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月夜に提灯、一花咲かせ  作者: 樫吾春樹
山査子編
7/12

漆輪目 待雪草

 寒さの中、私は目を覚まして布団から這い出る。

「うわ…… もうこんな時間」

 スマホの画面で時間を確認して、そんな事をこぼす。立て続けにある仕事の、つかの間の休日。それを半日以上寝て過ごしてしまった。

「はあ、仕方ない。とりあえず、ご飯を食べてから小説とか書こう」

 そう言って、お昼の支度をする。昨日の残りがあったのでそれを温めて、茶碗にご飯をよそう。キャベツと人参、豚肉に塩、胡椒をかけて、炒めた簡単なものをおかずに食べる。その傍らにノートとペンを置いて、食べながらノートにメモを残していく。

 書いていると、玄関の鍵が開く音がした。僕の家の扉を開けられるとしたら、鍵を持っている僕と先輩以外にいない。

「まこちゃん、起きてる?」

「起きてるよ、何?」

「最近仕事続きだったし、会いに来た」

 出てきた言葉に面食らってしまい、誤魔化すようにため息を吐く。

「そんな恥ずかしいことを、よくさらっと言えるよね、裕人さん」

「まこちゃんの反応が楽しくて、ついね」

「遊ばないでよ……」

「好きな子にはいたずらしたくなるのさ」

「はあ……」

 この人には毎回のごとく、振り回される。別に嫌というわけではないけども。僕は開いていたノートを閉じ、食べ終わった食器を片付ける。

「小説、書いてたの?」

「久しぶりにね」

「本当、まこちゃんは色々やるよね。小説にイラストにレジンとか」

「そういうのが好きだから」

 自分で言うのもなんだが、僕自身かなり多趣味ではある。裕人さんが言ったの以外に、編み物や読書など他にも色々ある。

 洗い終わった食器を片付け、裕人さんの隣に座る。抱き寄せられて撫でられ、頭を肩に預ける。

「いいの、のんびりしてて。コンテストが近いんじゃなかった?」

「大丈夫。もうほとんど出来てるから」

「職人に作家にとおつかれさま」

「ありがとう。こうしてのんびりできるだけでも、仕事をがんばれるよ」

 作家に職人見習い。確かに多忙ではあるが、決して辞めたいとは思わない。特に作家の方は。それは、僕が中学から夢見続け、何度もその旅路で躓いたが、やっと叶った悲願だから。

 彼の膝の上で撫でられながら、僕は次の作品のネタを考える。推理物、恋愛物、学園物。どれもありきたりで、しっくりと来るものが思い付かない。そんなことを考えながら唸ってると、裕人さんに頬をつつかれた。

「そんなに唸ってどうした。また、ネタでも考えてるのか?」

「うん…… でも、なかなかいい感じのが思い付かなくて」

「俺はわからないけど、まこちゃんの書く物はいつも真っ直ぐで、どこか奥深くて。読んでて物語に入ってしまうと、俺は感じるよ。だから、自分の書きたいのを書けばいいと思う」

 そう言われ、驚いて言葉が思い付かずに、何度かまばたきを繰り返す。

「それと、いつか俺に物語を書いて欲しいな、なんて。無理せずにだよ、真琴先生」

 その言葉には、口付けと笑顔を返す。

「いつもありがとう、裕人さん」

 照れたのか、彼は顔を背ける。ほんのりと顔が赤い気がする。

「その笑顔はダメだと思うよ、まこちゃん……」

「なんのことでしょう」

 わざととぼけて、知らないふりをする。

「なんのことでしょう、じゃないよ」

 顎をつかんて顔を向けさせられ、僕はそのまま唇を奪われた。

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