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月夜に提灯、一花咲かせ  作者: 樫吾春樹
山査子編
4/12

肆輪目 都忘れ


 裕人さんに想いを告げられなかなか答えが出せないまま、僕の東京への引っ越しの予定日になってしまった。荷物を運ぶ手伝いを彼が自ら言い出し、僕はそれに甘える形になった。

「すいません、裕人さん。今日はお願いします」

「大丈夫だよ。案外、荷物少ないね」

「まぁ、そんなに持って行っても大変なので、着替えと寝具、あとは本くらいです」

「なるほどね。それじゃあ、行く?」

「はい、行きますか」

 両親に出発の挨拶をして、車に乗り込む。何事もなかったかのように、目的地に向かって車を走らせる裕人さん。そんな横顔をチラリと見て、過ぎていく景色に目を戻した。遠ざかっていく故郷の景色に、過ごした思い出を重ねて寂しくなる。

「どうした?」

「東京へ出るのは二度目なのに、やっぱり寂しくて」

「その歳で一人で都内に出て、働きながら生活しようとするのも大したものだと思うけどね」

「あはは…… 家計が苦しくて仕方のないことなので」

 嘘ではない。確かに僕の実家の家計は苦しい。だけど、一番の理由は父親との不仲だ。似た者同士であるからこそ、意地でも曲げなかったりして衝突してしまう。

「そっか。でも、無理しないでね。必要なら来るからさ」

「ありがとうございます、裕人さん」

「まこちゃんは気負い過ぎてるところもあるから心配で」

「返す言葉もありません……」

「よしよし」

 運転しながらも、軽く頭を撫でてくる。そんなところに、ついドキッとしてしまう僕がいる。

「ん?なんかあった?」

「なんでもないです」

「もしかして、照れた?」

「ち、違います!」

「そういう反応も可愛いよ」

「可愛くなんてないです!」

「顔をそんなに赤くして言われても説得力ないよ」

「うー……」

 言葉が続かず、抗議するような視線を送るだけになった。こうやってからかわれるのも、ただ遊んでいるだけだからなのか。それとも本当に。答えが見つからず、考えが堂々巡りする。

「なんで……」

 そこまで口に出し、先がつっかえる。だが、ここまで言ったら気になっていることを聞くしかない。なんとか絞り出すように、続ける。

「なんで、僕なんですか……」

「さあ、なんでなんだか自分でもわからない。でも、俺とここまで仲良くしてくれたのはまこちゃんしかいない。だからかな」

「そうだったんですね」

 さらっと言われ、聞いた自分が恥ずかしくなる。

「まこちゃんは俺のことどう思ってるの?」

「僕は……」

 僕はどう思っているのだろう。嫌いではないことだけは確かなのだが、じゃあ好きなのかと言われるとわからない。友達以上ではあるが、恋人になりたいかって言われても今はまだと思う。

「ごめんなさい。はっきりと答えは出せないです。嫌いではないですし、友達よりも想ってはいますけど……」

 今の気持ちを答え、俯向く。

「ありがとう。嫌ってないってわかっただけでも嬉しいよ」

「すいません……」

「大丈夫だよ」

 俯いたまま呟く僕の頭に、大きくて温かな手が触れた。それが心地よくて、しばらく裕人さんに撫でられ、気づけばうとうとと船を漕いでいた。

「まだ時間かかるし、眠かったら寝てていいよ」

「はい、そうします」

 そして、そんなに時間経たずに僕は寝付いてしまったようだ。

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