第5話 母の問題発言
「ふぁ~終わったぁぁ!」
ようやく入学式が終わった。みんなそそくさと教室に戻って欠伸をかき、寝たり、謎に土下座したりといろんな人がいた。
「そういえば一人まだ来てないんだよね」
そんな声が聞こえてきた。なんだか嫌な予感がする。
「配られた名簿には…『夏波 蒼』って書いてあるけど」
ギクッ!
不味い、ボクと蒼は同一人物。つまり、紅華としてこの学校にいるときは蒼はこの学校にいない。
ヤバい。なんとかして言い訳しないとっ!
「あ…え~とねぇ…」
「?紅華さんどうしたの?」
「ボクね…その蒼と親戚なんだよね」
「え!?そうなの?」
うーん、適当すぎる設定になっちゃったなぁ
「ボクのおじいちゃんがお米屋さんでね。もうおじいちゃんが年だから手伝うことになったんだけど。さすがに毎日は無理だから蒼と交代で手伝ってるんだ」
「へぇ~」
もちろん嘘だ。そんなわけないじゃん!しかも速攻でバレそうだし!
「う、うん。そうなんだ~」
『いかにもバレそうな嘘じゃな。お主はネーミングセンスといい、嘘のつき方といい、下手くそか!』
(やかましい!)
「はぁ…」
ボクは深くため息をついた。
――ガララララ
その瞬間、教室のドアが開きがたいの良い男性が入ってきた。
「よし、みんないるな。今日からお前らの担任になる『柳川 颯』だ。よろしく」
「「よろしくお願いします~」」
皆が口を揃えて挨拶した。
「皆いい顔をしてるな。これなら俺も安心できそうだ!」
「まかしてくでぃしぃ!!」
と、厨二版オブラート君。
「あ、そうそう。本当は今日も登校するはずだった『夏波 蒼』は家の都合でこられないらしい。さっきお婆さんから連絡があった」
『誰がお婆さんじゃぁぁ!?』
(え?連絡入れたのってターシャ?)
『そうじゃ、さっきの適当な設定をここの職員に〔電話〕と言うやつで伝えたのじゃが…』
(適当いうな!それにその口調じゃお婆さんと勘違いされてもしかないでしょ?)
もしかしたら外観は若いけど中身はおばさんだったりして(ボソッ
『聞こえておるぞ』
(ギクッ!)
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入学式も終わり、今日は授業もなく帰ることができた。
ボクと沙与の家は近いので一緒に帰ることにした。
「何か…色々疲れたぁ…」
『お疲れ様じゃな』
「お疲れさん」
沙与とターシャに励まされる。なんでこうなったんだろうなぁ…。
「そういえば、あお…いや、紅華さんは何か独り言が多いようだけど?」
と、沙与。おそらく他の誰かに聞かれてはまずいことになる。そう思い紅華と呼んだのだろう。
「あ~いや?別に…」『なんじゃ、わらわのことを思ってくれているのか?お主も男になったのぉ。あ、今は女じゃったか~』
ターシャはいかにもわざとらしく言った。
「ボクが話してるのは『ターシャ』って言う駄神だよ」
『小わっぱぁぁぁぁ!』
「ターシャ?神?」
「あ…えっとね」
それからボクは今日の朝にあった出来事をすべて話した。シャ~ラ!に襲われて絶命したこと。そして復活したこと。からの女体化したこと。魔法のことを。
沙与はなにも疑う素振りはみせず「さっきはありがと」とかるく微笑んで返してくれた。
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「よし…見つけた」
男は地面に手を着け、何かを拾い上げた。
「詰めが甘いな。馬鹿め」
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「ははは…」
ついについてしまった。魔の空間に。
我が家だ。
両親に何て言えばいいんだよぉぉぉ!蛇の化け物に殺されて復活して女になって、魔法が使えるようになって。どう説明すればいいんだよぉぉぉ!
「ま、まぁ、最低限のサポートはするから…ね?」
「ありがと」
思いきってドアを引く。
「た、ただいまぁ」
その瞬間、恐ろしい勢いで廊下を駆ける音が響いた。
「死にやがれぇぇ!ヒャッハァァァ!」
フライパンを握りしめ、全力疾走をしてくる女性。
母である。
「っと」
ボクはちょいと横に跳び、ドアを開ける。
「えっ!?ちょっと?ぎゃぁぁぁぁぁ!」
勢いを殺しきれなかった母さんはそのまま家から飛び出してしまう。
「きゃぁぁぁぁ!?」
そして、ドアの前で待っていた沙与に突撃して二人とも倒れる。
「な、何するのよぉ!」
母さんがこちらを向いて手を振り上げる。
「いや、待って?フライパン持って殺しに来た人には言われたくないんだけど?」
『これが斧を持っていたら完全に殺人気じゃな』
と、ターシャ。それ、昔に流行った映画だよね?何で知ってんの?
「ごめんなさいね、沙与ちゃん。この子はお友達?」
「えっと…ですね」
沙与はボクの顔をちらりと見た。「蒼から話して~」そう訴えかけられていた気がしたぞ。
「ボクだよ!ボク!蒼だよ!」
「…」
母さんが凍りついた。まぁ当然のリアクションだ。自分の多分一人息子が女の子になっているなんて信じられるわけないよな~
「本当に蒼なの!?」
「うん、本当にボク」
母さんは目に涙を浮かべていた。ん?そんなに感動するほど久しぶりの再開だったけな。
「実は、私女の子が欲しかったのよ~。あなたが生まれる前はずっと女の子であることを期待してたんだけど~、まぁ『残念』ながら女の子が生まれなかったのよね~」
グサッ、心に言葉のナイフが、いや言葉のノコギリがボクの心を切り刻んでいった。
そういうこと、本人の前で言わないでよ…。
「?蒼?どうかした?」
何事もなかったかのように平然と話しかけてくる母さん。
いまここで蛇の化け物に使った魔法をぶっぱなしてやろうか?うん、それがいい。
「ふぅ…」
息を整えて鞄の中から魔導書を引っ張りだして256ページを開く。
『あ、やめんか!』
「バーンリアソマリスっ!」
なるべく威力を低くなるように意識して唱える。
「?」
しかし朝出したような魔法の球は出現しなかった。
そして、体に力が入らなくなった。
「あ…」
そう思った時にはすでに遅く、ボクの意識は刈り取られてしまっていた…。
『あ~ぁ、じゃからやめとけと言うたではないか!面倒くさいやつじゃなぁ…』




