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第60話 影+影=美人

「ごほんごほん…なんて冗談だよ。ありがとう」

「いえ、礼を言われるようなことはしておりませぬ」


アビっちが手を開いて首を振った。


「そう…?ま、行こっか。アビっちの仲間が待ってる」

「アビっち…」


ん?気のせいかな?アビっちの顔が嫌ににやけているのだが…。






「くっそぉぉぉ!」


アビっちことアビスコールの率いていた部隊の一人が絶叫した。それもそのはず、その部隊はたった四人相手に壊滅目前だったのだから。


「こんなところにも逃げていたか…」

「ひぃっ!」


影の一人がそれに向かって手を上げた。そして上がった悲鳴さえも無視してその冷徹な拳が振るわれようとしたときだった。

「メテオ・インパクト!」


空からまるで流星のように降ってきた者がいた。

それが地面に着地するとものすごい振動が辺りを揺るがした。





「あっ!あれはっ!」


アビっちと二手に別れて影を探している最中、彼の仲間が影の前で尻餅をついて悲鳴をあげている。

本当ならば転移魔法でいった方が速くて確実だ。

しかし、今ボクは片腕がない。オブラートにもらった義手も砕かれてしまった。そうなると、威力の高い魔法は使うことができない。


「ならばっ!メテオ・インパクトっ!」


重力魔法を行使。落下中に剣を杖に戻しその先端部分に硬化魔法をかける。これで多少の衝撃が加わっても杖が折れる心配はない。


「はああぁぁっ!!」


隕石のごとく、重力魔法で作り出した強烈な重力に身を任せ、自由落下を始める。


「せいっ!!」


アビっちの部隊員に効果が及ばぬように魔力で範囲を調整する。

そして、着地の瞬間に地面にクレーターができ辺りに土煙が舞う。


「うぉっ!?」

「うぇっ!?」


影もその隊員も目を見開いて不思議な言葉を発する。

いやいや、影はまだわかるけどさ。あんたさん、ボク助けに来たんだからね?そんなに驚かなくていいでしょ?悲しいよ?


「波翔っ!」

「っ!?」


【察知】を発動し、土煙の中にいる影の位置を特定し吹き飛ばす。その間にアビっちの隊員のもとに駆け寄った。


「大丈夫?けがとかは…?」

「だ、大丈夫で、す」


かなり気が動転しているようだ。まあ仕方ないだろう、死にそうになって冷静でいられる人なんていない。まあ口が効けるだけましだろう。


「ここはボクに任せて。逃げてっ」

「え、し、しかし…」




「大丈夫。守るから」




「っ」


しばらく苦虫を噛み締めるような表情をしていたが、やがてのそのそと逃げ始めた。


「よし、これで大丈…つあっ!」


影を吹き飛ばすのに使ったのは【波翔】。【雷空】を使えばよかったと今少し後悔した。


【察知】に一点。反応があった。その場所は、



ボクの後ろ。



――ボグッ!



鈍い音がして背中に激痛が走る。吹き飛ばされそうになるのを、体に重力をかけて耐える。


「バーン・アリソマリスっ」


形勢を整えるためにあえて自らの足下に向かって魔法を使う。

小さいながらも強力な威力を誇る愛用の魔法の爆風で一時的に宙を舞い、杖を剣に変形させる。


爆風による上昇時間が切れ、体は落下を始める。それと同時に【察知】を使い影の位置を特定し切り込む。


「らぁっ!」


落下の勢いと合わさる斬撃。土煙(爆風でまた舞った)で視界は晴れないが【察知】を頼りに切っていく。


「っく…なめた真似しやがって…」


影が悪態をついた。しかし、攻撃の手は緩めない。


「あぁ!もう!鬱陶しいんだよ!」


土煙の中から現れる影の拳。しかし、それも【察知】によって見えているので首を動かすだけで避ける。


「せいっ!」


そして影に向かって蹴りを放つ。苦しそうな声と共に吹き飛んだことを確認する。


「げほっ…なるほど。やはり強いな。あいつが殺られたのも納得だ」


あいつ?あぁ、さっきの影か。




「まあいい。一対一で勝てないのであれば増援を呼ぶまでだ」

「は?」


おいおいおいおい、ついにブライド捨てやがったよこいつ!


「ふんっ!」


影は腕を振り上げて(【察知】で見えている)空に向かって紫色の光線を放った。

その衝撃で土煙が晴れる。


「っ!派翔!」


地面に向かって衝撃波を放ち、その場から放れた。すると今まで立っていたその場所に影が勢いをつけて落ちてくる。

さらにクレーターが大きくなった。


「おいおい、一人相手に苦戦してんのか?年でもとったか?」


「うるせえ、なめてっとやられんぞ」

「そうだな。…いくぞ」

「おう」

「「『合成』」」


突如、空から参上したもう一人の影と今までの影の体がグニャリと変形し、一つにまとまる。


なるほど、影なだけあるね。


「さすが影…、影らしい…っ!?」


しかし、ボクの言葉はそれ以上出てこなかった。

なぜなら合わさった影は今までのようにぼんやりとした形ではなくしっかりとした肉体を持っていたのだから。


翡翠色の腰ほどまである長い髪の毛。少し鋭い目付き。整った顔立ち。細すぎず、太すぎない絶妙な体型。そしてボクの学校の制服を身に付けていた。なお、男子用である。


「わぉ」


これが感想である。

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