第11話 海の都オーケヌス
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海洋都市オーケヌス。
迷宮都市ファタールから馬車で二週間程北に進んだ場所にある、海に面した大規模都市である。
オーケヌスは海洋都市の名に恥じない高い造船と航海技術を有しており、人族の王国ファタールから最も離れている竜人族の国、アークの故郷のベルカイム竜国との貿易が盛んであり、ベルカイム竜国特有の民族衣装ーーどう見ても着物や甚平ーーや、驚いた事に醤油、味噌等の調味料を主にして行われていた。
と言うか、迷宮都市で醤油とか味噌全然見なかったんだけど。でも甚平っぽいのはアークがいつも来ていたから全く疑問に思っていなかったよ。
前にアークが言っていたけど、やっぱり僕以外にも異世界人はいたんだね。しかも同郷の日本人。
是非とも此処で醤油や味噌を使った料理を食べてたいですねぇ……
馬車に揺られ沢山の郷土料理を思い浮かべ、内心で涎まみれになりながら僕の膝の上に座るハクの獣耳を弄っていると、ふと馬車の窓から僕達の馬車以外にも他の商隊のキャラバンだったり、おそらく貴族でも乗っているのか豪奢な造りの馬車だったりの通りが多くなっていくのが見えた。
そろそろ着くかな、そう思っていると御者をしているアークから声が掛かる。
「見えて来たぞ、海洋都市オーケヌスだ。」
遠目からでもわかる、巨大な白亜の外壁。大規模都市なだけあって中々堅牢そうだ。
そして、その外壁に続く見える長大な馬車の列。
あぁ、あれに並ばなきゃいけないのか……
「見えた」と言う言葉に反応し起きたガレオスも、あの列を見てうんざりした表情になっている。
「まぁ、入るにはもう少し時間が掛かるだろうが。」
そんなアークの言葉にガレオスはもう一度寝に入り、マリアは読書を続ける。そして僕は無気力に溜息を吐き、いつの間にか僕の手から逃れよじ登って首筋に顔を埋めてふがふがしているハクと暇になって後ろから抱きつきハクの真似をしているシルヴィのされるがままになるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
オーケヌスに入る為の大きな門へと続く列に並ぶ事、約一時間。漸く僕達の番が回って来た。
数人の門兵の中の一人がアークに身分を証明出来る物の提示を求めてくる。勿論、馬車の中にいる僕達も身分証として冒険者カードを、アンリはメイドギルドカードを提示し、ハクに関しては仮身分証の発行ーー発行には銀貨一枚、100テラ掛かるーーをお願いする。
「え、S級冒険者様!?しかも、S級パーティ『四神の加護』様方でしたのですか……大変、無礼を……」
「いや、気にするな。唯の一介の冒険者にすぎない。それより他も問題ないか?」
「はっ、B級冒険者殿にメイド殿の身分証も確認致しました。そして獣人族の少女の仮身分証発行ですな。」
そう言って他の門兵に発行の手続きを指示した。本来は仮でも身分証を発行するには、無属性魔術の一つ、上級無魔法審判を行使し、犯罪歴等を確認する必要があるーーけれどこの魔法は穴が無い訳でもなく、簡単な質問等なら問題はないが複雑な質問だとある程度頭が回る者だと幾らでもはぐらかされてしまうらしいーーそうだが、今回はS級冒険者のアーク達の連れと言う事で免除してくれたそうだ。
やっぱり凄いなS級。
「これが仮身分証です。無くされると今度は銀貨5枚で再発行になってしまうので、都市内で何か身分証になる物を早目に調達するのが良いですぞ。」
「うむ、親切にありがとう。」
「いえいえ。では、改めてようこそ!潮香る、海と共にある都市オーケヌスへ!」
門兵さんの言葉を聞き、大きな門を潜ると先ず目に映るのは外壁と同じ白亜のローマ風の建築群。太陽の光で白い建物がより存在感を増している。
あ、そう言えばオーケヌスが北の海に接しているって聞いたからなんとなく寒そうなイメージだったけど、全くそんなことはなかった。寧ろ、今も暖かい日差しに穏やかな天気だ。
今生では小さい頃は外出はしなかったし、記憶が戻った以降も迷宮都市に引き篭もっていたから余り他国の事を知らなかったからな。前世の気候の知識は異世界では通用しない様だ。
とりあえず僕達は奴隷商人の事を報告する為に冒険者ギルドへ向かう。
ギルドへ続く大通りを通る途中、一際大きな風が吹き潮の香りを運んでくる。
前世でも暫く海には行ってないなぁ、海が近くにあるのだから海水浴と洒落込みたい気持ちもあるが残念ながらここら辺はビーチになる様な所はなく、そもそもアリステラには海水浴と言う習慣がない。
