第24話 リレーで魔力を使うのは間違っているのだろうか。
引き受けちゃったよ…はぁ。
正直、美久は美顔である。それはつまり背後に「美久様をお助けし隊」がついていることを意味する。もちろん、裏組織なので彼女が知る余地もないだろうが。
まぁ簡単に言うと、美久の言うことを聞かないとその集団に何をされるかわからない。
今までのボクだったらいいが、今は半分の時間を女で過ごしているようなもの。
うっかりその瞬間を見られたら大変なことになる。
つまりは断ることができないのだ。
う~ん、蒼さんをお助けし隊は誕生しないのだろうか…。
「なぁなぁ、俺ティナちゃんファンクラブに入ろうかな?」
「何それ~?」
「ティナちゃんのお助けし隊ってこと。ティナちゃんが困ってるときに助けてあげる。そういう集まりだ!」
蒼さんをお助けし隊にしておくれ~!
「ちくしょぉ…」
男同士の話を聞いて悲しむ蒼の構図。
「あなたがリレーの代表希望?」
そんな中、ふと聞きなれない声が耳に届いた。
「別に希望した訳じゃないんですけどねっ」
美久のバックについている部隊に恐れをなして受け入れただけです。はい。
「実は私もリレー希望者よ。あなたにこのリレーの出場権は譲らないわ」
「いや、別に構わないんだけど…」
リレーに出なくてもいいのであれば何でもヨッシーなのだ。
『なんじゃなんじゃ、お主には積極性というのが足りないのぉ。それでも男か?』
(半分な)
ボクを女にした奴がなにいってんだ!
「それじゃ、放課後楽しみにしてるから」
「楽しみにしないでくれるとありがたいな…ははは」
「よし、全員揃ったな。じゃあこれからリレーの走順を決めるためのレースを行う。距離は50mだ。それぞれ四人ずつで走ってもらう。誰と組むかは、あなた次第です」
最後に超○現象番組の〆みたいな言葉を言わないで!
「あ…蒼いたんだ…」
「このしゃべり方は…嫌な予感が」
この背筋に走るヒヤリとした感じ。いやに一言一言に間のあるしゃべり方。まさか…
「麗奈ぁ!?」
「そうよ…霊力使いの麗奈よ…あなたもリレーに出るの?」
「強制だけどね」
「そう…なら本番で闘いましょう?…一位はそう簡単に…譲らないから」
なんか麗奈ってスポーツになると燃えるよね。
「いや、本番で会う気もないし、さらさら出る気もしない」
「え?」
どうやら麗奈にとってこの返答は予想外だったらしい。すっとんきょうな声を出した。
まぁ、彼女は恐らくリレーのメンバーを決めるためのリレーには自分で足が速いと思っている者が来ると思っていたのだろう。まさか参加不希望の者がここにいるとは考えてもいなさそうだ。
でも、強制だけどねってゆうたやん!人の話聞けよ!
「出たくないって…それどういう…」
「よ~し、じゃあ始めるぞ~!準備しとけ~」
麗奈の質問は先生の声によって揉み消されるのであった。
「そうだ、ちなみにだがここで手を抜いたりあまりにも足が遅い奴には原稿用紙10枚分の反省文を書いてもらうからな」
は?
これは…ボクに対する仕打ちか?ボクが何をしたって言うんだ?
「…だって、蒼。…本気出さないと反省文だって…」
「やだぁぁ!!反省文10枚はやだぁぁ!」
仮に原稿用紙一枚を200文字としよう。するとあ~ら不思議。十枚は2000文字だ!
反省文に2000文字って!何を書くんだよ!
「本気で走らんとあかんの?」
「…あかんよ?」
「はぁ…」
深くため息をついた。なんといってもボク、足の速さは全く自信が無い。いつも平均くらい。だからフライングでもしない限りタイムは縮められない。
でも、フライングはノーカウントになるだろうし、仮に成功したとしてもその後、速さをキープできる自信もない。
(どうする…どうする?…ってかボクよりも絶対オブラートの方が足早そうなんだよな…)
闇魔法の使い手、オブラートはなんだかんだいってしっかりとした体つきをしていて筋肉もある。
ボクなんかよりあいつに声かけろや…
明日、オブラートのことぶっ叩いたろ。
「?ぶっ叩く…?」
ふと何かが頭の中に浮かんだ。いつもオブラートを叩くとき、何をしている?
手に魔力を覆わせて…
「それだぁ!」
「!?」
急に大声を出したので、隣にいた麗奈が跳び跳ねた。
「…何?…急に大声だして」
「ふふふ…良いこと思い付いたぁぁ~」
「…その顔…キモい」
どうやら今のボクは顔面が崩壊しているらしい。
だが、そんなこと言っていられるのも今のうちだ!!
