第4話 校長先生の話って長いよね
「っ!」
『なにをやっとるんじゃ、まったく』
ようやく校舎内に潜入することができたボクは一目を気にしながら、1―D教室に向かう。
いや、ね?やっぱりやだもん。この姿見られるの。
30才の男二人がJKのコスプレしてスクランブル交差点歩いてるように辛いよ?
あ、ボクは30才じゃないからね?
━━数分後…
「ゴクリ…」
ボクは今、1―D教室の前にいる。中ではガヤガヤと楽しそうな話し声が聞こえる。
あぁ…混ざりたい…早く混ざりたいけど混ざれない…。恥ずかしい…
『男のくせして…絹ごし豆腐メンタルじゃな』
「やかぁしぃわぁ!!…入るぞ…」
扉の取手に手をかける。
『さっさとせんか。じれったい…』
「よし…っ!」
『おおっ、ようやく男になったか』
「今は女に『された』んだけどね」
ボクは扉をゆっくりと開けた。
一斉にボクに視線が集まる。
「あ、待ってたんだよ~。冬風 紅華さんだよね~」
「ほへ?」
いきなり教室の先陣をきって飛び出してきた女子高生。
桃色の髪の毛をショート。まん丸とした瞳。
…誰?
「あ、自己紹介が遅れたね。私は美久。よろしく!」
「あ…うん、よろしく」
ボクは差し伸べられたその手を握った。
女の子はこんな風にグループができていくんだね。身を持って体験できた。
別にしたくはなかったんだけど。
でも…待てよ?『冬風 紅華』という名前は蛇の化け物との戦闘で名乗っている。そこに居合わせたのが沙与だ…。
沙与は少しばかり疑問を持ってもおかしくないと思うのだが…。
後で聞いてみよ。
「じゃあだいたい揃ったし、始めましょうか」
「え?始めるって…何を?」
「あ、そっか。いってなかったね。これから一年間ここにいる皆と過ごしていく訳でしょ?そしたら少しでも仲よくなれるように自己紹介でもしようかなってなったんだ」
「へぇ…」
どうやらかなり活発的な子らしい。学級委員とか立候補しそうだね。
「さ、皆名前準に言っていこ~」
「こ、ここ、効屋 秋卯と言います!よろしくお願いいたします!」
パチパチパチパチ
一人が自己紹介を終える度に皆で拍手する。
その隙にボクは沙与のもとに接近する。
「あ、蒼。どこ行ってたのよ?おまけになんか女の子になってるし」
「冷静だにぃ。ボクだってなりたくてなった訳じゃないんだよ…。でもどうしてわかったの?」
沙与はクラスで『冬風 紅華』という名前を聞いたらまず第一にさっきのボクを考えるだろう。
なのに、ボクにその関係の話をしてくる人はいない。沙与が話していないということだ。
「いや…そんなの誰でもわかるよ?夏波 蒼の言葉の意味をひっくり返しただけなんだから…」「とっさに考えたんだから仕方ないだろ?」
沙与とターシャには見破られていたか…。そう冬風 紅華は夏波 蒼の意味をひっくり返しただけ。
夏は冬。波は風。蒼は紅。はい完成。
ネーミングセンスがない!?うるさいわぁぁぁ!!
「じゃあはい。次いいよ~」
「じゃあ私がいくね~」
沙与が椅子から立ち上がった。
「私は『長原 沙与《ながはら さよ》』と言います。クラスの皆と仲良くしたいと思っていますので、よろしくお願いいたします!」
「「「うぉぉぉぉ!!!」」」
沙与が頭を下げると、教室の中にいっそう大きな歓声が爆発した。(主に男子)
「じゃ~次、御願い」
「え?あ、ボク?」
ボクは美久に呼び刺された教卓の近くに移動する。
「え、えっと。冬風 紅華と言います。ちょっと男の子っぽいところもありますが、皆さんよろしくお願いいたします!」
「「うひょぉぉぉぉぉ!可愛えぇ!」」
とクラスの男子。確証はないけど絶対にこれ…女体化したボクの方が人気ありそう…。
男だった時には何も言われなかったけど、女の子になったら評価が上がるとか悲しすぎる!
ガク(←メンタル死亡のお知らせ)
「じゃ~次は俺だな!」
クラスの男子が躍り出た。
「俺は炎に住まう者の化身、ケロベロスの覇者。またの名を『オブラート』。よろしく頼む」
「「………………」」
オブラート?
そんなことでボクらは時間を潰していたのだが…
ついに入学式が始まってしまった。
『プログラム五番。学校長、挨拶』
「…」
きりっとしたスーツを着こんだ人が壇上にあがり、ガサゴソと懐から紙を取り出す。
この人が校長先生だろう。きりりとした眉にキュッとしまった口元。鋭い目元に整った顔つき。スーツから出ている部分に肌色がいやに多いのが気になるが、とりあえずイケメンである。
『まずは、新入生。入学おめでとう。君たちは今日から我が高校の生徒だ。気を引き締めて生活するように。
まず始めに言っておこう。ここは高校。中学校とは違い義務教育ではない。そこを気を付けるように。
この学校の教育方針、を説明する。まず第一に…』
長い…だるい、めんどくさい。足が疲れてきたよ…。
周りの数人は欠伸したり、直立熟睡法を疲労していたりと大半が話をまともに聞いていなかった。
教育方針?もう聞きたくないよ…。
(ターシャ?)
『わらわを暇潰しの相手にするでない!わらわは神じゃぞ?』
(ウチは宗教に入ってないから問題ないね。うん)
『そのような問題ではない!お主だって祭りにいったり、初詣にいったりするじゃろ!』
(え?それが何か関係してんの?)
『はぁ…これだから最近の若者は好かんのじゃ…』
ターシャの姿は見えないが彼女は多分、膝に手をついてため息をはいているだろう。
(と、言うけど最近はご老人が威張りちらしたり、電車で席を二つ三つ占領してるときだってあるよ?)
『む、むぅ…確かに…言われて見ればそうじゃな…であればこうしよう。最近の人類は好かんのじゃ!』
(もうそれ人の生命を左右する神として、禁句だと思うんだけど!?)
『わらわさえよければどうでもよいのじゃぁぁ!!』
暴君、ここに誕生す。
(神失格だ!おらぁぁ!)
「最後に、あたらためまして保護者の皆様、ご来賓の皆様。本日は忙しい時間をわざわざ割いてまで足を運んでくださり誠にありがとうございました」
校長先生が深々と頭を下げた。その姿はいろんな意味で輝いていた。
(眩し…)
『じゃな』
どうやらターシャも同じことを思っていたみたいだ。ははは。