表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

閑話1 光り輝く銀色の星空に煌めく緋色

2話連続更新その①です。

この話を読んでから本編第5話をお読み下さい!



実はモブ役じゃないモブルさん視点のお話です。

 


「それではこれより、試験を開始致します。」



 リデルが試験開始の確認を行う。俺はそれに小さく頷きながら止まらない武者震えにとてつもない高揚感を感じていた。

 そう、先程目の前の嬢ちゃん…ではなく坊主に対して冒険者になる覚悟を問うた。

 ーーー冒険者というのは子供が憧れを抱きやすい。何故なら子供達に読み聞かせる絵本などにはよく勇者や英雄の冒険譚があるからだ。そういった絵本の中では主人公が初めは冒険者で…なんて書き出しのものはごまんとある。このような冒険譚に子供達、特に男なんかはそりゃあ、自分も英雄になるんだ!なんて言って冒険者を目指すだろう。実際、俺もその口さ。俺の生まれは迷宮都市からだいぶ離れた田舎臭い村だったが、親父は冒険者をやってたってのもあって、冒険譚が大好きだった俺が冒険者を目指すって言い出すのに時間なんかかからなかった訳さ。

 だが、現実は甘くねぇ。そんな憧れだけでは冒険者なんてやってられない。冒険者というのは常に死と隣り合わせだということを理解してないとすぐに死んじまう。かくいう俺だって何回死にかけて、何回そういう新人の死を見てきたか…

 …おっと、話が脱線しちまったな。まぁ俺がその坊主に言いたかったことはただの憧れだけで冒険者なんかになんじゃねぇぞっていう一種の老婆心だった。

 だが、次の瞬間に俺が坊主にした問いは全くの愚問であったことを理解したーーー




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 時は少し遡りーーー




「最近は新人冒険者ルーキーになる奴も本当に年少が多くなってきたなぁ。」


 そんな風にぼやきながら、俺はジョッキを仰ぐ。今はまだ朝だが、俺の様に酒を飲んでる奴らは他に大勢いる。何せここはアネスフィア随一の迷宮都市ファタールにある冒険者ギルド本部の受付兼酒場なんだからな。冒険者にはその仕事柄、粗暴な奴らが多い。だから朝から飲みつぶれてるのがいるのはここの日常光景だ。


「ま、俺は元冒険者だから違うがね。」


「ん?いきなりどうしたんだ、モブル。」


 そう言ってきたのは朝っぱらから一緒に飲んでるグラハム・ドルダラ(共犯者)だ。しかも、こいつは迷宮都市の王城に仕える騎士団の一つの白銀騎士団団長サマだ。


「いんや、なーんで騎士団長サマなんてお偉いさんがこんな朝っぱらから飲んでんのかなーって思ってさ。」


「フッ、騎士団長なんて案外暇なもんさ……まぁ、仕事があっても基本的に副団長に任せておけば大抵なんとかなる。」


「俺の周りの奴らはなんでこうも偉い役職のくせして暇なんだ…ってお前の場合ただサボってるだけじゃねぇか。」


 そんな風にグラハムと雑談を肴に既に温くなった麦酒を飲んでいるとギルドの扉が開く音がした。いつもならそんな音には反応すらしなかったんだが、何故かその時だけはつい目を向けてしまった。

 そこには、両開きの扉から射す陽の光でキラキラと輝く銀髪を後ろで簡単に結んであり、シミひとつない白磁の様に透き通った肌は前髪から覗く双眸の深い紅をより一層際立たせている。往来ですれ違ったら誰もが振り向くであろう正真正銘の美少女が立っていた。


「うおっ…見ろよ、すんげー美人。つーか、美少女?」


「こんなむさ苦しい場所に何の用だろ?依頼かな?」


「やばい…可愛すぎてわたしどうにかなっちゃいそう…」


「って、あんた!鼻血出てるわよ!」


 その証拠に周りの連中が嬢ちゃんを見て騒ぎ出す。クエスト掲示板の前で依頼書を選んでた奴も手を止めて見てやがる。

 だが、俺は…いや、俺達はそんな色めき立ってる奴らとは違う理由で嬢ちゃんを見ていた。


「おい。グラハム、あの嬢ちゃんのことどう思う。」


「なんだ、お前。いつから幼女趣味になったんだ?」


「ちげぇーよっ!!ったく…あの嬢ちゃんの身のこなしだよ。オメェ、騎士だろ。そこんとこどうなんだって聞いたんだ。」


「…あぁ、お前の察しの通りだ。彼女はかなりの使い手だろうな。それと体術もそれなりにやれそうだ。」


 やっぱりな。あの無駄のない身のこなしは幾らか訓練をしなきゃできねぇ。


「なら、冒険者登録か…なら俺の出番かね。」


 そう、俺はこの迷宮都市ファタール冒険者ギルド本部の試験官で、新人の適正ランクを計ってやる立場にある。嬢ちゃんは今、リデル(ギルマス)からギルドの規約やらを説明してやってるとこだ。そろそろお呼びがかかるだろ。

 ……って、はぁっ!?男?まじかよ。ほれ見ろ、あのグラハムでさえ阿呆みたいに口開けとるぞ。周りの奴らはあの嬢ちゃん…じゃなくて坊主?の根も葉もない妄想をするのに忙しくて、聞いちゃいないが…っと、お呼びっぽいな。リデルが俺に目配せしたのを確認して、俺は受付カウンターに向かう。


「こちらが試験官のモブル殿です。」


「おう、嬢ちゃん…じゃなかったんだっけな。俺が試験官のモブルだ。よろしくな、坊主……やっぱこの呼び方しっかりこねぇな。」


 そう言って、軽く挨拶する。すると、あっちは「ルシエル・フォンダリアです。よろしくお願いします。」と返してきた。

 …フォンダリアね。その家名は英雄『大賢者』の家系だった気がするが、確かちょうど6年前にその英雄の家系が住んでる町が邪教徒集団の馬鹿共のせいで滅んで、その家系の者や使用人達は町人達を守る為に全滅したって聞いてたが…もしかして……いや、それはこれから戦えば分かるか。

 つーか、声高いな。本当に男か?


