第8話 何が魔法だよぉぉ(涙)
「それでは蒼の女体化を祝ってっ!!」
「「「かんぱ~い!!」」」
「乾杯すなぁぁぁ!!!」
父、博也が音頭をとり母、裕美。沙与。ターシャがコップを持って乾杯する。
なんでだよぉ…ボクは男の子として生きてはならないのかぁ…
「でも、その一人称何とかしないとね」
と、沙与。
「いやぁ?良いんじゃないかしら?一人称がボクでも良いんじゃないかしら?」
と母。
「その根拠は?」
「私のこ・の・み。全国の一人称がボクの女の子は私が纏めて抱き締めてあげるわっ!」
まてまてまてまて、今全国の99.9%の一人称がボクの女の子が引いたぞ!!??そこらでやめとけ!!
「にしてもようやく俺たちも女の子を授かれたか…うっ!嬉しすぎて涙が!」
「悲しすぎて涙が!」
父子ともに目に涙を浮かばせた。
その時だった。
「キャァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
鋭く高い悲鳴が家の外に響き渡った。
「なっ!?」
「な、なんじゃ!?」
さすがのターシャもこの不意討ちには驚きを隠せない。
ってかそんなこと言ってる場合じゃねぇ!!
「え~と杖は~」
何が外で起きているかどうかはわからない。だが、杖と魔導書は持っていって損はしないだろう。
「二階だっ」
リビングのドアをあわてて開き、さっきまで寝ていた寝室に向かう。
「せわしない子ね」
「いいじゃないか…それより蒼の様子を見に行くぞ!」
「わかったわ!」
「…はは…」
リビングは盛り上がっているらしい。その内容は…聞かなかったことにしよう。
「あった!」
右手に杖、左手に魔導書をつかみとり窓から顔を出す。
「あれは…?」
そこにはさっきの悲鳴の持ち主と思われる、黒いスーツに身を包み、何やら重そうな鞄を手にした女性が走り回っていた。そしてそれを追いかける獣のような化け物。
その化け物は女性の腕をわしづかみにし、腕を振り上げた。
「キャァァァァ!?」
「まずいっ!!」
今から玄関に行っても間に合わない。
そう思い窓から飛び出す。
「メテオ、インパクト!!」
蛇の化け物の時、落下死を防いでくれたこの魔法。
杖を振り上げて化け物の頭にヒットさせる。
「うぎゃぉぉぉ!?」
ぼぐっ!と鈍い音がし化け物は頭を抱えて座り込んだ。
「このガキ!!何しやがる!!」
「誰がガキだ!!」
ガキは禁句だこのやろー!!
急いで魔導書を開く。
「モンテ・スエズ!!!」
女性が正面にいないことを確認し唱える。
すると魔導書に黄色い魔方陣が描かれ、そこからとてつもない速さで風が巻き起こった。
「うおっ!?」
化け物の驚きの声が聞こえる。
さらに、その風に乗って石や砂が化け物に飛んで行く。
砂嵐の進化系的な?
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
化け物の断末魔が聞こえた。
砂嵐が晴れるとそこに化け物の姿はなかった。
「ふう……………、モンテ・スエズって…思いっきり地名じゃんか。モンテ・グラッパとスエズでしょ?」
ここが舞台のゲームやってたからよくわかるぞ。
「と…それよかそれよか…」
ボクは後ろに体を向ける。そこにはへたりと座り込んだ女性がいた。
女性は震えていた。
まぁ…無理ないでしょ。いきなり化け物に襲われるなんて考えもしないし。
「えっと…ボクはあなたを襲いません。安心して下さい」
「…っ」
女性は体から力を抜いた。どうやらこちらに敵意がないとわかってくれたらしい。
「あなたは…私を…助けてくれたんですか?」
「え?えっと…まぁ…はぃ…」
しまった!こんなときこそ!「はい(どやっ)」てやれば格好いいのに!!(?)
「あなたの名前を…教えていただけますか?」
「え?」
ぎくり、ここで「冬山 紅華で~す、きゃはっ」とか言えない!あかん!もぎゃぁ!どうする!?
「えっと…ティナです」
適当に言っちゃったよ…、持ってる本の主人公の名前にしちゃったよ…。
「ティナさんですか?…綺麗なお名前ですね。助けてくださってありがとうございました」
「いえ…」「これ…せめてものお礼です。よかったら受け取ってください」
そう透き通った声で女性は礼を言い、持っている黒い鞄から一つの小さなリボンを取りだし、ボクの手に握らせた。
「それでは…」
そう言って女性は重そうな鞄を肩からかけ、歩いていった。
リボンの柔らかな感触と、女性の肌の暖かさが手に残っていた。
―――翌朝…
「ん~!よく寝たっ!!!」
太陽の光が部屋のカーテンの隙間から差し込んでいた。
あのあと、疲れてベッドに飛び込んだらしい。あんまり記憶に残ってないけどね。
「いしょっと」
体は元のボク、「夏波 蒼」の姿に戻っていた。今日は女体化しなくてすみますように。
そんなことを思いながら、ベッドから体を起こしリビングに向かった。
「おはよ」
「おお、目覚めたか」
朝イチでこいつの声を聞くことになるとは。なんかしゃくだぞ。
「またターシャいるし…」
「ヨイデハナイカ!わらわはこの家がきにいったのじゃ!」
食べ物に釣られてるだろ。
「あら~、そういっていただけて嬉しいですわ~、ターシャ様~」
「うむ!苦しゅうない!」
お前は戦国大名か!母さん!あんたキモいしゃべり方すんな!
「まぁそうカリカリするではない。朝からいらいらするのは体によくないぞ」
「ターシャのせいだぁぁ!」
だが、そんな風にボクが喋ることができたのはここまでだった。
『さて、次のニュースです』
そうテレビに写っている女性が喋った。
あれ?この人…どっかで…
『昨晩、都内で女性が正体不明の生物に襲われるということがありました。ですが、突如現れた少女によって女性の命に別状はありませんでした』
おい…まさか…
『その少女がこちら。この少女は謎の力によって正体不明の生物を追い払いました。私達はこれからこの少女について、調べていきたいと思います。…さて、次のニュースです…』
まじ…か…
このニュースキャスター…昨日の人だよ…
重そうな鞄にはカメラでも入ってたのか?
「あれあれ、テレビに出てるじゃない!蒼もついにテレビに出るようになったのね!」
ちくしょう…