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電影都市《ファントムシティ》のモンストルオ  作者: 灰村ディック
CASE1:熱烈歓迎電影都市(前編)
3/5

ep2:新世代

「あれ?お客さん大丈夫です?もしかしてチェンジしますか?」


 目の前の女性――リルカはきょとんとした表情で太一を見つめ直してきた。

 間違いない、昼間ハンバーガーショップにいた店員の女の子だ。特徴的な髪は、もしかしたらこの島じゃみんなやってる流行なのかもしれないが、表情を見る限り記憶の中の姿と、目の前にいる女性は殆ど一致する。

 違いと言えば、服装がシンプルで動きやすそうなショップ店員のモノから、今は豊かな胸元を大きく開けた上に、殆ど下着が見えそうなくらいミニでピッチり肌に張り付いたタイトスカートに変わってることくらいだ。

 そんな彼女が何故?今、目の前に?


「えっと、返事が無いのはOKですかね?それじゃあ、早速失礼しマース♪」


 リルカは呆然と立ち尽くす太一を他所に、さっさと部屋の中に入り込んできた。

 太一は全く状況が飲み込めていない。

 なんなんだこの展開は。

 フリーズしそうになる頭を必死にフル回転させ、今の状況を整理する。

 落ち着け、落ち着こう。

 まず、ここは海京都。明日の入社式の為に来た。

 で、今はビジネスホテルの部屋だ。明日の為、俺は今から寝るところ。ルームサービスは必要ない。まして女の子なんて。

 よし。

 太一は何とか意識を整え、部屋の中の彼女に振り返りながら言った。


「あ、あの、スイマセンっ!!どういうつもりか分かんないですけど、僕は何のサービスも頼んで……うわぁああ!!」

「あれ?どうかした?」


 いつの間にかリルカは下着姿になっていた。先程まで着ていた扇情的な服は、机の上にきちんと畳まれている。

 艶かしく絹のように透き通った肌を、これまた透き通るような薄い青い生地が覆い、純白のレースが花を添えるかの様に上品にあしらわれている。

 先程までの服がかなり過激だったのに反して、下着は清楚でむしろ大人しい印象だった。しかし、当然、そんなことを太一が注意深く気にすることは出来なかった。

 それ程、彼は経験値豊富では無かったからだ。


「ななななななにしてるんですかっ!?ふ、ふ、ふ、服を着てくださいっ!!」

「えー?自分はもう脱いでるじゃないですかーちょっとどういう……あ、着衣がいいんですか?ごめんなさーい、これ貸出衣装なんで汚すと買取なんですよ。ちょっとそれだけはパスしていいですか?あ、下着はこのままでもOKなんで」


