第10話 闇に住まいし廚二病
「…オブラート?」
ズレた廚二病患者。オブラートだった。
ってか!なんでここにいんの!自分が持ってると信じ込んでる力なんぞ!こいつにはきかんっちゅうの!
「闇よ。我に力を」
だ~か~ら!そんなもん!効果ないってぇ!
と、次の瞬間。
――――ズガァァァァァァァァァァン!
「ほぇっ!?」
巨大な爆音が辺りに響き渡った。
そう…この男、オブラートはただの廚二病ではなかったのだ!今までの発言は実は本当のことを言っていたのか!?
すごい…本当は嘘なんてついてなかったんだ!すごいよ!君はなんていい人なんだぁぁ!
「ははははは!!流石の貴様も我の圧倒的な闇の力の前では無力だ!無力!」
前言撤回、倒した相手に煽りを入れるクズ野郎でした。
「ウガァァァ!ウラァァァ!」
「ん?」
「へ?」
だが、そんな物思いにふっけっている中ボクらは目を点にした。
オブラートの攻撃を食らって死んだかと思っていたゾンビが(もとから多分死人だけど)体をぴくぴくと膨張させながらこちらに近づいてきていた。
「まさか…」
これはオブラートも予期せぬことだったのだろう。
「「自爆!?」」
声が裏返った。けほんけほん。
ってかゾンビが自爆なんて聞いてねぇぇ!
「おい!三分間だけ耐えられるか?」
「え?ぁ…うん」
しばらく休んで少しだけ魔力《マナ》も回復した。三分間なら魔法を使ってゾンビの動きを止められる!
「フラフィクト・シールド!」
魔導書を開いて、ゾンビに手の平を向け唱える。
「がっ!?」
ゾンビの驚きの声が聞こえる。なにやらぶつぶつと唱えているオブラートとボクの方にこれぬように金に輝くシールドを張る。
「はぁ…はぁ…」
思っていたよりも魔力《マナ》の消費が激しい。
ボクの魔力《マナ》が切れて、自爆に巻き込まれるか。オブラートの術が先か。
どちらにせよ、この先の運命は全てボクにかかっているってことだ。
「………………」
オブラートは頬に汗を垂らしていた。
彼も相当焦っているのだろう。
「ガァァァァァ!」
ゾンビがシールドに攻撃を仕掛ける。その度その度、その場所に魔力《マナ》を注がなくては破られてしまう。
「っく」
ゾンビが体当たりをかますたび、全身にとてつもない負荷がかかる。
たらりと汗のかわりに血が頬を伝っていった。
「よしっ!!いいぞ!」
「わかった」
オブラートの合図と共にシールドを解除する。
「闇よ、光を全て遮る闇よ、我に力を与えよ!」
オブラートの体からどす黒い、全てを飲み込んでしまうかのようなオーラがあふれでた。
「シリアス・ダークネス!!」
辺り一面が…闇に包まれた。
「ぐすっ、うぅぅ」
「どうしたの?何があったの?」
「ぼくの大事な…ものが…なくなったぁ…」
「大事なものって?」
「ぐすっ、ぐすっ、い…」
「え?なに?言ってごらん?馬鹿になんてしないから」
「いわ…」
「?」
「いわない、絶対にいわないっ!」
「えぇ?」
「くそっ」
またつまらん記憶が蘇ってきやがった。
なんだか心の奥底でもやがたまっているようでいらいらする。なんで今さらこんな昔のことが…
「っ」
心の中で悪態をつきつつ、彼は舌打ちをかました。
「あ…」
ふと、横に目をやるとそこには誰でも一目で心を奪われてしまうような少女が横たわっていた。
少女は体の所々にやけどや擦り傷があったが幸いなことに命に別状はないみたいだ。
まぁ、闇魔法の爆発をもろに受けたのだ。むしろ、この程度の怪我ですんでいることが不思議だ。
「う…」
「お、起きたか」
――――――――――――――
「いやぁ…まさか君が魔法みたいなのを使うとは思ってもなかったよ」
正直まだ信じられない。廚二病が実際に魔法使うなんて…もしかしたら全国の廚二病はみんな魔法つかえるのか!?
「…助けてくれて…ありがとう」
「…」
精一杯の感謝の気持ちを口にしてみる。
オブラートもうっすらと頬を紅く染め目をそらしていた。




