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第10話 雪の妖精さまはおにぃちゃんっ子

昨日に引き続き投稿が出来て、嬉しいです。

今回、切れが良かったのでちょっと短めですが、どうぞ。

 古代森林で救出した奴隷だった、獣人族の中でも少数民族であった白狼族の少女、ハクは泣き疲れたのか、今は僕の腕の中で穏やかな顔で眠っている。

 何故、僕がこんなに彼女の事を知っているかというと、天慧眼で彼女のステータスを覗いたからだ。



 《ステータス》

 ハク・ルプスヴァイス(8歳)

 Lv6

 種族:獣人族

 称号:


 アビリティ

 ・白銀王の血統(ユニーク):白銀王アルギュロスの先祖返りの証。“意志の強さ”に比例して全ステータス値に大補正、成長限界の突破

 ・平穏を望む者:自身を含む、自身のパーティへ敵対の意思を持つ者に特攻(筋力・敏捷力・知力・判断力を2倍)、防衛戦時に体力・耐久力に大補正

 ・二属性魔術:水・無属性系統魔法取得


 スキル

 ・体術(Lv1/10)

 ・生活魔法

 ・水魔法(Lv2/10)

 ・無魔法(Lv1/10)


 状態異常

 ・身体欠損(両目)



 ハク・ルプスヴァイス、これが彼女の名前。種族は獣人族で、犬耳に尻尾があるから犬人族だろうか?

 他にもアビリティに気になるものがあるが、それよりもハクを安全な場所で充分に休ませなければ。


「おい、やっぱあの男は奴隷商人だったらしいぞ。」


 僕がハクを所謂お姫様抱っこで馬車の中から出て来ると、マリアから事情を聞いて四腕大熊クワトロブラソベアーに食われていた男の死体を漁っていたガレオスが血に塗れた紙を手にしながら言った。


「この紙は奴隷の売買契約書だ。『獣人族の中でも少数民族の白狼族でユニーク持ち』って書いてんな。」


 ハクは犬人族じゃなくて狼らしい。“ユニーク持ち”って言うのはさっき見た『白銀王の血統』かな。

 その紙には海洋都市オーセヌスに店を構えているらしい奴隷商人の名前と、迷宮都市で行われていたらしい闇市でハクを出品する予定だった旨が書いてあった。


「こうなると、一度ギルドに報告してこの奴隷商人の店を取押え、その闇市と言う事に関しても城へ至急連絡してもらった方がいいですね。」


「あぁ、迷宮攻略は延期になっちまうがな……取り敢えず野営地に戻るか。」


 話は纏まり、野営地で待機しているアーク達にも事情を伝えるのと、ハクを休ませる為にも僕達は古代森林の外の野営地へ戻るのだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「なるほど、事情は分かった。それなら此処から近い海洋都市オーセヌスにそのまま向かおう。そしてそこの支部ギルドに報告としよう。それと、シルヴィナ!」


「何よ!今、ハクちゃんのお洋服作る為の採寸で忙しいの!!」


 アークの呼び掛けに叫び返すシルヴィ。

 シルヴィは僕がハクを連れ帰った途端、目を変えて、ハクの事を根掘り葉掘り聞いてきた。そして、事情を話すと「じゃあ、ルルの妹ね!髪色も似てるし!!」と言って、ならこんなお粗末な服じゃなくて可愛い服を着せないと、と意気込み何処に隠し持っていたのか分からない裁縫道具と数種類の布を出し、今に至るのであった。

 そんなシルヴィに溜息をつきつつアークは続ける。


「シルヴィナには使い魔で宿屋に帰るのが大分遅れる事を伝えてくれ。俺達は幾ら旅が延長になっても構わないが、アンリエラもいるんだ、ルドールとティティが心配するだろう。」