 リルカの言ってることが、太一には全く理解できない。


「ちょっと、き、君はルームサービスか何かで来たんじゃないの!?」

「ハイ、そうですよ♪サービスに来ました♡」

「じゃあ、なんで……な、なんで服脱いでるんですか!?なにするつもりなんですか!!?」

「え!なにって……決まってるじゃないですか♪2人で大人の"いいこと"するんですよ♡」


 そう言って笑った彼女の笑顔はやはり可愛かったが、先程までの愛らしい花のような印象からは程遠かった。

 もっとしっとりと絡みつくような、花であるなら極彩色の食中花のような、そんな妖しい笑顔だった。


「……へ?」


 太一の思考は完全に一旦停止し、そして急アクセルでフル回転し始めた。


「ちょちょちょちょちょっ……!ちょ、ちょっと待ってくださいよっ!そんな……付き合ってもいない男女がいきなりそんなこと……」

「あれー?お客さん、もしかしてこっちも"初めて"?ふふふ、私が初めてだなんて光栄だなぁ♪大丈夫、大丈夫。そういう人の為に低刺激設定もあるから心配しないで♡」

「ど、ど、ど……いや、そ、そうじゃなくてっ!!」


 太一は自分のベルトに手をかけようとしゃがんできたリルカから、バックステップで間合いを取りながら叫んだ。


「な、なんでこんなこと……!!?」

「何でって言われましても……そういうサービスですので♡としか」

「さ、サービス!?こここんなことが?」

「あ、勿論料金は頂きますよ!サービスと言ってもそこはちゃんとしてますからね♪」

「お、お金を払って……君にこんな……こんなことさせるのが、サービス……なのか?」

「ハイ♡」


 ニッコリと笑ったその顔には、一点の曇もなく清々しいまでのいい返事だった。


「あ、じゃあ一応確認しますね。今回は90分サービスなんで、お値段はこれだけですので♪お支払いはサービス後で大丈夫ですよ♡あ、カードもいけますんで」


 そういって、リルカは計算機で弾いた金額を太一に見せてくれたが、彼には目の前の数字が信じられなかった。

 昼間食べたチーズバーガーセットよりも格安だったからだ。


「な、な、なんで……あの!こ、こういう人権を無視した行いは、多分、犯罪になっちゃいますよ!あと確か風営法とかなんかそういう……と、とにかく、い、違法行為じゃないですか!!」

「あー確か本土の方ではそうなんだっけ?何か大分昔にこういう"お仕事"は廃止されたって。でも安心して♡ここは電影都市だから♪」

「だ、だからってそれじゃあアナタが……アナタだって、お金もらえるからって、こ、こ、こんな仕事、イヤなんでしょ!?ダメですよやっぱり!!」

「え?あーそれなら全然大丈夫♡アタシはこの仕事をするのが役目だから♪だって、アタシは『ロボット』だモン。働くために存在してるんだから、その辺は気にしなくても無問題だヨ♡」

「え……?ろ、ロボット……なんですか?あ、あなた……?」

「そうだよ?見えなかった?えへへ♡照れるなー」


 確かに昼間の光景から、この島には新世代が多いのは分かっていた。

 初めて彼女を見かけた時も、奇抜な髪型とあまりに美しい容姿から、もしかして彼女もただの人ではなく新世代人種じゃなかろうか、と太一も思っていた。

 しかし、やはり面と向かってハッキリと言われると、にわかには信じ難い事実だった。


「き、君がロボット……?ちょ、ちょっと待ってよ……そりゃ確かにちょっと変わった髪型だなぁ、と思ったけど、別に人間と見た目は全然変わらないんじゃ……」

「えへへ♡正真正銘、D&S社製第七世代型接客サービス業用人型ロボットで、搭載人工知能はマーキュリーのビジネスモデル、レベル3アクティブです♪でも、自慢じゃないですけどアタシ、構成パーツの80%が生体部品なんですよ♪見て見て!表情部分も、このおっぱいもリアルでしよー?♡」


 そういうと太一の目の前で、リルカはたゆんたゆんと二つの膨らみを揺らして見せた。それに呼応するかのように、太一の心臓もドクンドクンと活発に動き出していた。


「あ、それから勿論こっちも特別性で――」

「わわわわわわっ!!あ、あの分かりました!もう充分です!理解しましたんで!!」


 太一はパンツを下ろそうとするリルカを慌てて止めた。


「あら?いいの?まぁ、とにかくアタシは『労働者ロボット』だから、『機械人アンドロイド』みたいに『人間ヒューマン』扱いしなくて平気だよ♡」

「業務用のロボットって……で、でもアナタは昼間、ハンバーガーショップで店員も……」

「あ、"昼のお店"にも着てくれてたんだ♪ありがとー♡そっちは昼間の業務で。こっちは夜のお仕事♪どっちもサービス業務として登録されてるんだよ♡あ、もしかして気にしてるのはソコだったのかな?大丈夫大丈夫♡今日の事は、お仕事終わったらちゃんとメモリー消去して忘れるから安心して楽しんでね♪」


