第53話 慌て者のメイドさん
しばらくすると、再びどったんバッタんと音を出しながらトゥナは帰ってきた。
不思議なことにその手には何も握られていなかった。
「…あれ?なにしようとしてたんでしたっけ?」
そのくりりとした翡翠色の瞳がボクを捉えた。なので、声を出さずに指で包帯がぐるぐる巻きにされている場所を指差す。
「あ!そうだ!義手!」
またまた彼女はドタバタと、黒と白を主張し、たくさんのフリルがついたメイド服を揺らしながら部屋を飛び出していった。
「騒がしいやっちゃ…」
「悪い、俺も同感なんだ」
二人して頭を抱えた。せっかく入れた紅茶もこっちに運ばれていないせいで湯気がたっていない。仕方ないので、勝手に飲ませていただいた。
「ふぅ…、冷めてるけどこのお茶美味しい」
「だろ?茶葉もいいが実質、あいつの腕がいいんだろうな。どの茶葉にどれくらいの温度の湯が合うか。しっかりメモまでとってる」
「なるほど、どっかの誰かさんとは違って真面目だねぇ」
「どっかの誰かさんって誰だ?」
お前だよ厨二病、少しは自覚を持たんかい。
「お待たせしましたぁぁ!」
その誰かさんについて教えてやろうと思った刹那、すっとんきょうな声が響き渡る。
そして次に義手を片手にもったトゥナが駆け込んでくる。
その勢いを保ったまま彼女はドテテテー!とこちらに駆け寄ってくる。
「よいしょ…大丈夫ですか?きつかったり痛かったりはしませんか?」
「ん?あ、大丈夫」
「もしそうだったら言ってくださいね!」
…なるほど、オブラートが手離さない訳だ。確かにおっちょこちょいで慌て者だけど…根は良い子だ。
顔だって羊頭族と言ったって特に目立つのは耳の上辺りから生えている角ぐらいでそれさえ隠してしまえばただの美少女になろう。円らな翡翠色の目にちょこんと高過ぎもなく、低すぎもなく、丁度よい高さの話、ほんのりとピンク色に染まった頬と唇。まるでフランス人形のようだ。
「っと、いかがでしょう?」
おっと、いつの間にか作業は修了していたようだ…。さてさて…どんな風に…。
「ん?」
えっと…、今、義手を取り付けたんだよね?普通の腕が…そこにはあるんですけど?
しかも普通に動くしぃぃぃぃ!
「どうだ?俺の魔法道具の一つだ。取り付けるとまるで本物の腕のように動く。まぁもちろん義手は義手だから痛みや、傷を受けたときの出血はない。…それに、かなり強度の高いな魔鉱石で造ってあるからそう簡単に壊れる心配もない」
「わお…」
やばい、義手とは思えない位に動きが滑らかだ。
接合部分は包帯でぐるんぐるんに巻き付けてあるが、それでもこれはやばいやろぉ。まるでル○ク・○○○ウォーカーにでもなった気分だわ。
まあ痛覚はないんだけどね。
「ありがと、オブラート。今初めて君を尊敬したわ」
「今さらかよ」
「逆に今まで尊敬しなかったわ」
「…」
なぜだろう、オブラートが急に天を仰ぎ始めた。
「…そうだ、本来の件をすっかり忘れていた。ちょっとこれを見てくれ」
現世に帰還したオブラートはこちらに歩み寄り、一枚の写真を取り出した。
「…これって…」
「そう、俺とお前の掘り起こされた記憶に写っていたものの一端だ。ずっと…何の写真か分からなかったんだが…ようやくわかったっつーわけさ」
それを受けって見てみると、青髪の少女と黒髪の少年がお互いに向き合って話し合っている物だった。
そうそう、オブラートの記憶に干渉した時確かにこの光景を見た見た。
「で?何が言いたいん?」
「それはな、ここがどこなのか…ということだ」
オブラートはこの写真の一部を指差した。そこには仄かに明るく輝いている虹色の花が咲いていた。
「…?」
「俺はこの花を見て思った。こんな花、見たことが無い。もちろん俺が知らないだけなのだろうと思ってここにある本で調べた。だがどこにも載っていなかった」
「その本に載ってないだけなんじゃないの?」
「それはあり得ない。恐ろしく小さくて、地味な花だったらわかるがこのサイズでこの色だ。しかもこんな風に当たり前に咲いている。であれば載っていない訳が無いだろう?」
「確かに…」
そう言われてみればそうだ。こんなにも人目につく花をネタに飢えた作家が見つけないはずがない。
「となると?」
「俺達が産まれ、育ったのは少なくとも日本ではないことは明らかだ。この様子だとそこらの外国ではないだろうな。それに少なくともお前はどこかしらの身分の高い家の生まれだ」
「Why?」
「お前も見ただろ?THE・王様ってやつがお前のことを抱えていたのを」
「あ~」
「だが、それもおかしいんだ。今のご時世あそこまでして王が発言力を持っている国は数少ない…あることはあるが…」
「じゃあその王様主権の国を片っ端から調べるしかないってことか」
なんだろう、オブラートって実は頭良い系男子なのだろうか?