「あ、なるほど。そう言う事なら任せて!」


「すみません、気を遣わせてしまって……」


「だいじょぶ、だいじょぶ〜この位ちょちょいのちょいだもん!」


 アンリがアークとシルヴィに向かって頭を下げる。

 そして、シルヴィは服飾作業を止めて軽く魔力を練り上げ、上級無魔法使い魔作成を行使する。

 特異な魔法が多い無属性魔術の中でも異彩を放つ魔法が“使い魔作成”だ。

 これは自身の魔力を生物の形に象り、情報を記憶させ伝達すると言うものだ。言うだけなら簡単そうに聞こえるが、先ず自身の魔力を一定の形に定着させ、遠距離へ飛ばすと言う高度な魔力制御を強いられる。

 更にその定着させた魔力に伝えたい情報の記憶を浸透させ、前世で言う所の疑似人工知能の様なものに仕立て上げるのだ。

 上級無魔法の中でも技術が相当いる魔法で、多くの無属性魔術師は生物の形に象らせて出来上がった使い魔に手紙を持たせると言った簡易的な方法で済ませている程らしい。

 シルヴィはそれをちょちょいのちょいで出来ちゃう様だ。凄いよね、因みに僕はシルヴィみたいにはまだ出来てないです。


「……ぅん……」


「あ、目が覚めたかな?」


 シルヴィが小鳥型使い魔を飛ばして、服飾作業に没頭し出した頃にハクが目覚めた。


「うぅん……っ!おにぃちゃん、おにぃちゃん、どこ?」


「ここにいるよ、ハク。」


 目覚めた途端またパニック状態に陥りかけたが、僕が声を掛けると安心した様に顔を緩ませてしがみついてきた。

 そんなハクの頭をよしよしと撫でていると。


「やったー!ハクちゃんのお洋服出来たー!!」


「っ!?だ、だれ?」


 シルヴィの声に大きく震え、怯えた様子で僕にしがみつく力を強めながら誰何した。

 怯えたハクを安心させる為にみんなを紹介しないと。

 そう思い、僕はアーク達を一人一人紹介していった。


「みんな、血は繋がっていないけど僕の大事な家族なんだ。だから、ハクを傷つけたりしないから安心して。寧ろ、僕がハクの家族になるんだから、みんなハクの家族だよ!」


「そうだな、ルルがハクの家族になるのならば俺達の子供同然だ。」


「はい、だから安心して下さいね。」


「ガハハハハ!そもそも獣人族は皆、家族の様なものだからな、気にするな!!」


「うんうん、ハクちゃん可愛いし、ルルとお似合いの兄妹ね!」


「ルル様の妹様となるのならば、このメイドたる私もしっかりと面倒みないといけませんね。」


「はい、主様の家族が増える事は良い事だと思います!」


「うぅ……みんな、ひっく、ありあとぉ……」


 改めて自己紹介を終え、ハクにしっかりともう奴隷ではない事と、みんなが家族である事を伝えるとハクはぐずりながらも僕達に感謝を述べてくれた。


「よーし、じゃあ早速ハクちゃんの為に作ったお洋服を着てもらおっかな!」


「ぇ?」


「それは良い提案です、私も手伝いましょう!あ、ついでにお身体も洗っちゃいましょう。」


「それでは、僭越ながら私も手伝わせて頂きます、シルヴィナ様、マリア様。」


「え?えぅ……」


 口々に言う女性陣の尋常では無い謎の威圧感を感じ取ったのか、再び怯え始めるハク。

 うん、そんな手をわきわきしながらにじり寄って着たら誰でも怖がるよ。ハク、見えてないんだけどさ。


「はーい、ハクちゃん行きますよー。」


「にゃーっ!おにぃちゃんも、おにぃちゃんもーっ!」


 ハクがジタバタと無駄な抵抗をするが、それを意に介さず連行するシルヴィ。

 なんか、「ルル様なら、別に着いてきても良いのでは?」とか聞こえた気がするけど気の所為だから全力で無視する。マリアが突っ込んで止めてくれるだろう、たぶん。

