第16話 やべっ!また死ぬ!…また死ぬってなんだ?
「あ、ありがとう…ございます。助かりました…」
少女の親が礼を言う。
「それよりも…今は逃げてください。ボクがここで時間を稼ぎますから」
「でも…」
「いいから行ってください!」
ボクが怒鳴ると一瞬びくっと驚いた様子を見せて少女の手を引いて親は駆けていった。
「はぁ…はぁ…まさか、当たるとは思ってなかったよ」
あの親子を抱えた時、目と鼻の先に化け物の爪があった。
慌てて腕で体を庇うも、腕の骨を叩き折りその勢いで横っ腹を切り裂かれた。
「血が…」
腕と横っ腹からどくどくと血が出てくる。一向に止まる気配がない。
「ぴんち…蒼さんぴんち…」
某特撮映画だったらピコンピコンいってるでしょ、これ。
「ヒーリング魔法ってなかったっけな…」
ぐらり、視界が揺れた。多分頭に血が行っていないのだろう。魔導書の文字がよく見えない。
「ギャォォォォ!!」
そして再び、化け物の足?手?が一歩踏み出されあと一歩で潰される距離になった。
「っ!簡単にプレスハムにされてたまるか!フラヒィクト・シールド!」
杖は持ったところで腕が折れているので使えない。
だけどフラヒィクト・シールドは杖が要らず、唱えるだけで使える。対ゾンビ戦で使った魔法だ。
覚えておいてよかった。
ガシィィィィィン!!
シールドと化け物の足がぶつかり、火花が散る。
「ぐぅ、ぁぁぁ!!」
その衝撃が手から体に伝わってくる。これシールドの意味あんのか?
「だけど…」
これからどうなるか。想像は容易だ。
一にプレスハムにされる。そして喰われる。
二に出血多量で死亡。
三に魔力《マナ》が切れて死亡。
全部死亡ルートやん!
「ぐぉぉぉ!どうする?」
頭の中をフル稼働させる。なにか方法はないのか…?
「ない!」
だみぃ~だこりゃ!!なんにも思い付かん。
「ぉぉぉぉぉ…」
どんどん押し潰そうとする力が増してくる。それともボクの力が弱まってきているのか。
「ぁぁぁぁぁ…」
そしてシールドに亀裂が入った。
「やばっ」
その亀裂はどんどんシールドに広がっていき、
―――バリン…
シールドが割られた。
砕かれたシールドのかけらが宙を舞い、それを掻き分けるようにして化け物の足が迫ってきた。
「死んだな…こりゃ」
また圧死か。やだな…
ボクは全てをあきらめて、目をつぶった。
「っ」
いきなり、体に浮遊感を覚えた。
「?いき…てる?」
てっきり天に召したのかとおもったが、どうやら違うらしい。
「れい…な?」
うっすらと目を開けると、彼女の顔がすぐそこにあった。
「別に…あなたに何か思いがある訳じゃないわよ…。まだテニスの…決着がついてないから…死なれたらこまる…」
「テニスの決着がついてたらボクは死んでも良かったと?」
「さぁ…わからない」
ぱっちりと目を開けてみると、空を飛び、ボクを抱えた麗奈はボクの腹に緑色に輝く手をのせていた。
「これは?」
「癒しの術…。よし…一応傷口はふさいだわ…でも…あんまり動くとまた開くから気をつけて」
言われてみるといつの間にか痛みが消え、折れた腕の痛みを引いていた。
「これなら…」
戦える!!
「もう大丈夫、ありがと」
ボクは麗奈から離れて、地面に着地する。
『おぅおぅ、危ないところじゃったなぁ。ひやひやしたわ』
「ホラー映画じゃねぇぞ!ってか見てんのなら助けろや!」
傍観者面しやがって!!
『神が人の子に手助けはできないのじゃ。まぁがんばれ』
「死ね!本当にアナタナカーマ?アナタナカーマ?」
「私ナカーマジャ」
ターシャと論争を繰り広げながら、こっそりと杖を回収。化け物の下に入って256ページを開く。
「バーン・アソマリス!!」
放たれた火球は化け物の腹に命中。
爆発し、化け物は悲鳴をあげる。
「やっぱり下が弱点だったか!皮が固い奴は腹が弱い!これゲームの基本なり!」
よし、これからは勉強よりゲームの量を増やそう。
役立つことが多そうだしね。教育委員会に言ってやろ。
「ミヤ・サイヤ!!」
またまた初めて使う魔法だ。唱えると、杖が弓に変形し、魔導書が変形した矢をつがえる。
「く…」
弦を引く腕を頬の辺りまで運び狙いを定めて右手を放す。
「いっけぇぇぇ!」
青白い光を放ちながら突き進むそれは、化け物の腹にあたり貫通した。
中学の時、ちょっとだけアーチェリーをやったことに対して喜びを感じる。
「ぐぅ…」
苦しそうな声を出した化け物は、白目を向いて倒れた。矢が当たった場所からは緑色の体液が流れ出ていた。
「…ごめんね」
何も命を奪う必要はないのかもしれない。
たとえ化け物でも一つ一つ魂を持ったれっきとした生き物。たとえ暴れたとしてもれっきとした生き物。
交渉して、離れて貰うのがよかったかも知れない。と、少し後悔した。
『…?』
「え?どうかした?」
普段なら『お疲れ様じゃ、さっさと帰って来てわらわの肩を揉め』とか言ってくるターシャがいつになく静かだ。
「どうかした…?」
そんなボクの態度を不思議に思ったのか麗奈がそばにふわりと着地する。
『あーあーあー、聞こえておるか?』
「いや、さっきから聞こえるよ?」
『いや、お主ではなくて…麗奈と要ったか?わらわの声が聞こえておるか?』
「えぇ…でもあなたはだれ?」
わざわざ反応したボクはその場て切り捨てられたことに少々不服を感じるも、二人の会話に集中する。
『お主はビヴォーサ・カイナリヴァを知っておるか?』
「えぇ…私の家に古くから伝わる巻物に記されてありました…」
『そうか…なら話が早い』
「どう言うことですか…?」
『うむ、実は薄々勘づいてはおったのじゃが…。この魔物。ビヴォーサ・カイナリヴァと魔力の質が似ている…と言うか同じなのじゃ』
「それって…」
『不味いことになったのぉ』
「まてぇぃ!勝手に話をほいほいほいほい進めるなぁ!」
二人?の話の間に割り込む。
「こちとらなんも知らねぇんだよ!公式も知らずに因数分解を解くようなもんだぞ!」
あと球の体積とか?
『そうじゃったな。順に説明しようかの。まず、ビヴォーサ・カイナリヴァじゃな。これはおそらく今お主が【倒した】魔物じゃ』
「え?じゃあ何にも問題はなくない?」
確かにえげつない位強くて、死にそうにもなった。だけど、麗奈の協力もあり、【倒した】のだ。結果おーらいじゃん。
『だからそれは【倒れた】だけであってまだ生きている。より、強くなってな』
空に浮いていた太陽がいつの間にか雲に覆われて見えなくなっていた。




