第1話 死因:圧迫死
―ガヤガヤガヤガヤ…
今日は記念すべきボクの高校の入学式!
と、いうわけで皆高校までの道を「楽しみだね~」とか「ちょー楽しみだわー」とか「めっちゃ楽しみやねん!」とか「どんな先生なのかな?楽しみ~」とか。
もはや「楽しみ」しか言っていない人達と一緒に歩いていた。
実を言ってしまえばボクも「楽しみ」な1人。わくわくで心臓の鼓動が止まらない!
「夏波《なつみ》~!」
「おふっ!?」
その瞬間、背中にとてつもない衝撃が走った。
そのせいでバランスを崩し二、三歩前に出てしまう。
「なんだ…沙与《さよ》か…脅かすなよ…」
「いいじゃない別に」
「よくはないと思うんだけど…」
もしかしたら寿命が縮まったかも知れないだろ!ふざけるな!
沙与はボクの幼なじみ。隣ではないがすぐそばの家に住んでいて幼稚園の時から仲がいい。…多分。
ちなみにボクの名前は夏波 蒼《なつみ あおい》。この街に住む多分普通の人間だ。たまに夏波を下の名前と勘違いして女の子だと思われることもある。ちょっと辛いよ。
「蒼と同じクラスになったりしてねっ」
「そんなにほいほい一緒になったら大変だろ?」
余談だが、ボクの中学校からこの高校に来たのはボクと沙与だけ。
この中学校で、その高校に入学した人数がかかれたプリントが配られたのだが、この高校には『2』と書かれていたからだ。まあ新鮮な気持ちでやっていけ。そう言われているととらえておこう。
うん。ボクのことが嫌でこの学校に行かないとか言われたら泣いちゃうよ?
「ねぇ、夏波?そのさぁ…うわっ!?」
「わっ!?」
しまった。忘れていた。始業式と縁を切っても切れないもの。保護者軍団である。
「「どきなさぁぁぁい!」」
「ぎぁあああああ!?」
その波に飲み込まれ、ボクと沙与ははぐれてしまった。保護者軍団。恐るべし。
「いたたたた…ん?なにこれ?」
保護者軍団が通りすぎたあと、地面に何か光るものが落ちているのが目に入った。
ひょいと拾い上げると、緑色の宝石が埋め込まれた銀の指輪だ。いかにも高そうな物なので誰か気づいて取りに来るのではないか。そう考えてそれを軽くにぎった。
その瞬間だった。
「!?」
ドウン!
とてつもない衝撃が地面を伝わり、ボクの体は宙に打ち上げられた。
「いでっ!?」
そして、着地。この時だけオリンピックの体操選手みたくピシッ!と着地できたらな~。と思う。
「ほう…こんなガキがあのお方の指輪を…」
「へ?」
低く、芯の太い聞きなれない声が聞こえた。頬を冷や汗が伝っていった。
(いや、まてまて落ち着くんだボク。そうだよ。新しい学校なんだから知らない人はいっぱいいるはずだよね?
いや~この程度でびびっちゃうなんて、ボクもコミュ症だなぁ~ 。どんな人だろ~。あはは~)
半分やけくそになりながら、顔を持ち上げた。そこには…
「ぎゃあぁぁぁ!?化け物!?」
「誰が化け物だおらぁ!?」
目の前にいたのは、青い体をした蛇のように長い首と体をした化け物。だがなぜだか手足は生えている。
しゃべり方は不良そのもの。
だが、あまりにもびっくりした拍子に手の中から指輪を落としてしまった。
それを化け物はしっかりと目で追った後。
「よし、死ね」
「ほへ?」
こう口にした。
それから、ボクの意識は糸を切ったかのように途切れた。
「さて…と」━━━━━━━━━━━━━━
「う~ん?」
あれ?なんか異様に体が軽いな…。何があったんだっけ?
どうやらボクはうつ伏せになって倒れているらしい。地面のひんやりとした感触が体全体を通して伝わってくる。
「目覚めたか」
「え?」
再び聞いたことのない声が聞こえた。だが今回は低いが、綺麗な声に感じる。もしかして、これが運命の出会いになる可能性も!!