海はB級以上の魔物がひしめき合っている場所であり、近寄ろうとしないのだ。この海洋都市オーケヌスは高い航海技術があり魔物縄張りを巧みに避けて行けるからこそ海を渡っての貿易が可能なのである。
そう分かってはいてもいつか海水浴をしたいなぁ、と潮の香りを懐かしく思いながら歩いていたら、目が見えていないので僕が手を引いていたハクが手をちょいちょいと引っ張ってくる。
「ん?どうしたの、ハク。」
「なんか、かぜがしょっぱいです。」
「あ、ハクは海が初めてなのか。」
そう聞くと案の定、首をこてんと傾げている。
「海っていうのは五大大陸を囲んでいる大きな大きな湖、みたいなものかな?その水は塩を含んでいて、この都市は海に接しているから風にその塩の匂いが流れてきたんだよ。ハクは狼だから匂いがキツかったかな?」
獣人族の白狼種である彼女は嗅覚が鋭敏である筈なので、彼女を慮って聞く。
「うぅん、へいきだよ。むしろ、すきかも。」
「そっか、良かった。」
「ねぇ、おにぃちゃん。うみっておっきいの?」
「そうだよ、どうしたの?」
「うんとね、ハク……うみ、みてみたいなぁっておもったの」
「…………」
そうだ、ハクは目が無いんだから海に限らず沢山のものを見てみたい筈だ。
……奴隷紋を消した後、改めて治癒のスペシャリストであるマリアに目を診てもらったが眼球そのものを再生させる事は出来ないと言われた。
神聖魔術である治癒魔法は極めると例え、腕が切断してしまっても切断された腕があれば接合部をくっつけて治癒魔法を行使すれば全くの元通りになる。LVの高い治癒魔法であればある程に後遺症も残らないそうだ。
だから、もしもハクの眼球が手元にあればハクの目は治っていたそうだ。
勿論、僕達はあの周辺をくまなく探したがハクの眼球は無かった。
ハクの視力を戻すにはそれこそ神の奇跡が必要とも言われてしまった……
けれど僕は諦めない。
勝手なのかもしれないけど、僕は彼女を守ると決めた。彼女の人生を支えると。
だから、例え目を治すのに禁術が必要でも、神の奇跡が必要でも僕が何とかしてみせる。
なので僕は彼女に言った。
「今度また海を見に来よう。」
「え、で、でも。」
「ハク殿、主様が其方を助ける時言っていたではないか、ハク殿の眼をどうにかなさると!主様が言ったのだから必ず治る、だから今は眼が治った時の事を楽しみにしていれば良いのだ!」
基本的に僕が話しかけるか、戦闘中でしか話さない柊が突然喋ったのと、その話した内容にハクは唖然とした様子だ。
「ふふ、流石僕の相棒。言いたい事そのままで僕、嬉しい。柊、ありがと!」
僕は心の底からの感謝を伝える為に、僕の腰に下げている彼女を撫りながら言った。
「しょ、しょんな!私にはもったいにゃき言葉でしゅ!」
僕の手の中でカタカタと震えながら、噛み噛みで言う彼女の声音は溢れんばかりの喜色を含んでいた。
そんな柊を微笑ましく思いながら、改めてハクに向き直る。
「そう言う事だから、僕を信じて。まだ何の糸口も見出していないけれど必ず君の眼を取り戻してみせる。」
「っ!は、はい!!」
ハクの涙ぐんで上擦ってしまった返事に満足した僕は思わず彼女を抱っこしてそのまま、少し先を行った所で僕達の様子を見ていたアーク達の方へ走る。
……今気づいたけど、このやり取りを沢山人がいる往来でやってしまった。
あぁ、穴があったら入りたいぃぃぃ…………
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕達はローマ風建築の中で一際大きな建物へと入る。
そう、ここが目的地の冒険者ギルドオーケヌス支部。大規模な都市なだけあって、ギルドも凄く広い。
でも、迷宮都市の方がやっぱり広いな、まぁ本部だし当たり前か。
「すまない、重要な報告がある。ギルドマスターを呼んでくれ。」
アークが代表して受付嬢にギルドカードを見せながら言う。
「え、S級冒険者様!?それに、『剣豪』のアーク・ドラゲニオン様ですか!!?じ、じゃあ若しかして後ろの方々は……」
「そんな事はどうでもいい。早くギルドマスターを呼んでくれないか、緊急の用件なんだ。」
「は、はい!申し訳有りませんでした!!只今、呼んできます!!」
受付嬢は言い終わると同時に跳ねるようにカウンター奥の部屋に向かっていった。
そして、先程の受付嬢の言葉に他の受付嬢や周りにいた冒険者達が騒ぎ出す。
はぁ、やめてくれないかなぁ……突然の事でハクが吃驚してしがみつく力を強めてしまったじゃないか。
