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二度あることは三度ある

冒険者が置いていった剣を手に取る。

剣の扱い方はわからないが、何も無いよりはましだ。

剣は思っていたよりも重い。ズシリとした重さが、これからする命のやり取りを実感させる。

辺りはシーンと静まり返って物音ひとつない。普段よりも速い呼吸をなんとか平常に戻そうとする。

んっ? こっちに向かってくる音がいつの間にかなくなっている。

気配を感じるが、姿がない。どこに行った?


ズドンッ!

突如、目の前に大きな影が現れ、体に衝撃が走る。

フルスイングでバットで殴られたような感覚。

完全な不意打ちの一撃で、体は成す術もなく勢いよく転がり、建物の外壁にぶつかり、ようやく止まった。

右肩から左腰にかけて、ヒリヒリとした痛みを感じる。熱い。

恐る恐る見ようと、薄目で傷口を確認しようとするが.......

やっぱりダメだ。見れない。グロセンサーが反応している。


ヴォーーーーーーーーーーー


俺を吹っ飛ばした魔物が勝鬨を上げている。

このモンスターには見覚えがあるな。前に一撃で倒した熊みたいなやつだ。

こいつが相手ならスキル『ファブリケイト』で勝てる。

よろめきながら、壁を支えにしなんとか立ち上がる。

力を振り絞って、全力でモンスターに向かって走りながらスキル名を唱える。


「ファブリケイト」


移動速度が100倍がになった俺は、魔物に大穴を開ける。そして地面に顔面からバタリと倒れ込んだ。

全身が痛い。意識が朦朧としてくる。デジャヴだ。もしかするとと思い、右腕を確認すると.....

立派なのがついてた。良かった。

そういえばと、魔物の群れがきたと言ってたことを思い出す。

倒したこいつは、このチート級のスキルがなかったら勝てなかった。こんなヤツが群れを為して徒党を組んいるとは考えづらいし、考えたくない。ファブリケイトで、ここ2回は退けることには成功しているが、正直運的要素に恵まれたことが大きい。ファブリケイトを一回使うと、体に限界がきて動けなくなってしまう。一撃で敵を殺せないと、こっちが殺されてしまう。まさに一撃必殺の技。そのことを考えると群れとの戦闘はかなりの不利だ。願わくは、今さっきの魔物が群れのリーダーで、リーダーがやられたことで他の魔物が逃げてくれればいいんだが。完全勝利は狙っていない。皆が撤退出来るまでのあくまで時間稼ぎ。今のうちに少しでも休んで体力を回復しよう。


ヴォーーーーーーーー


聞き覚えのある嫌な音だ。

頭だけ持ち上げて確認する。やっぱり熊もどきの魔獣だ。

完全に囲まれている。敵の数は10。

時間をある程度稼いだら、頃合いを見て逃げようと考えてたが、ダメだ。

ここでコイツらを野放しにすると、イオを含め逃げていった人もいずれ殺される。

一体でも減らさないと。

気力で立ち上がろうとが倒れ込んでしまう。

すぐ近くにあった剣を握り、それを杖に立ちあがる。

吹っ飛ばされたあと、手に持っていた剣は行方不明だったが、ここにあったらしい。

逃げ道がなければ、全滅させて道を作れば良い。行くぞ。

剣を体の左側に水平に構え、走る。


「ファブリケイト!」


モンスターの横を勢いよく通り過ぎた。

一瞬の間が空いた後、モンスターは腹部から血を噴き出し、倒れた。

じんじんと両手が痺れるが、ダメージは受けていない。

これなら勝てるかもしれない。

もう一度。

すぐさま剣を構え、走り叫ぶ。

「ファブリケイト」

同じようにモンスターが倒れる。

仲間がサクッと倒させるのをみて、他のモンスターどもが距離を取る中、一体のモンスターが距離を詰めてくる。巨大なモンスターどもの中でもひと際大きな個体だ。体中に無数の傷跡があり、左目はつぶされている。圧倒的な存在感。この群れのボスということか。

こいつさえ倒せば。あとは逃げ帰るだろう。

これまで以上に気合を入れ、ボス個体に向かって走り、叫ぶ。


「ファブリケイト」


速度が100倍になった世界の中で、目が合う。

嫌な汗をジワリとかくのを感じる。


カキンッ


甲高い音の後に、体に浮遊感が生じた。

見切られた。

そう理解すると同時に、地面に背中がつく。

ボス個体は悠然とした足取りで近寄ってくる。圧倒的強者としての余裕。

勝てないかもしれないが、ここを通すわけにはいかない。刺し違えてでも倒す。

意地だけで立ち上がり、剣を構え、走る。

「ファブリケイト」

「ファb」

ダメだ。速度100倍中に速度が100倍になれば、1万倍になると思ったがスキルの詠唱が追い付かない。

剣が受け止められる。そして反動が襲い、耐えきれず剣から手を離す。


ズサーと顔面からスライディングを披露する。ここにギャラりーがいないのが幸いだ。

奪った剣を噛み砕き、ゆっくりと近づいてくるボス個体。体の限界などとうにきているが、立ち上がる。何故立ち上がれるのか自分でもわからない。だがもう指一つ動かせない。倒れないようにするだけでいっぱいいっぱいだ。思考にもやがかかり、ぼんやりとしてくる。俺は今何をしているんだ。この熊みたいなバケモノは何だ。何故こんなにも恐いのに、逃げちゃいけないと思っているんだ。

