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第21話 運動、嫌い…

――あの者達に受けた痛みは…いつまでも私の体を蝕み続ける。

消えることはない。和らぐことない痛みだ。

奴が目覚めてからしてから、その痛みは日に日に強くなっている。



殺す、やつを殺す。


私なりの復讐だ。


痛みは、痛みで返す。




傷は傷で返す。







待っていろよ。










「あつ…」


レインらが家に来てからはや一ヶ月がたった。

もちろんその間も、数々の化け物が襲ってきてそれを退治する日々を送っていた。


「まだ5月やろ…、なしてこんなに暑いんと?」


いまだに立春を超えていないというのにも関わらず、日に日に暑さが増していく。

数ヶ月前の寒さが嘘のようである。

これも温暖化の影響なのだろうか?


「もう、ちっとは勘弁してよって…」


最近、化け物の出現率が高いのだ。

まるで冬眠から覚めたかのように。

暑くて体力が減ってるし、なんかちゃっかり入れさせられた部活もあるし、大変きわまりないのだ。



そう考えてみると、随分とブラックだね。


「はぁ…」


重く溜め息をつきながら、いつもの倍重く感じる教室のドアを開ける。


―がこん


なにかが外れたような音がし、クラスメートの視線が一斉にこちらに向けられる。


ちらり、頭上を見るとドアを開けたせいで落下を始めるブラックボードイレイサーがあった。


なんともしょ~もない悪戯である。



本来ならここで髪の毛がチョークの粉まみれになっているだろう。

これを仕掛けた本人もそれを望んでいるだろう。



しかし、一ヶ月間命をかけた戦闘をしている者の反射神経をなめるでない!(ひしぃ)


「らっ!」


とっさに振り上げた右手で吹き飛ばす。


「あべふっ!」


そしてそれは本当の闇の魔法使い、オブラートの顔面に直撃したのだった。


「蒼!?きさま何てことを!?」

「いやいや、仕掛けた張本人に罰が下るのは当たり前だろ!?」

「あ?証拠は存在するのか!証拠は!?あぁ?」


某ミステリー漫画の犯人のように証拠の存在を尋ねるオブラート。

それ言ったら終わりなんだよなぁ…。


「お前がひときわこっちを見て、にやついてた」

「それだけ!?」

「それとお前の手…チョークの粉ついてる」

「あ…」


容疑者。オブラート…逮捕。


「夏波すげーな!あれを避けるなんて!しかも弾き返すなんて!なんか武術とかやってんの?」


それを見ていたクラスメートがにやついていた。

しかし、ここで「魔法使って化け物と戦ってるんです~ww」なんて言えるわけない。どうしたもんか…


「え~と…、その…テニスの…サーブ?」


確かにフォームは同じであるが、かなり無理な言い訳である。


「何…?テニス部って黒板消しでサーブ練習すんの?」


よかった。こいつがアホで。


「そんな訳ないでしょ…」


聞こえるか聞こえない程度の声でそう呟いて自分の席に座って鞄を机のよこのフックに引っ掻ける。






朝学活が始まるまで、皆は気ままに好きなことをしている。

しかし、友達が少ない者にとってこの時間は最悪であり屈辱的なのだ。


「ほら見ろよ!ティナちゃんの写真が10になったぜ!」

「ふっ、お前甘いな。おれは20枚だっ!」

「ダニィ!?」





「やばいな…俺が投稿したティナちゃんの動画の視聴回数が50000回いったいんだけど…」

「おれあれだなぁ」

「?」

「この学校にティナちゃん応援部作ろっかな」

「いいなそれ」





地獄である。



なんだ!?本来の蒼には見向きもしないくせに!女体化したボクには興味があるのか!?


ちきしょぉぉぉぉぉ!