あと、どさくさに紛れて、って言うか全然紛れてないけどシルヴィも抱きつかないでよ。アンリはいっつも、僕の後ろに張り付いてるんじゃないかって位の距離でずっといるし。
ガレオスも痺れを切らしたのか、いつの間にか酒場で料理頼んでるし……
この中でまともなのって、アークとマリアと僕位なのでは?あ、ハクはまだ子供なので頭数にはいれてません。
……ってガレオスが頼んだお肉料理が運ばれてくる。やばい、めちゃくちゃ美味しそう。僕も食べに行こうかなぁ……あ、涎が止まんない。
そんな風に僕がガレオスの元にふらふらと行きかけた時。
「待たせて済まなかった。俺がここのギルドマスターのデルバードだ。初めましてだな、『四神の加護』に来てもらえて光栄だ。」
「あぁ、こちらこそ。俺がリーダーのアーク・ドラゲニオンだ。」
そう言って、二人は握手を交わす。
「早速だが、至急伝えたい事がある。」
「おう、とりあえずここでは他の奴らがいる
、中で話そう。ついて来てくれ。」
デルバードさんはそう言うと、カウンターの奥へと向かう。
それに続くアークとマリア。僕は食欲を追いやって、ガレオスを引っ張ってまだ僕に張り付いているシルヴィ、アンリ、ハクと共に急いで付いて行った。
ギルドマスターの執務室らしい部屋に入ってデルバードさんの対面のソファに座る。
と言っても、僕達は大所帯なので他に三脚の椅子を出してもらって、僕は膝にハクを乗せて座った。僕とハク、アンリは椅子だ。
「では、改めて用件を聞こうか。」
そうデルバードさんが切り出すと、アークが古代森林で起こった顛末を話す。
「なるほど……S級冒険者が言うのだ、確かな事なのだろう。用件相分かった、こちらでその奴隷商会を炙り出し検挙しよう。そして、ギルドの魔術遠距離連絡の魔道具を使い、直ぐに本部へ連絡を行い国王陛下に打診し闇市の方も対応して貰おう。」
そう言うと側で控えていた秘書らしき人に指示を出して、魔道具の元へと行かせた。
ギルドには先程も言った魔術遠距離連絡と言う中級無魔法念話を込めた魔道具がそれぞれの支部に配置されていて、どの機関の中でも最速の連絡網が張られているのだ。
だから、とりあえずこれで平気だろう。
「うむ、助かったぞギルドマスター。」
「何、礼には及ばんさ。これを機に裏社会に蔓延る組織を全部潰せれば良いんだがな。」
そう言ったデルバードギルドマスターに僕達は再度礼を言った後、受付でガレオスが古代森林で倒した四腕大熊の素材と他にここに来るまでの魔物の素材を換金してもらい、冒険者ギルドを出た。
「よし、これで今回の件は何とかなるだろう。今度こそ“始まりの神殿”に挑めるな。」
「うっしゃあ!!やっとか、この三日間身体が動かさなくて、暇で暇で仕方なかったぜ!!!!」
アークの言葉に咆哮するが如く声を荒げる、戦闘狂。
まぁ、実際の所僕も早く迷宮に行きたいと言う気持ちはあったので、ガレオスに何か言うつもりはない。
「だが、もう今日中に馬車を走らせる事は出来ないだろう。だから今日は宿を取って、明日の早朝に出発するぞ。」
その言葉に今直ぐにでも行こうとしていたガレオスがつんのめる。
「ふふふ、ガレオスもそんなに急がなくても迷宮は逃げません。今日は明日に備えてゆっくりして英気を養いましょう?」
「そうそう。それにここ、海洋都市オーケヌスの料理は竜国のものもあるから、それを食べるのも良いんじゃないの?」
マリアがガレオスを窘めている間にシルヴィが言った言葉に僕はぴくりと反応する。
「ルル様、ここにはルル様が食べたがっていたショウユやミソなる物を使った料理が沢山あるそうです。既にお店はリーク致しました。」
アンリが僕に囁き掛けてきたことでお腹がぐぅっと鳴る。僕の眼はおそらく爛々と光っているだろう。
よし、決めた。今日は沢山ご飯を食べて、食べまくって明日に備えようそうしよう。
そして僕は食べまくる為に、アンリの案内の元意気揚々と肩にハクを乗っけて大通りを歩くのだった。
その日の夜の宿屋の一室には食べ過ぎて動けなくなった僕がいたのでした……うっぷ。
あ、因みに部屋割りはお金の節約と一部の女性陣の熱い要望でアークとガレオスで二人部屋一室、僕とマリア、シルヴィ、アンリ、ハクで三人部屋となった。
何故、男の僕をそっちに入れて誰も反対しないのか、そしてハクはまだ分かるがシルヴィとアンリは一緒のベッドで寝ようとするな!!
……僕の貞操は何とか守りきりました。
若干、投稿が遅れました。
10分位なので許して下さい……
少しばかり勢いで書いてしまったので、おかしな所があるかもしれません。
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