「よし、えっとそこのお前!走れ!」
すると先生がまるで脚本でもあるかのような完璧なタイミングでこちらを指差してきた。
名前を覚えられない悲しみ。まぁいい。ボクの(魔)力!見せてやる!
「そこに並べ」
先生が指示したのは既に準備を終えたガチムチ高校一年軍団の中だった。
「ふっ、遅そうな奴が来やがった。これで最下位は免れられそうだな」
「ははっ、確かに」
聞こてんぞ!誰がノロマでチビだ!
見てろよ!絶対に見返してやる!
「位置について…」
そして、あたりに静寂が訪れる。
「よぉ~い…」
皆、一斉にクラウチングスタートの準備をとる。
「スタート!!」
旗が降り下ろされたと同時に、皆一斉に地を蹴る。
一歩でも早く。一歩でも早く次の足を踏み出す。各々そう思っているだろう。
だが、そんなことをせずとも誰よりも速く足を動かすことはできる。
【魔力の縮小と瞬間的な解放】
もともと多大なエネルギーである魔力を力で無理やり縮ませ、足に注いだ所で解放する。
ゴムボールのようなものだ。ゴムボールに圧力をかけ、瞬間的に圧力をかけるのをやめるとゴムボールはもとの形に戻ろうと一気に爆発的な力を解放する。その原理だ。
あいつ、スタートに失敗したな。そう誰もが思っただろう。
「そう簡単には、負けないよ」
ほんの一瞬の事だった。走っている奴らが自分の横をまるで疾風の如く。空間を切り裂くようにして進む何かに目を見開くまでは。
「いよっと…」
そこからは一瞬であった。
選手希望者よこを走り抜け、50mを示すラインを越える。
「…ろ、ろくてん。にいいち…」
「え?」
「あ、す、すみません!6秒21!」
「「「おおお!?」」」
周囲から驚きの声が聞こえる。ありがと、平均タイムは越させていただいた。
「くっそぉぉぉ!!」
そしてその後からぞろぞろとやってくるさんざんボクを馬鹿にしてきた奴ら。
へへへ、走りは才能ってあるけどほんとだね。魔力の量も才能みたいだし。
ちなみにその後、麗奈は同じような手を使ってボクに近いタイムを叩き出していた。
走っているときに、思春期真っ盛りの男どもが彼女を天使をみるかのように見つめていたが…今は触れないでおこう。
――距離、200…
「ふぅ~、疲れたぁ…」
「…お疲れ様」
リレーのタイム取りも終わり、う~んと体を伸ばしていると麗奈が声をかけてきた。
「麗奈も結局は使うんだね。霊力」
「…私は使わないとは言ってないし、あなたより先に考えてた」
「魔力とか霊力の扱い方を知らない人達にとってはチート扱いなんだろうけど…」
「…ふふっ、確かにそうね」
「はぁ…家かえったらターシャがいるよぉ…。レインは縮んだから、親にはアイドル扱いだし…何よりもあのしゃべり方が耳について仕方ない」
語尾が必ず小さな文字になるしゃべり方である。
「まぁ…頑張りなさい…」
「他人事だなぁ…」
はぁ…とため息をついたその刹那、視界の端で何かがキラリと輝いた。
「?」
それはFPSで言う、スナイパーライフルの反射光のような…。ってかそれだ!
――ガァァァァン!!
突如、辺りに爆発音が響き渡り小さな物体が恐ろしい速さでこちらに向かってきているのがわかった。
「はぁぁ!?」
ここどこだと思ってんだ!?戦争放棄した日本だぞ!?何人に向かって銃弾かましてくれちゃってんの!?
「ファシ…」
「…結界」
ボクが行動するよりもはるかに速く、麗奈は反応し銃声のした方向に一瞬で結界を展開した。
―ガキィィ!
刹那、麗奈がとっさに展開した結界の中心に金色に輝く物体が突き刺さり、結界に亀裂が生まれる。
「大口径弾!」
その結界で勢いを殺され止まっている物は嫌に先の尖った銃弾だった。貫通力を向上させ、空気抵抗を少なくするこの銃弾は主にスナイパーライフルや大口系拳銃などに使用される。
だが、銃声が聞こえてからここに届くまで一瞬だが間があったことからかなり遠くから放たれた物の可能性が高い。
「おやおや、スナイパーライフルの銃弾を受け止めるなんて…一体どんな反射神経をしているんだい?」
「っ!誰だ!?」
声のする方向に踵を返すがその声の主と思わしき人物は見当たらない。
「そこじゃない。もっと上さ」
その言葉の通りに上を見上げると、かなり遠くの家の屋根の上に足を組んでスナイパーライフルを構える少年の姿があった。




