第3話 明日から蛇がトラウマになりそう
━━ズガァァァァァン!!!
ターシャからもらった杖が地面にぶつかると同時に地面に深いクレーターが出来上がる。
「うおっ!?」
わずかに蛇の化け物にはそれてしまったが、その風に飛ばされていった。
「沙与!?」
「え?…あなた…」
あ、しまった。今のボクは女の子になってるんだった。ちくしょう。
「早く逃げて下さい。ここは、ボクがなんとかします」
「で、でも…」
「いいから早くっ!」
「ほう…なかなかやるじゃねぇか…このガキが…」
「っ!」
てっきり忘れていた。
砂塵の中からゆっくりと蛇の化け物が姿を現す。
「あ、忘れてた…お前生きてたんだ」
「勝手に殺すんじゃねぇ!」
蛇の化け物は右手を握り締め、殴りかかってくる。
「くっ!」
ボクは地面に杖をついて軸にしてなんとかそれを回避する。
『どうも、人間臭いしゃべり方をする輩じゃのう…。ええい、めんどくさい!魔導書の256ページを開くのじゃ!』
「いきなりそう言われてもねぇ…はぁ…256ページね…」
なぜにそんなに微妙な数なんだ?というかこの魔導書何ページ位あるんだろ
「人の前で本を…っ!貴様!無礼にも程があるぞ!」
「え~と…なになに…〔バーンリアソマリス〕…」
その瞬間、目の前に巨大な真っ赤な球体が現れた。
「え?なにこれ」
使い方も効果もなにも知らないので、とりあえず指パッチンをしてみる。
「へ?」人差し指がそれに当たった瞬間、その球体はものすごい勢いで蛇の化け物に向かっていった。
「な、何だとォォォ!?」
蛇の化け物はなす術なく、それに直撃した。
「ぐふっ…」
ぼろぼろになった蛇の化け物はその場で座り込んだ。
「さあ…殺せ…」
蛇の化け物はこちらを鋭い目で睨み付けた。
『まるで武士じゃのぉ…めんどくさいやつじゃな』
「お前だけは…許せない。沙与を傷つけ、殺そうとしたこと。そして…………ボクを『ガキ』と言ったこと!それがお前の犯した罪だ!」
「は?」
「え?」
ボクは女の子と勘違いされることと同じくらい嫌なことがある。それは『ガキ』。子供と勘違いされることだ。
ボクはチビですよ!わかってますよ!!
「でも…ボクは生き物は殺したくない…さっさとどっかに行ってよ」
「この俺に負けた敵に背を向けろと?そう言いたいのか?」
「そう…だ…」
「そうか…」
蛇の化け物は鼻でふんっ、と笑いながらこちらを見た。
「ではお言葉に甘えて、そうさせてもらおう…」
なんだ、案外素直なやつじゃん。
「では、最後にお前の名を聴いておこうか」
「な、名前?」
やっば!名前なんて考えてないし!でも本名を名のると色々と不味いし…あ、そうだ。
「冬風 紅華《ふゆかぜ こうか》。それがボクの名前」
「紅華…よし、覚えた。いつかこの借りは返させてもらおう」
そういって蛇の化け物は風が吹いたと同時に消えてしまった。
『本当にこやつのしゃべり方といい、お主のネーミングセンスといい、今日はどうも腹が立つひじゃな』
「いいの!!ボクがよければそれでいいの!」
『まったく、しょうがないやつじゃのぉ…』
今のボク、周りから見たら誰もいないのに大声出してる変なやつに見えるだろうな…まぁ誰にも見られてないはず…あれ?誰にも…あ!!
ボクは恐る恐る後ろを振り替える。
その視線の先には、地面にべたりと座り込んだ者が…
完全に沙与のこと忘れてた。どうしよ。
「え、え~と…大丈夫?怪我はない?」
「え?あ、うん。大丈夫だよ」
一瞬彼女は戸惑ったような表情を見せたが、すぐにいつも通りの明るさを取り戻していた。
「紅華さんだよね。助けてくれてありがとう」
「う、うん」
沙与は立ち上がり、ボクの手を取って頭を下げた。
う~ん、やっぱり幼なじみに別人となって接するのにはちょっと違和感があるなぁ…。
「じゃあ、私はこれでっ」
このボクにとって気まずい雰囲気から早く逃れたいがために、その場を離れることにした。
「あ、ちょっと…」
沙与はこちらに向かって手を伸ばしていたがそれをとりあえず無視する。
「あ~疲れたぁ…」
『お疲れ様とでも言っておくかの~』
とりあえず一目のつかない場所に移動して、壁に背中を預けて一息つく。
「ふぅ~…、さ…ターシャ?さっさと戻して」
『…それがのぉ…、わらわとしたことが…』
「え?」
何か嫌な予感がする~。
『すこし操作を誤っての…その姿になると十時間程…姿が戻らないのじゃ』
「は?」
これは…幻聴か?今ターシャは『すこし操作を誤っての…その姿になると十時間程…姿が戻らないのじゃ』と言ったような…
「まぢ?」
『まぢじゃ』
「駄神ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!????」
ボクは空に向かって叫んだ。
じゃあボクは三年間お世話になる学校の入学式に出られないのか!?
『安心せい。わらわは神じゃぞ?』
自称のくせに…
『わらわがしっかりと、〔冬風 紅華〕を学校に入学できるようにしておいたからの~』
「へ?」
どうせ、神の力を使った~。とか言うだろうからどうやったかは聞かないでおこう。
でもさ…ちょっとまって…
「はぁぁぁぁ!?ボクが女の子として学校生活を送れとぉ!?」
ところどころ声が裏返った。
『いや、適当に口実をつけておけばよかろう。そこまで無理して女体化する必要あるまい』
「そういう問題じゃないんだけど…はぁ…」
入学式当日だというのに気が思い。女の子になることすら嫌なに…そのまま女の子の姿で学校生活を送るなんて…最悪だよぉ…。
『だが、その姿はさっきのおなごに見られとるからな。多少だけ姿を変えさせてもらうぞ』
ターシャが何か、ぶつぶつと唱えるとさっきまでの緑色の髪が血のような朱色に染まり腰の辺りまで伸びた。
おまけに制服まで女子用のものになっていた。
『どうじゃ?』
「どうもこうもないよ…あるのは絶望だけ」
『ならよかった、よかった』
「よかねぇよ!!!」
こうしてボクの男の子としての学校生活、女の子としての学校生活がスタートした。