「まぁ。そうかっかするな。これでも飲め」


まるで考えていることを察した化のようにオブラートが水筒を差し出す。


「?」


それをなるべく口をつけぬように飲んでみる。


「うまいなこれ。マンウンテ○デューだ」

「だろ?」

「なにでできてるんだ?これ」

「秘密だ」

「秘密ぅ?」

「そうだ、戦場で体に良い飲み物が飲みたいとはおもわんか?」

「それゃ確かにそうだが、戦場じゃそんな贅沢も言っていられない……って何言わせとんねん!」


表面にうっすらと魔力をおわせた手でオブラートの頬を思いっきり叩く。


ちなみに蒼の姿でも、いままで魔法を使いまくっていたせいか多少魔力に干渉できるようになった。


「ふんっ!」

「ぐほぉ…ビ○ダでビンタ…」

「黙れや」










さて、そんな時間も過ぎ今日のホームルームが始まる。


「よし、全員いるな。今度6月に体育祭がある。みんなそれはわかってるな?」

「「はい」」




体育祭…だと?




「その体育祭の…練習と言ってはなんだが…その、まあ流れを把握する物をやることになった」




それを練習ってゆーの。




「まぁ、頑張ってくれ。以上」



随分と他人事やなぁ。おい…










――――――――――――――



       二章


    ――燃える鎖――



――――――――――――――










「特訓?」


帰宅して、いきなりレインが口にしたのはその二文字だった。


「そうだよぉ、しかもただの特訓じゃなくてれっきとした魔法のねぇ」

「でも…なんで今さら…?」


今まで、いろんな化け物と日常的に戦った。しかし、最後に命が危うくなったのもレイン達と戦った時だし、むしろレインやカイナ以上に強かったやつがいない。


「特訓なんて…する必要ある?」

「あるよぉ、いつ、だれが、どこで、君のことを狙っているかわからないんだからぁ」

「むぐ…それはそうだけど…」


今やボク、いやティナのことは写真や動画投稿サイトなどで深く知れ渡っている。

もしも欲に道溢れた男が襲ってきたら大変かもしれないけど…


「じれったいの、レイン。わらわがこやつに直接説明してやる」

「なんで上から目線なの?」

「まず、レインとカイナと戦った時から1ヶ月間、わらわ達は様子を見ていた」

「何の?」

「魔方陣展開魔法じゃ。お主がミカナ・ライルを使って一時的にカイナを封印したとき魔方陣を使ったりしたじゃろ?」

「他にもいろいろあったけど?」

「その魔方陣展開魔法は己の魔力の半分程をいっぺんに消費してしまうのじゃが、反面威力は普通の魔法とは段違いじゃ」

「つまり?」

「お主にはその魔方陣展開魔法の特訓をしてもらおうと思っているのじゃ。ついでに魔法にたいする簡易的な知識も持ってもらいたい。今までは何も教えないままじゃったからの」

「うん…別に良いんだけど…」

「どうかしたのぉ?」


たしかに言いたいことはわかるのだが、さすがに話が唐突すぎる。

ボクの勘を…なめるなよ?


「何か、あったんでしょ?」


その瞬間、ターシャとレインが目をそらした。


「ななな、なんのことかなぁ?」

「わ、わらわもちょっと何をいってるのか…」

「1ヶ月も一緒にいればわかるわ!」


この1ヶ月の間にかなり多くの二人の癖を見抜いてきた。その中でも、嘘をついた時、動揺しているとき、内心ヒヤリとした時の動作は頭に入っている。


ターシャが嘘をついた時、かすかに右の眉が痙攣する。


そしてレインは嘘をついた時、やたらと後ろの束ねた髪の毛を気にする。


まだまだ甘いのぉ…


「はい、白状してくださいな。なんで急に魔方陣展開魔法が練習するのか。簡潔にまとめて答えなさい」

「…ばれたら仕方ないかぁ。…あれはちょうど昨日の夜、空気を漂う魔力に大きな乱れが生じてねぇ」

「大きな乱れ?でもなんでそれが?」

「そぉ、もしかするとまた何か強力な者の封印が解かれたのかもしれないよぉ」

「封印が…とかれた?」


よくよく思い出してみれば、レインとカイナも何者かによって封印がとかれたのだ。


もしかすると、その何者かが今回も関わっているのかもしれない。


「まぁそういう訳じゃ。頑張れ」


ターシャが大きな口を開けて欠伸をする。


「えぇ…マジで言ってんの?」

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