「じゃあ、早速試験をやりに行こうか。ギルマス、いつも通り訓練場借りっから、今使用してる奴らの人払い頼むわ。」


「分かりました。それでは暫くお待ちくださいませ。」


 じゃあ、行くかってところで坊主が俺とリデルの事を怪訝そうな顔で見比べてる。どうしたんだ?


「坊主、どうしたそんな顔して…あぁ、もしかしてリデル、お前まだ坊主に自己紹介してねぇだろ?」


 坊主に質問してる途中で、坊主の疑問に見当がついた。リデルの野郎、また自己紹介すんの忘れてんだな。


「あ、確かに。失礼しました、遅ればせながら自己紹介させて頂きます。私はリデル・ラマール、ここのギルドマスターをしています。以後お見知り置きください。」


 ほらな、やっぱりだ。こいつ、昔から変な所は勘が鋭いくせに天然ボケの方がデフォルトの変人なんだよな…あ、そういやこいつもう結構な歳なんだっけか?いや、現役の時からこんなんだわ。

 と、どうでもいい事を考えてると、坊主が不思議そうな顔でギルマスがこんなとこに居ていいのかって事と、俺との関係を聞いてきた。


「俺が若い時…現役張ってた時のパーティメンバーだ。あと、こいつはいつもこんな感じだぞ。」


「あはは、ギルドマスターなんて大層な肩書きを頂いてますが、案外暇ですよ?なのでこうして偶に受付カウンターに出て皆さんがしっかり応対出来ているか確認しているのです。」


 ほらな。グラハムと同じようなこと言ってるよ。坊主も呆けちまった。

 どうでもいい話をしながらギルド裏の訓練場に入り、坊主と向かい合う。


「なんだなんだ、また試験か?」


「わぁ!あの子可愛い!!」


「あんな可憐な嬢ちゃんが試験受けんのか?」


「ちょっと!モブル、そんなか弱い子に傷でもつけたら承知しないからね!」


 また野次馬が集まってきた。毎度試験をやるって言うと直ぐに集まってきやがる。


「悪いな、見せもんでもないんだが毎回言っても直んねぇんだ。まぁ、安心しろ。模擬戦だから武器の刃は潰してある…つっても当たりどころが悪ければ大怪我じゃすまねぇかもしんないが、冒険者ギルド(こんなところ)に来るって事はそんぐらい覚悟してんだろ?」

 

 そう…幾ら少し腕が立つっても死と向き合う覚悟が無ければこの先、生き残れない。俺はもう現役を退いたがそういう新人は何人も見てきた。

 だから、そう問うた。

 しかし、坊主はさも当然という様に


「はい、大丈夫ですよ。そんな事はいいんで始めましょう?」


 そう言うと、その美貌を宛ら慈愛の女神のような微笑みを浮かべる。だが、俺はそんな相貌とは裏腹に並々ならぬ決意を感じた。

 そう、俺はこの時確実に坊主に圧倒されていた。10歳の坊主にこの俺が、だ。


「そ、そうか。なら良いんだ。じゃあそこから獲物を選びな。」


 俺は身体中に武者震いが走るのを感じながら武器が立て掛けられている壁を指差す。坊主は刀身が約1メトルあるロングソードを選んだ。


「それではこれより、試験を開始致します。」


 立会人のリデルが宣言する。俺は剣を抜いて正眼に構える。俺が扱うのは幅広な大剣、ブロードソードだ。華奢な坊主が一撃でも当たったら、いくら刃を潰してるとはいえ、大怪我も免れない。

 それでも坊主はロングソードを鞘に納めたまま左腰に下げ、右半身を前に前傾姿勢で腰を落とす。左手は鞘に、右手は柄を握っている。



「ふぅ……」



 そして、あろうことか目を閉じた。しかし、その構えはどこにも隙はなく、寧ろ下手に動けばやられると直感で理解できる。

 普段はどうしようもないグラハムだが腐っても騎士団長、その剣技は一流そのもの。その奴が見ただけで“できる”と判断した位だ、それにフォンダリアという家名、恐らく魔術もできると思っていた方がいい。これは試験というにはハードなものになるかもしれねぇな。

 この時、俺は年甲斐もなくワクワクしていた。これまでは試験といって相手した奴は中には才能があり強い者もいたが、ほとんどが冒険者に淡い幻想を抱いた甘ちゃんばかりだった。そんなところに見た目は華奢で儚げに見えるが、その纏う空気は強者のそれである新人が現れれば、男として燃えないわけがない。



「始めっ!!」



 だが、試験開始の合図の次の瞬間、俺は驚愕すると共に知る。

 ーーー夜空に輝く星々の如き銀色の中に煌めくあかを見て、自身の認識がどれほど誤っていたのかを。


今回、別視点という事で閑話扱いにしました。

これからもちょくちょく閑話を挟もうと思いますので面白いと感じて下さった方は楽しみにして下さい!!


感想や助言、待ってます!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