第42話 陰キャは周りから注目を浴びせさせられるのが辛いんです。
「えっと…誰?」
「先生までぇぇ…」
忘れられた、夏波蒼の存在を!学校の中で信用できるランキングトップ10にはインしている先生にまでも!裏切られた…。
「蒼…ってえぇ…全然違うけどなぁ…でもまぁ前の蒼も女の子っぽかったけど」
「やかましぃぃぃ!」
さっきからこうなのだ、そんなに姿形が変わっているのだろうか?何十枚も写メとられたあげくスマホの待ち受けにまでにしている輩もいたし、いきなり土下座して足蹴にしてください!って叫んできたやつもいた、とりまそいつは殴り飛ばしたけど…なんかまだ午前中なのにくたくただよ。
「まあいい、授業を始めるぞ」
その先生の一言でざわついていた教室がゆっくりと静けさに沈んでいった。
「あ、そっか。買い物しておかないと」
「買い物?」
帰り道沙与と会話しながら帰っている中ふと脳裏に現れた。
「そう、来週から親が二人とも旅行に行くみたい。草津って行ってたっけ。二泊三日だからご飯は作ってくれって」
「蒼も大変だねぇ」
「まぁね、でも2日3日くらいなら大丈夫だよ。家事くらいはできるし」
「もぉ蒼女の子のままでいいんじゃない?特に不便は無さそうだけど?」
「不便、めっちゃ不便。まず親に弄られるから」
最近は毎日のように弄られる。前々から弄り癖はあったのだが、女体化するようになってからはその頻度も格段に上がった気がする。
おまけに娘がよかった、なんて本人の前に言うんだよ?やばね?普通にやばね?
「そういえばばね、美久の家がねヤバイらしいんだよ」
「ヤバイ?どうヤバイの?」
なんだろう、崖っぷちとか?家の屋根に鯱があるとか?ペットがライオンだとか?
「家にボディーガードがいるらしいの」
「ボディーガード!?」
彼女はどこかの国の大統領なのだろうか?
そう言えば前に家に情報捜査員がいるっていってたな。蛇さんみたいな?
「お父さんの名前は『弌』っていうらしいよ?たしか名字は『鏡平』」
「カズ!鏡!ひらー!そのままやん!ぜってー蛇さんいるよ?それ」
「どっかの社長さんなのかな?」
ありえる、十分にありえ~るでしょ。あの人が怖くなってきた。なに?敵会社の社長でも暗殺してんの?こっうぇ!
「あ、今日買い物行くんだったらここまでだね。じゃ」
「あ、うん、じゃね」
美久には逆らわないようにしよう。そう心に決めたのだった。
「わぁ…」
スーパーの途中にはひっそりとした宝石店がある。ショーケースに飾られている宝石の輝きを外の窓ガラスから覗くことができるのだ。
「あれ…トパーズ?」
薄い透明感のある黄色の宝石が輝きを放っていた。宝石には詳しくはないがトパーズと推測。
「お嬢さん、ご興味がございますか?」
じっと眺めていると店内から出てきたしっかりとしたスーツを来たおじいさんが出てきた。
「あ、すみません。つい綺麗だったもので。宝石の種類なんて何もわからないし…」
「いえ、別に知らなくてもいいんです。宝石は純粋に美しいから見る。それでいいんです。宝石の種類を知らなければならないのは私みたいな宝石関係の仕事につきたい人です」
「なるほど、宝石は自分が楽しめればいいんですね?」
「その通り、いかがですか?ちょっと見ていきますか?」
「えっ!?いいんですか?」
実は今までこの店を覗いてみようと思っていたのだが、買いもしないのに店内に入るのはなんだかおこがましいので躊躇っていたのだ。
「えぇ、見るだけでも大丈夫ですよ?」
「ありがとうございます!」
そんな訳で宝石店の中に人生初めて足を踏み入れるのだった。
「おぉ…」
店内は明るくその光に宝石の一つ一つが反射して煌めいていた。
「ん?…あれは」
「どうかなさいましたか?」
そこにある宝石はどこかで見た記憶があった。名前も知らない宝石だがいったいどこで…?
