔だった。


おはようございます、冒険者シオン。

アップデートは無事終了しました。

それでは快適な旅を。


今どういう状態だ。恐る恐る目を開ける。

体がまばゆい光に包まれ、傷が修復されていくのが見える。

ゲームでよくあるレベルアップの演出のようだ。

全壊していた右拳はみるみる再生され、左拳は傷一つない姿に戻っている。

なんかお腹もむずむずするな。

なんだ.....うへー。むき出しになった内臓の再生が見える。

気持ち悪くなってきた。


ヴォーーーーーーーー


気持ち悪くなっている場合じゃなかった。

レベルアップの光によって目くらましされていたヤツと目が合う。


「ファブリケイト」


さっきまでいたところに、鋭利な爪が突き刺さる。

アブナイ、間一髪だ。

レベルアップで回復したことで、左右で合わせて2回の必殺技の発動が可能になったが、それでは倒せないことは実証済みだ。

そういやスキルのアップデートがあったな。新しい技にわくわくが止まらない。できれば、もう少し使いやすいスキルであって欲しいな。そう願いながらスキル欄をみる。これか!

これなら勝てるけど.......出来れば今は使いたくないなぁ。はぁ。


ヤツは一歩下がり、天に向かって吠える動作に入る。


落雷とか雷のブレスを放つ気だ。もう一度やられると非常に面倒くさいな。


「ファブリケイト」


ヤツの口の中は金貨でいっぱいになり、たまらず下を向いた。上手くいった!今だ!


「ファブリケイト」


今なお金貨を吐き続けているヤツに近づき、右拳を加速させ口に突き刺す。拳は内部で爆発し、ヤツを体内から爆裂させる。


新しいファブリケイトの効果は、『武器に爆発属性付加』※威力の調節不可。

強力な効果に喜ぶべきなのかもしれない。こんな状況じゃなかったら喜びの舞いを踊ってた。

ただ今は強力な敵と接敵中で、しかも武器は己の拳のみ。拳が武器として認められるか怪しかったこと、もし認められて拳に爆破属性が付与された場合、攻撃後拳はどうなるのかわからないこfと、威力がわからないこととか色々不安要素がたくさんあったから正直何とも言えない気持ちだった。


結果、不安は杞憂に終わった。拳はしっかりと武器として認められ、攻撃後すぐに拳から足へ移動速度が100倍になるようにシフトできたことやいろいろな条件が重なり右拳の消滅は防がれた、骨はべきべきになったあけど。一番心配していた威力に関しては申し分のなかった。ヤツがいた場所は衝撃の激しさを物語るように地面は大きくえぐれている。爆発地点にいれば一緒に消えていたと思うと冷や汗が止まらない。


「お見事である!」


紋章のついた鎧を身に付けている男が5,6人の兵士を引き連れ現れる。


「冒険者よ。名前は?」


「シオンだ」


「シオンよ。一緒に城まで来てもらおう」


「すまないが、後でいいか。イオ...ケガしている女の子を治療できる人を探さないといけない」


「イオ...なるほど、その青い髪の女ならもう保護してある」


「良かった。一度会わせて欲しい」


「分かった。ついてこい」


イオを運んだ宿屋の前で、兵士と青い髪の少女が言い合っている。


「通すのよ。シオンが死んじゃうのよ」


「ダメだ。君がいってどうする。無駄死にするつもりか」


「無駄かどうかは行ってみないと分からないのよ。退くのよ」


「ダメだ」


少女は痺れを切らして避けて通ろうとするが、すぐに回り込まれ地団駄を踏む。


「なんなのよ」


相変わらずさに大声で笑ってしまう。

いきなりの笑い声にビクッとした少女と目が合う。


「シオン?シオンなのよ!」


イオは押さえ込んでいた気持ちが爆発したように勢いよく走り寄り、抱きつく。


「ほんと世話がかかるのよ。冒険者は馬鹿ばっかりだけど、シオンが一番馬鹿なのよ!」


泣きながら怒り嬉しがる、そんな少女の顔は今どんな顔をしているだろうと気になったが、長らく感じなかった人の温もりをもう少しだけ享受しようと思い、留まった。














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