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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私だけのキラキラは、

作者: 悠子











どれだけ愛されても、どれほど大切にされても。


私は大罪を犯した極悪人。






「かなー?どこ行くのー?」

「まってよかなあー!」


「置いてくよお兄ちゃん、おかあさーん!」


「かな走って転ぶなよ?」


「もう!こけないよー!」




小さい頃、私たち家族で大きな川辺にキャンプに来たことがあった。

透き通った川、岩に打ち付ける波、風に煽られ音を奏でる木々たち。自然の中で私は家族に心配されながらも走り回っていた。走るように水の中を泳ぐ魚たちと駆けっこをしたり、じっと岩部で時を待つ鳥たちと一緒に波を目で追いかけたり。


上の方に行ってはダメよ、川の流れが速いから。何度も口酸っぱく車の中で言われた注意なんてなんのその。初めてみた美しいものを追いかけて走り回った。

私たち以外にもキャンプを楽しむ人たちがいたけれど、同じくらいの年齢の子なんていなくて。私は一人自然のもの達との遊びに明け暮れた。


お昼はお弁当を、夜はバーベキューを。

人口の明かりを頼りにひと時の休息を楽しむ大人達と別に、私は年の離れたお兄ちゃんの手を握って川の淵で夜の色香を楽しんだ。


綺麗だね、と笑い合い、星空の下で星座を教えてもらった。

かなの目はお星様みたいにキラキラしてるね、といって笑った兄はまだ中学生なのに、穏やかな目で愛しそうに私をみてくれていた。


私もキラキラ欲しい、お兄ちゃん取って。といった私に困ったように笑ったお兄ちゃんは、なにか面白いことを思いついたかのようにそのいたずらな言葉を言った。


「かなのキラキラは、かなにしか分からないんだ。だから自分で見つけないとね?」


上を向いたら満天の星空。このキラキラはお兄ちゃんには見えないのかな、と首を傾げた私の頭を少しだけ乱暴に撫でた兄は少し照れたように言った。


「この星よりもっと光っている星はあるよ。でもそれは僕のキラキラとかなのキラキラと違うものなんだ。かなだけのキラキラなんて欲しくない?…なんてクサかったかな」

「うーん…わかんないけど、わかった!」

「それ、本当かなあ」



今思えば兄の言葉は何ともませたモノだったと言わざるをえない。

でも、確かに私の中に住み続けた『私だけのキラキラ』を求めて、私は何度も彷徨い続けたんだ。


これかな、なんて覗き込んでは胸を焦がすほどの輝きなんかじゃなくて悲しくて。これだ!っておもって集めた光は、時間が経ってその光を消して言った。


どこにあるんだろう、そのキラキラはどんなものなんだろう。

それがどんなものか分からずに、でも絶対あるものだって闇雲に、そして手探りで探し続けた。



月日が流れて数年、お兄ちゃんは自分だけのキラキラを探し当てたらしい。これが僕だけのキラキラだよ。と手にとってみせて自慢げに、誇らしげに見せびらかしてくる兄はこの世で一番の幸せを手にしたような顔だった。私には何度見てもお兄ちゃんだけのキラキラは、キラキラ輝いているようには見えなかったけど。でもそれも兄同様とても幸せそうだったことはわかった。


だから言っただろう、俺にしかこのキラキラは分からないんだよ。じゃあ私のキラキラはおんなじ様なキラキラじゃないの?全く別のもの?

全くの別のものかもしれないし、似ているものかもしれない。それを知っているのはかなだけだよ。



そんなこと言うけど、私こそ『私だけのキラキラ』が分からないんだけどな。


そういって拗ねてみせた私に、兄はあの時と同じ顔して、また少し乱暴に頭を撫でてくれた。





兄がキラキラを手にしてまた数年、私は両親に早く見つけないかとせっつかれている。私だって早く見つけたいと思っているのになんて事だ。早くかなのキラキラを見たいものだと、意地悪そうに言った両親に兄。もうキラキラなんて言葉を使わなくたって『キラキラ』の意味を理解しているんだから、と言い返して見ても、まだ全然わかってないよとからかってくる。


笑って言う家族に最初は拗ねてみせて、でもその笑顔溢れる家族の顔を見ていたら私まで溢れて来た笑顔。



見つかってくれるかな、私のキラキラ。私だけのキラキラ。

家族の笑顔が続くうちに、早く自分から顔を出してくださいな。


そうしたら兄がそれを見つけた時以上の幸福を、私はこの愛おしくて大切な家族達に、最大級の幸福に花束を添えて渡すことができるのに。








「…初めまして」

「…初めまして…」


どくん。と胸が大きく鼓動を打ったことはわかったけれど、そして多分、そっちもわかっただろう。何で今なんだろう、何で貴方が『私だけのキラキラ』だったんだろう。


ねえ、おにいちゃん。私見つけたよ。でも、見つからなくてもよかったや。だってこのキラキラは私に最大級のキラキラはくれたけど、それと同時にそれ以上の苦しみまで私に、私たちに与えるものだったんだから。


貴方も多分わかってる。でも、諦めて見ないふりする事もできないってことも、わかってる。

ねえ、そうでしょう?







「何でっ、何でそうなんだっ…!!!」

「やめてお父さん!ね、ねえ、かな…わかるでしょう…?止めなさいそんなこと!!」

「っかな…!!お願いだ、かなっ…!」


ジンジン痛む頬なんて気にならないほど、暑く、熱く胸が焦げていく。

愛しちゃいけないものに焦がれて、愛しくて大切なものを泣かす私たちのこの『キラキラ』は罪深い。


見つからないようにコソコソして隠し続けたって限界があったこの罪は、探し続けていた私だけのキラキラなのに。


泣いて苦しむ家族を見ても、このキラキラを手放せない私は、大罪を犯した極悪人。




愛しくて大切な貴方達に贈ったものは、最大級の幸福とそれに添えた花束なんかじゃなくて。

箱に詰まった灰に成り果てたそれと、白百合を添えたものだった。








悲恋ソングを聞いていて突発的に書いたものです。短いし結局なに?って自分が一番なっている気が…←

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