 またにっこりとリルカは微笑んだ。

 屈託のないまるで太陽みたいな笑顔は、太一には眩しすぎて直視出来なかった。


「それじゃあ時間もないし続きを―――」

「……下さい」

「んー?どうしたの?」

「か、帰ってください!!」

「え?え?えーー!?なんで?まだ何も……」

「すみません!!ぼ、僕明日も早いんで!!早く服着て!!か、か、帰ってください!!」

「わ!わ!わ!で、でもそれじゃあお仕事が……」

「じゃあ、あの、これ!お金!持ってて下さい!これで!」

「え?わ!こんなに……あわわ!ちょっと押さないで……あの……これ、お釣り……!!」


 バタン


 と、太一はドアを閉めた。

 暫くは向こう側から、リルカの何やらわいわいと騒ぐ声が聞こえたが、しばらくすると静かになった。


「しまった……ようやく見つけた泣け無しの現金……全部、渡しちゃったよ……はぁーーーーーなに、やってんだろ……俺…………」


 太一はドッとベッドに倒れ込むと、深く、深くため息を着いた。

 頭の中は興奮と罪悪感と困惑と、そして少しの後悔が入り交じり、自分でも何がしたかったのかよく分からなかった。


『新世代』と呼ばれる中でも、『ロボット』はその名の通り労働用に作られた存在である。

 機械の体に人工知能をもった存在に、二つの呼び名が生まれたのは、およそ五十年程前だ。確かそう中学校で習ったと、彼は記憶していた。

 かつては人型をしていようが、どんなに頭が良かろうが、感情豊かに話そうが、機械は機械、全て『ロボット』と呼ばれていたらしい。

 それが、この電影都市が建造された辺りから色々と世の中は変わり、高度に発達した人工知能をもった機械は、人間と同じ権利を持つモノとして『機械人アンドロイド』 と呼ばれるようになった。

 彼らは様々な制約はありながらも、今では殆ど『人間』と同じように学び、働き、家庭を持っている。

 一方で、これまで通り『ロボット』という名称も残った。

 それは単純に、人間の道具として様々な業務等に使用される存在に対しての呼び名だった。

 人工知能の発達により、自分で考え、行動し、コミュニケーションを取る機械は非常に増えたが、一定の国家基準を越えないものについては『アンドロイド』、つまり人としては認められないのだ。

 アンドロイドとロボットの違いは、細かく分ければきちんと定められた線引きがあるのだろうが、太一はなんとなく『ヒト型をしたのがアンドロイド、それ以外の単なるモノっぽいのはロボット』くらいにしか認識していなかった。