「…?」
「お母さん!すごいきれいなの!すごいの!」
「本当だね、いっぱいきらきらあるねぇ!」
「うん!きれいなの!」
物思いにふけっていると入り口から二人の親子がやって来た。女の子はとても目を宝石のように輝かせて宝石の一つ一つを眺めていた。
「子供の『眼』は宝石の美しさが一番よくわかるんです。値段が高いから綺麗、そんな考え微塵もありませんから」
「そうですね」
そんな風に和やかな空気に店内が包まれた時だった。扉を蹴破る勢いで五人の黒覆面を被った男が入ってきた。
「よし、全員騒ぐな!」
男の一人が懐から拳銃を取り出した。
すると他の全員も拳銃を取りだしドアにロックをかけ店内のカーテンをすべて閉めた。
なんか新兵みたいな格好やな。
「宝石強盗ですか?あれ」
「うぅ…ついに私の店にも来ましたか」
おじいさんはガクリと膝をついて無残にもショーケースのガラスを叩き割っている男に目を向けた。
「おじいさん、この店に入れてくれた借りを返すね」
「え?」
手元に小さな魔方陣を二つ描き杖と魔導書を手にとる。
「派翔」
「うおっ!?」
とりあえず下級魔法で宝石の一つに手を伸ばした男を吹き飛ばす。
「てめぇ、なにしやがんだ!」
吹き飛ばされた男は苛立ちを声に表し拳銃の引き金に手をかけた。
「ファークリア・メクラシア」
ファークリア・メクラシア、それはいわゆる固化魔法だ。石化魔法とは違いあらゆる物体の強度を変換できる。弾丸にかければ弾はスポンジのような非殺傷弾にだってなり得るが、この魔法は中級魔法。
そんなに連続して使えば一瞬で魔力がつきる。だから今回かける場所は…杖だ。
杖の一部分を固化させそこの部分で銃弾を防ぐ。
「な、なにぃ?あんな棒切れ一本も破壊できねえのか?確かに小口径だが」
「任せろ、俺の357マグナム弾で額に穴開けな」
357マグナム弾は通常の弾丸よりも火薬量が多く威力も弾速も貫通力も高い。
基本的な拳銃だとその威力には耐えられないため主にリボルバーなどに使われている。
「こんな弾も椎名と戦った後だと遅く感じるんだよな」
眉間に一直線で向かってきた弾丸を杖で叩き落とす。
「おらぁ!」
更に五発、今度は体のあちこちを狙った弾筋。
「いしょっ」
一発目は杖で叩き、それと同時に地を蹴って空中で二発目を処理する。体を捻った勢いで三発目も潰し着地と同時に四発目を、そして最後に五発目を叩く。
「そんな馬鹿な…」
強盗は唖然としてリボルバーを地面に落とした。
「いただき!」
その隙をついて瞬く間に距離を詰め男の弱点を固化した杖でぶん殴る。
「ほうぎゃぁぁぁぁぁ!」
カーンという軽快な音ではなく、ぐちょえっ的な生々しい音と共に男は股を押さえて転げ回った。
リボルバーの弾数は基本的に五発から六発。普通の拳銃ならマガジンを交換したりするだけでいいのだがリボルバーは圧倒的に再送転の時間が長いのだ。
「てめぇ!」
宝石を投げ出しナイフと拳銃を構えて迫り来る三人目の男。
構えて数回引き金を引きながら距離を詰めてくる。なるほど、近距離派ですか。
「らああああ!」
ナイフを逆手に走り来る男。ボクは弾丸を避けつつそちらにも意識を向ける。
「雷翔!」
「あばばばば!?」
少々分が悪いので魔法を使わせていただこう。電撃魔法を行使し男を吹き飛ばすと同時にその意識を刈り取る。
「よし、そこまでだ」
「っ!?」
四人目も戦いに来るのかと思っていたが流石に馬鹿じゃなかったらしい。
ボクも戦いに集中していたため周りに注意を向けていなかった。
宝石店を訪れた少女を人質にとったのだ。
「むぐ…」
人質をとっている男はナイフを少女の首に押し付けている。拳銃であれば魔法ではたき落として無力化できるがナイフだと吹き飛ばした勢いで少女に傷を負わせないとも限らない。
「お、お母さん!」
「亜美!」
「近寄るんじゃねぇ!」
助けを求めた少女の母は駆け寄ろうとしたが拳銃を向けられて動けなくなっていた。
「どうする?お前がこのまま戦えばこのガキは死ぬぞ?」
「卑怯な…」
ボクはエリア確保と爆弾より人質が苦手なんだぞ!?
「ふん、ものわかりの良いようだな。武器を地面に置け!」
反抗的な態度を取ると少女が危ない。言ってしまえば男は少女を殺したらなにもできないのだが…隙を伺おう。
「…」
杖と魔導書を地面に置き様子を伺う。
「どけ、これからは俺がやる」
「ボス?」
他の男よりも体格が若干良いリーダーらしき男がずいと前に出た。
「お前の脳内交信の経路は絶たせてもらった。これで助けが来ることもないだろう」
「っ」
だからか。どうりでお腹を空かせたターシャからお怒りの言葉を頂戴しないのか不思議に思っていたのだ。
それにこの男、それをわかっているということは…魔法使いか?
「あの方の為だ、後継者のお前にはここで消えてもらう」
「は?何を言って…」
その瞬間、視界が赤に染まった。