バケモノは、俺に向かいトドメの一撃を振り下ろす。


「シオン!」


突然現れた小さい人影にタックルされる。小柄な体型だが、踏ん張る力もなくて数m飛ばされる。

後ろに倒れ込み、少女がその上に倒れ込む。

この白衣の少女は誰だ?ぽかんとした顔で少女を見つめる。


「シオン。ほんと馬鹿なのよ。これ何本に見えるのよ?」

「2本。」

「正解なのよ。」

少女はニコリと笑うと同時に、両目をグサリと突き刺した。

「何しやがる!」

「生きてて良かったのよ!」

嬉しそうにはしゃぎ抱きついてくるイオ。胸部の傷が刺激され、ズキズキと痛む。

「もう皆安全な場所まで逃げたのよ。さっさとシオンも逃げるのよ。キュア」

回復魔法をかけ、そのままバタリと俺の胸の中で気を失う。

「起きろ。イオ!」

揺さぶって起こそうとするが、全然起きようとしない。イオを体の上からどけ、起き上がる。

イオの背中が真っ赤に染まっていた。

「起きろ。イオ!馬鹿なのはどっちだよ。」

最後の力を振り絞り、なんで回復呪文を俺に掛けた。こんな大ケガしているのに、バカヤロウが。

ボス個体はなんとかしなくちゃいけないが、イオが死んだら元も子もなくなる。

一度逃げるか。逃げ道を模索しようと周囲を見渡す。


「逃げるのか。小僧。」

大気を震わせる重低音が響いた。ボス個体から発せられているようだ。

「戦えるようになったんだろ。戦え。」

魔物の言うことなど相手をする必要なんてない。

「どこに逃げようと無駄だ。お前らの匂いはもう覚えた。諦めて戦え。俺に勝てば見逃してやる。」

魔物の言うことなど信用できない。従う道理もないが。ボス個体の指示で生き残りが再度、周囲を取り囲んでいる以上、戦うしかない。やるしかないのか。


「ファブリケイト」

唱えると同時に横に飛ばれ、一撃必殺のタックルを躱さる。

カウンターにタックルを受け、吹き飛ばされる。

「立て。そこに寝転がっている人間、殺すぞ。戦え。」

うるさいヤツだ。すぐさま立ち上がり、ゆっくり歩きボス個体に近づく。

「ファブリケイト」

ボス個体は爪で薙ぎ払う動作をするが、空振りに終わる。

俺はゼロ距離まで近づき、止まり右拳でパンチを繰り出す。

「ファブリケイト」

拳の速度だけが100倍になり、ボス個体の腹に命中し、巨体を弾き飛ばす。

予想通りだ。このボス個体は、俺が倒すのを見てスキルの詠唱から攻撃がくるタイミングを見極めていた。

だから、初速の違う攻撃をされると対処できなくなる。

もう少し早く気づけば良かったな。反動で右腕全体が使えない状態になっている。右拳なんかはまともに見れない。視界の端で見るだけでも吐きそうになる。うへー


ヴォーーーーーーーー


倒れこんでいたボス個体が、いつのまにか起き上がって空に向かって咆哮を上げている。

濃密な殺気が流れ込み、周囲を囲っていた魔物どもは、怯え震える。

咆哮に共鳴したように、空は急に黒く厚い雲に覆われ、雷鳴が轟き、激しい雨が降り始める。

ピカリと雷が光った後、ボス個体に雷が落ちた。

落雷の衝撃でボス個体は見えなくなった。

自爆か。それなら締まらない終わり方だが、この際早く戦いが終わればどうでもいい。

土埃が晴れ、ボス個体が現れる。体には電気をまとい、スパークしている。

ヴォーーーーーーーー

咆哮と同時に、口から電気のブレスが襲いかかる。

「ファブリケイト」

咄嗟に右によけ、事なきを得る。

5秒間にも及ぶブレス。範囲は狭く直線的。避けるのは容易いが、当たれば即死だ。

ヴォーーーーーーーー

ドンッドンッドンッ

辺り一帯に、次々と雷が落ちる。落雷にあった木々は真っ二つに裂け、燃え、建物は崩れ、炎上する。

「ファブリケイト」

急いでイオを抱きかかえ、近くにある建物に避難する。


ここは宿屋のようだ。2階に上がり、ベッドに寝かせる。

俺は1階に戻り、包帯や薬がないかを探す。受付近くにあるはずだ。

よし、あった。

イオの所に戻り、服を脱がせケガの具合を確かめる。

陶磁器のように白く綺麗な背中がザックリと切り裂かれている。

この痛々しい傷の原因を作った自分にとてつもなく口惜しさを感じ、拳をぎゅっと握りしめる。

イオは苦しそうに呼吸をし、うなされている。

涙をうっすら浮かべ、ごめんね、ごめんねと繰り返しつぶやいている。

少女の涙をぬぐい、丁寧に傷口を洗って消毒し包帯で巻く。

もう少し頑張ってくれ。すぐ助けるから。

イオの冷たい手を握り、温めながら、雷が止むのを待つ。

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