 というか、そんなことを悩むような機会にこれまで会って来なかったからだ。

 当然、彼にもご近所さんや同級生にアンドロイドは存在した。一方で、掃除やビル工事を行うロボットや、レストランの受付やホールを行うロボットを見たことも当然あった。

 それらは全くの別物で、はっきり見た目から違うモノばかりだった。

『ヒト』と『モノ』を混同することなど、まず有り得なかった。

 なので、先ほどの彼女のように人間そっくりに作られていながら、単なる業務用の機械である存在に出会ったのは、生まれて初めてだった。


 目を閉じて昼間から先ほどまでの彼女の表情や、仕草、動きを思い出す。

 本当に、生きてる人間と違いはなかった、ように思う。


「人間そっくりなロボット……これがこの島の当たり前、なのかな…………しかも、あんな……あんな、し、仕事を……」


 再び目を閉じると、ぷるぷると揺れる二つの球体も不可抗力的に脳裏に蘇ってきた。

 しかし、こちらが人間とどれくらい違うかは、彼には判断できる材料が無かった。

 ただただ、太一の動悸を激しくするばかりだ。


「う…………だ、ダメだ!ダメだ!ダメだ!!とにかく考え出したらキリがない!!明日は早いしもう寝る!おやすみっ!!」


 太一は頭から布団を被り、枕に顔を埋め、無理矢理眠りにつくことにした。

 頭の中ではピンクのツインテールと、二つの柔らかな果実が揺れ、虹色LEDがチカチカとそれらを照らし続けていた―――


  ◇


「……いち…………いちくん………………立花太一くんっ!!!」

「は、ははいっ!!」


 突如大きな声で名前を呼ばれ、太一は上ずった声で返事をしてしまった。

 気づけばここはビルの一室、殺風景な会議室だ。

 目の前にはしかめっ面をして何やら資料をめくっている黒スーツの男と、対照的にニコニコと笑顔を作っている真っ白なスーツの男が居た。


「入社式早々居眠りかね?全くこれだから……今日から君も新社会人なんだからね、自覚をもってくれないと」


 しかめっ面の黒スーツが太一に言った。

 そうだった、今日は入社式だった。

 昨日は結局あまり眠れず、頭が上手く働かないまま、ホテルを出て、いつの間にか入社式会場のビルまで来ていたみたいだ。

 それで今は――どういう状況だったろうか。太一は冷や汗がぶわっと流れ出すのを感じた。

 入社早々、やらかしてしまった。


「まぁまぁいいじゃないか岩井君、彼もきっと昨日は緊張して眠れなかったんじゃないかな?新人にはよくあることだよ。立花……太一君だったかな?そんなに畏まらなくてもいいからネ」

「しかし、こういうことは最初が肝心で……」

「堅いことはいいじゃないか。うちはそういう古い体質には拘らない、オープンでクリーンで、ホワイトな企業だからネ。だから社名も『㈱オールホワイトカンパニー』にしたんだからね。ハハハハハハハ」


 白スーツの男はニコニコ笑顔を崩さないまま話した。

 真黒に日焼けした顔は、純白のスーツのせいで余計に際立って黒々と見えた。

 そうだ、確かこの人がうちの社長、白木田正美シロキダマサミだ。あんまり覚えてないが、さっき挨拶をしていたような……太一はぼんやりとした頭を何とか再起動させながら思い出そうとした。


「す、すみませんでしたっ!!以後よく気をつけます!!」

「……分かればよろしい。それじゃあ、この資料を受け取って。これから新人研修、及び今後の業務スケジュールについてご説明いたします」


 太一は慌てて岩井と呼ばれた男にまで駆け寄ると、どっさりと厚みのある資料を受け取って、そそくさと元居た席へと戻った。

 戻りながら、初めて自分の同期となるメンバーも姿をきちんと確認した。

 男が一人と、女が一人。自分を含めて今年度は新入社員が全部で3名だったようだ。

 一人は恰幅の良い――肥満体の男だ。

 こちらをチラチラ見ながらクスクスと笑ってる。太一が早々にヘマをやらかしたのが面白かったのだろう。

 腹を立てたいところだが、今後仕事仲間となる相手だ、あまり最初から悪い印象は持たないでおこう、そう太一は思った。

 もう一人の女性は、非常に真面目そうな小柄な女性だ。

 きっちとまとめられた黒髪。黒縁の眼鏡。パリッと新品同様のスーツ。しゃんと背筋を伸ばして座っている様は、まるでビジネス教材から抜け出てきたようだ。

 そして、まったく太一の方は気にしていない。眼中にない、といった感じだ。

 これはこれで何とも言えない寂しさを感じたが、やはり同様に最初からあれこれ考えるのはよそう、と太一は思った。


「えー……それでは資料もいきわたりましたので、説明を開始させていただきます。まずはお手元の資料1ページ目にスケジュールがありますので確認してください。これから三日間、新人研修を行い、四日目からは君達にも実際の業務に就いてもらいます」

「え、もうですかあ?なんか、は、早くないですかあ?もう少しゆっくり、研修とか、しないんですかねえ」


 太った男が黒スーツに向かって言った。

 低くてどもりつつも間延びした話し方に、いっそう黒スーツの眉が厳しく眉間に寄せられた気はしたが、構わず岩井と呼ばれた男は質問に答えた。


「君は亀山君、だったね……先程も社長からご説明があったように、当社は飲食店その他サービス店の運営が主ですが、各店舗実際の業務はサービス業務用ロボットがほぼメインで行っているので、君達はその管理とオペレーションの組み立て、そして本社への報告がメインとなります。なので、各業務用ロボットと取り扱いを覚えれば、仕事の八割は覚えたと言って過言ではないでしょう。よろしいかな?」

