第53話 厨二病のメイドさん
「「キャアアアアアアアッ!!!」」
地上では女子生徒達が歓声をあげていた。
「「ギャアアアアアアアアアア!!!」」
同じく地上では悲鳴が上がっていた。
「あの唇は俺が貰おうとしたのにぃぃぃ!よりによってあの厨二なんかにぃぃぃ!」
「うおおおおお!今日、蒼の家に押し掛けてやる!押し掛けてーーーーー!(←あまりにもヤヴァい発言のため、カットしています)」
「そうだ!俺もーーーーーーしてやる!!ふぉぉぉぉぉ!」
「…」
「大丈夫か?蒼」
「うん…なんか…下からえぐいくらいの声が聞こえてきて頭痛が…」
―ーーーー!はさすがに駄目だろ!
「なんというか…その…悪かった…、記憶が起こされた時、てっきり俺から光魔力を奪ったのはお前なんだって、思っちまって…」
「いいんだよ、互いに、思い出すことを禁じられていた記憶が存在していたことを知れただけでも大収穫だよ」
蒼はふふっ、と笑った。
「お前、女々しいと思ったら。やっぱり元女だったんだな」
「やかまし!」
とは言っても…これから女で過ごす訳にもいかない。手続きやらが面倒くさいであろうし、なにより女装だけは勘弁してほしい。この間の休日でもうたくさんだ。
「…で、下のことはどうする?」
「保留で」
「賛成」
すばやい返答は、想定済みだった。
「…オブラートの家て…」
とりあえず、学校から離れオブラートに来いといわれた彼の家に向かう。
まあ彼とて日本国民だ。家は普通に…。そう思っていた自分が愚かだった。
「…」
「どうした?」
「お化け屋敷かなにかですか?」
ひび割れたレンガの壁、それに伸びる蔦。全体的に黒っぽいカラーで、ところどころ巨大な蜘蛛の巣が張っている。
「空き家…じゃん…」
「失礼な!しっかりと俺が住んでる!」
まさかあの厨二ボイスはここにまで影響していたとは…。
「まあ実質のところ、ここはここら一帯よりも闇魔力の値が高いのだ。だから快適だ」
「そういうもん?」
だからと言って…もう少しくらい外観をどうにかできなかったのであろうか。
「入り口はこっちだ」
「んん?あぁ…」
そんな家に見いってしまったので、反応が遅れた。
「大丈夫か…これ…」
「できれば飛行してもらえると、修理しなくてすむからありがたい」
「まじでか」
軋む玄関を開けると、そこには今にも崩れそうな床のある廊下があった。
飛行しないと入れない家って、どんなだよ。
「っと、で。オブラート、今さらだけど何でボクを家に?」
「いや、ちょっと見てもらいたい物があってな」
そうは言っても、オブラートはその『物』について詳しく話そうとはしなかった。
「ちょっと待っててくれ…」
辺りが本で埋め尽くされたような不思議な部屋に到着した。嬉しいことに地面はレンガで出来ている。
そっと床に降り立つとオブラートはいそいそとどこかへ行ってしまった。
「…にしても…この本の数…」
いくらなんでも…ボクはこんなに本は…
「天国かよ」
いります。こんなふうに本に囲まれて生きたい。もし死ぬのなら本に押し潰されて死にたい。蛇に巻かれての圧死よりもこっちの方が絶対に幸せだ。
「薬草学に…魔獣学…魔法学に…種類多すぎだろっ!」
試しに薬草学の本を開けてみると、知らない草や花がたくさん載っていた。
ちなみにこれらの本は日本語では書かれていない。魔導書と同じ、魔法の才ある者しか読むことができない不思議な文字だ。
「すまない、待たせてしまったな。今、お茶を入れる」
「あ、うん…」
まさかその顔でお茶を淹れるなどという言葉が出てくるとは思っていなかった。
大丈夫だろうか、まさかとは思うけど焙じすぎて炭になったお茶とか、紫色で嫌な匂いを放つお茶だったりしないよな…。
「すみませ~ん!今お茶を淹れますね~!」
「…ん?」
オブラートの声とは明らかに違う。裏声かもしれないが確実に女性の、しかも子供っぽい声だ。
声がした方向に顔を向けるとそこにはメイド服に身を包んだ十二、三歳の少女がティーポットを片手にティーカップに紅茶を淹れているところだった。
「お前らちったのか?」と、聞こうと思った時少女の頭から生える二本の物に気が付いた。
角だ。角と言っても鬼のような物ではなく、耳の上でぐるりと丸まった羊のような物だ。
薄灰色の少し天然パーマがかかった髪の毛をショートカットに切り揃えていて、それになんともその羊の角が合う。
「…彼女は?」
「彼女はトゥナ。知っているかどうかは知らんが、羊頭族だ」
羊頭族がどういうものかは知らなかったが、動物頭シリーズは豚頭族を見ていたから分かる。
「なんでここにいて…メイドしてんの?」
なんだが知ってはいけないオブラートの趣味が見えた気がする。
「前に人間から酷い虐待を受けているのを見かけてな。その人間どもを吹き飛ばして俺が保護したんだ」
「でも…世話になりっぱなしのわけにはいきませんから…こうして…」
「なるほど、オブラートのunknownな部分が出ていた訳じゃないのか…」
「あ?何か言ったか?」
「別にー」
ひゅ~ひゅ~と口笛を吹いて誤魔化していると、トゥナはどこからか持ってきた救急箱をボクの側で開いた。
「腕が…」
「あ…すっかり忘れてた…」
そう言えば爆撃にあって腕が千切れたんだっけ…。特に痛みも感じなかったからかすっかり忘れていた。
「どうするんだ?それ…義手の用意をしてこようか?…」
「あぁ多分大丈夫。こういう傷は一ヶ月もあれば治るってターシャが言ってた」
「でも治る前までには不自由でしょうから一応…」
「そう?じゃあお言葉に甘えさせて頂くとしようかな?」
トゥナはボクの腕の傷の部分に包帯をあてがい、ドタバタと部屋を出ていった。
「なんと言うか…活発的だねぇ」
「おう、だがあいつは意外と飲み込みが早い。訓練をしたらすぐに戦えるようになった。さすがに俺やお前ほどじゃないがな、少なくともそこらしんじょの魔物なら倒せるだろう」
「武器は?」
「短剣だ、ダガーのように刃渡りは短い。それを二本持って恐ろしいスピードで斬りかかる。一度相手してみるか?初見だとかなりビビる」
「いや…遠慮しとくよ…」
ホラーは苦手なのだ。