「は!!」
慌てて声のする方向に顔をあげる。
そこにいたのは…
うん。金髪のロングヘアー。きりりとした目元に淡い朱色の瞳。そして露出度が高過ぎる服に、その体よりも少し長い杖を持っている。…あ、これは運命の出会いだよ…絶対そうだ…やったぁぁぁ!
「何をじろじろ見ておる。気持ち悪いぞ!」
「ぐはぁ!?」
だが、喜びもつかの間。その女性は杖でボクの頬を思いっきり殴って来やがった。
痛い…。
「思い知ったか!わらわの胸ばかり見ているからそのような目にあうのじゃ!」
「ボクの永久歯が抜けるからやめて!」
「ふん。わかればいい。では本題に入ろう」
「本題?」
ボクは首を傾げた。ボク何かしたっけな?
「いいか?驚くでないぞ?絶対に驚くでないぞ?」
「お、おう…」
「面倒くさいから言ってしまうぞ。お主は死んだ」
「へ…?」
「お主は死んだ!」
「ふぁぁぁぁ!?」
ぎょえぇぇ!?ぴゃぁぁぁ!?ぷおぉぉぉ!?あひゃぁぁ!?
なにいってるんだ!?この人!?ボクが死んだ!?
じゃあここにいるボクはなんなんだぁ!?
「じゃあここにいるボクはなんなんだ!?」
「おぉ、いたって冷静じゃの。本当はもっとぎょえぇぇ!?とか、ぴゃぁぁぁ!?とか、ぷおぉぉぉ!?とか、あひゃぁぁ!?とか言うはずなんじゃが…」
彼女はにやにやしながらボクを眺めてきた。もしかして…心の中読まれてる!?
「まままま、まぁボクがその程度でそんな変なリアクションをとるわけが無いでしょう!?」
「そうか、まぁそんなことどうでもよい」(よかねえよ!!)
「まず、お前が死ぬ前に出会った者。覚えておるか?」
「え~と、あの蛇みたいな気持ち悪いやつ?」
「気持ち悪いかどうかは置いておいて…お主はあやつにころされたのじゃ」
「おうふ…」
ただでさえ気持ち悪い姿をしたやつに殺されるなんてっ!?精神的にも殺されるから止めてっ!?
「で…どう殺されたんだ?ボクの死因は?」
「ひっじょ~に言いにくいのだが…圧迫死じゃな」
「あ、あっぱくし?」
「お主蛇の生態を知らぬのか!?蛇の中には獲物を絞め殺してから補食するものがいての」
「え?じゃあボクは補食されたのか?」
うえ~気持ち悪~。今にもリバースしそうだよ…。おろろろろろ。
「いや、それはないであろう…多分。確証はない」
「まじか!?」
「まぁ安心せい。お主にはこれから生き返って貰う」
「へ~そ~なの~か~…って!?生き返って貰う!?そんなこと出来んのかよ!?」
転生とか、まあちょっとずれるけど転移とか。その手の類いならボクもラノベとかアニメで見たことはある。
だけど、そんなこと現実で起こるなんて思ってもなかったし、しかも生き返るの!?
「そう。お主にはまぁ…才能があったのじゃ。そうじゃな…簡単に言ってしまえば魔法を使う力。つまり魔力《マナ》が多かったのじゃな。しかし、その才を生かすまでもなくあっけなく死亡」
「そこまで皮肉を交えて言う必要ないだろ?」
「で、どうする?生き返って楽しい日々を過ごすか、このまま地獄に行くか?」
地獄か…いきたいやついるわけねぇだろ!生き返る!なんとしても生き返ってやる!
「ほう、行く気になったようじゃな。では現世へと送るぞ。準備せい!」
彼女はボクに杖を突きつけた。
「そういえば名前は?」
「わらわか?わらわの名はターシャ。生物の命から魂まで全てを握る神じゃ!さあ行け!私の目にかなった若者よ!」
その瞬間、視界が白に染まった。