会話劇:『海上バスにて』
「どうぞ、座ってください」
「あらあら、いいのよ。どうせあと数分で着くんだから」
「そんなこと言わずに……どうぞおばあさん」
「そうかい?じゃあお言葉に甘えて……よっこいせ。ありがとうねぇ、お兄さん」
「いえいえどういたしまして。おばあさんは『島』まで観光ですか?」
「え?あぁ私はね、ちょっと買い物にね」
「買い物、ですか?わざわざあそこまで?」
「そうなのよ、ほら、コレがちょっと壊れちゃってね。修理部品を探しに行くんだよ」
「わ!これもしかして『スマホ』ってやつですか!うわぁー本当に箱なんだ……僕、初めて見ましたよ」
「そうでしょ?すっかりスマホも持ってる人いなくなったわねぇ。ほら、今の若い人はみんな”頭の中に入れちゃう”でしょ?私はあれ、馴染めなくてねぇ」
「はぁ、そういうもんですか。僕らは産まれてすぐもう『ゲート』ログインされちゃってるんで、むしろそういう別媒体使って検索したり通信してたってのが信じられないくらいで……あ、スイマセン!こんなこと生意気に言っちゃって!」
「ふふふ、いいのよ別に。そりゃ今時の人からしたらこっちのがおかしいわよね。でも私が君らくらいの時は、このスマホでなんでも出来たんだから。まぁでも確かに、もう時代遅れだからねぇ。おかげで『本島』じゃパーツも無いし、修理もできなくってねぇ」
「ははぁ、それでわざわざ買い物に、ですか」
「そうなのよぉ。まだまだ島にはこういう製品を扱ってるショップもあるのよ。CDだって売ってるんだから」
「へぇ!それも僕ドラマでしか見たことないんですよ。実物あるんだ……僕もちょっと探してみようかな」
「ふふふふ、お兄さんこそ観光かしら?」
「あ、いえ……実はこの春から向うで就職が決まりまして……」
「あら凄いじゃない!!もしかしてどこかの大手IT企業かしら?それとも外資のサイバー工業かしら?」
「い、いえ……普通の外食チェーン企業なんですけど……」
「あららごめんなさいね。まぁ、就職決まるだけ良かったじゃない。じゃあ、これから貴方も『島民』になるのね」
「まぁ、そういうことになりますかね……実は僕、島に来るのは初めてで……向うでの生活、ちゃんとやっていけるか心配でして……」
「あら!じゃあ、親切にしてくれたお礼に私から向うの生活でのアドバイスあげるわよ!」
「え、本当ですか!それは……」
ティンティンテテーンティティーーーン
ポーーーーーーーン
『毎度、JR海日本の海上バスにご乗車頂きありがとうございます。当バスは、まもなく終点【海京中央港】に到着致します。皆さまお忘れモノの無いよう、お気をつけてお降り下さい』
「あら、もう着いたのね。よいしょ、本当にありがとうねお兄さん。さぁ!感謝のハグしましょ!!」
「え!うわっ!……あははは……ありがとうございます……で……あ、あのアドバイスってのは!?」
「あぁ、そうそうここ『海京都』で暮らすならね、守るべきことは一つよお兄さん。『他人を信用するな、自分の身は自分で守れ』よ。じゃあね、優しいお兄さん」
「えっ?……あの、それって………行っちゃったよおばあさん……なんだったんだろ……あれ?あれ?あ!?さ、財布がないっ!!?まさか……おばあさん!?おばあーさーーん!!!」