「はあい」


 亀山と呼ばれた男は、その名の表す通り亀のような緩慢な返事を返した。

 こんなレベルのやつに俺はさっき笑われたのか……太一はいっそう腹立たしさが戻ってきたが、とりあえずはぐっとこらえた。

 そしてサービス業務用ロボットと聞いて、昨晩の出来事をまたも思い出してしまった。

 貰った資料を見ると、昨日の彼女と最初に出会ったハンバーガーショップもフランチャイズでこの会社が経営しているモノだったことに、太一は今気づいた。


「あれ?これって……あのスミマセン」


 太一は思わず手を上げて質問してしまった。

 黒スーツはため息交じりに太一を指した。


「なんですか立花君、何か今のところで質問が?」

「す、すみません……あの、頂いた資料の……この分厚い冊子は何なんでしょうか?」


 そういって太一は手元に渡された資料の中で、一番分厚いファイルを広げながら質問した。

 ファイルは無地の表紙が付いており、中にはずらりと写真が並んでいた。

 どれも女性の写真ばかりだ。


「あー……それについてはこの後説明しますので……」

「スミマセン。私はそのような資料をもらっていないようなのですが」


 ぴっちりと天を突きさすかのように手を上げて、隣の女性が声を上げた。

 透き通るような綺麗な声だった。


「いや、宇佐美さんだったかな君は……えー君とはまた別に男性社員二人には特別に、ちょっと業務を任せたいが為に資料を渡しててだね……」

「それはつまりどのような業務でしょうか?私は本土でもきちんと職業訓練を受け、大学を卒業して参りましたので、出来ない業務はないと自負しております」

「いや、そういうわけではなくてだな……」


 宇佐美と呼ばれた女性は、まっすぐな姿勢のままハキハキと質問を繰り返していく。

 黒スーツの方がなにやら口ごもり、はっきりとしない物言いになってきた。

 太一は、すでに嫌な予感がしてきていた。

 そんな妙な雰囲気に包まれた場を変えたのは、社長の一声だった。


「それはね、ウチがやってるサービス業の一つ、ロボットデリバリーヘルスの資料だよ。男性諸君には昼は飲食店のオペレーター、夜はデリヘルのオペレーターを行ってもらうからネ」

「しゃ、社長それは……」


 黒スーツが口を挟もうとするのを軽く制止すると、白木田社長はニコニコ笑顔で続けた。


「まぁ君達にもすぐ分かることだからね。ウチでは飲食という『食欲』を満たすサービスと同時に、『性欲』を満たすサービスも、また提供させてもらっているんだよ。いいかい?人間の欲求を満たす仕事は、とても尊いモノだと私は思っている。その為に、こうして女性ロボットを使ったデリバリーサービスも行っているんだよ。どうだい?とても素晴らしい仕事じゃあないかね?」


 社長の笑顔が一段と黒々と輝いたように見えた。


「…………申し訳ありませんが、私は帰らせていただきます」


 宇佐美はすっくと立ち上がり、踵を返して退室しようとした。

 太一は無理もない、と思った。こんなこと、入社試験の時には聞かされてなかったからだ。

太一自身もどうしようか、と思った矢先に、社長の朗々とした声が会議室内に響いた。


「そういう訳には、いかないんだよ、宇佐美クン」


 彼女が出ていこうとしたのを、どこからともなく現れた二人の男が制止した。


「あ………」


 2メートル近い男二人に囲まれて、流石の彼女も立ちすくみ、有無を言わさず席に戻らされた。

 そのまま男は太一達三人を挟み込むように仁王立ちになった。

 一人は両腕がぎらぎらと光る銀色で、立っているだけでギチギチという音を上げ続けている。

 もう一人は顔の半分以上が機械になっており、額の大きなカメラが先ほどからガチャガチャと何やら動き続けている。

 隣に再び座らされた彼女は、先ほどと同じようにまっすぐな姿勢で座り続けていたが、ふるふると小刻みに震えるのを太一は床越しに感じた。

 もう一方の太った亀は、よく理解できていない顔でボーっと座ったままだ。

 太一は、再びいやな汗が流れ出すのを感じていた。


「それでは始めましょうか……ここ電影都市で生きていくという意味を、新人教育してあげますよ……私直々にネ」



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