 それよりも少し、アークとガレオスにハクがいない間に聞きたいことがあった。


「ねぇ、アーク、ガレオス。さっきハクのステータスを覗いてみたんだけど、“白銀王”って何か知ってる?」


「“白銀王”だぁ?白銀王って言ったら百獣王国の何代か前の王だぞ。」


 ガレオスが言うには百獣王国は幾多もの部落で構成されている為、基本は世襲だが他の部落から不満があれば武闘大会を行い、優勝した力ある者が王になるそうだ。

 基本的に獣人族は血の気が多い者が多いので、結局殆ど毎回武闘大会を開催しているらしいが。

 それで、ここ何代かはずっとガレオスの部落、獅子族が百獣王国を王になっているがその前は白狼族が王になっていたらしく、その中でも最も力があり、民達から支持を受けていたのが白銀王アルギュロスだったそうだ。


「ふむ、今ここでその話を聞くと言うことはハクのステータスに何かあったのか?」


「……うん、実はハクのアビリティ欄にユニーク『白銀王の血統』と言うのがあって、白銀王アルギュロスの先祖返りの証らしいんだ。」


「はぁっ!?あのちみっこいのがか!」


「いや、そう言うことならば色々納得がいく。恐らく、何らかアビリティかスキルでそのアビリティを調べ、ハクを狙ったのだろう。それで抵抗したハクの家族、集落を殲滅したのか……少々、いや、大分おざなりな対応だな。」


「だな、この事を他の白狼族の集落の奴らが聞いたらただじゃおかねぇだろうな。ま、そこんとこの事情も含めてギルドに報告しときゃあ、何とかすんだろギルドが。」


「て、適当だなぁ。」


 僕はそう言ったが、実際に部族間等の細かい対処は個人で出来る事は限られてしまうのは理解しているので一刻も早くオーケヌスに行って報告する必要がある。

 でも、今日はもう日が暮れてしまっているので明日の朝早くに向かう事になるかな。


「お、おにぃちゃん。」


 着替えが終わったのかハクの声が後ろから聞こえたので、其方を振り向き、固まる。

 其処には先程の姿よりも見違えたハクがいた。


 手入れがされていなくて燻んでいた長く豊かな白髪は綺麗に洗われ、今は大きな白いリボンを付けてさらさらと腰まで後ろに靡かせている。その長髪よりも白く、誰も踏み入れていない新雪の様な柔肌の汚れも綺麗さっぱりなくなっていた。

 着ている服もハクの全体的な白さを際立たせる為か、黒をメインに所々に白が配色されているのプリンセスドレス。その上からふわふわと肌触りの良さそうな少し大きめなケープコート。

 ……少し気障っぽいかもしれないが、雪の妖精のようだ、と素直に思った。てゆーか、この短時間でこれだけの物を裁縫してみせたシルヴィ、凄いな。


「どぉ……なのかな?わたし、めがみえないから……にあってるかな、おにぃちゃん?」


「うん、物凄く似合ってるよ、ハク。妖精さんみたいで可愛い。」


 そう言うと、ハクはその色白の顔を真っ赤に染めて俯き、よたよたと此方に歩いてくる。そのまま僕の元に辿り着くと、僕の胸に飛びついて顔を隠すように埋める。そんなに恥ずかしかったかな、寧ろ今のセリフを言った僕が恥ずかしくて穴があったら入りたい状態なんだけど。

 シルヴィがこっちをニヤニヤと見て、マリアとアンリが微笑ましそうに見てくるのがそれに拍車を掛けている。


「明日は予定を変更し、オーケヌスに向かい一刻も早く報告をせねばならないから、そろそろ見張りを立てつつ寝るか。」


 僕らのじゃれあいを幾分か見た後、アークがそう言ってきたので僕はこの恥ずかしい状況から抜け出す為、便乗する。


「そうだね、ハクも今日は色々あって疲れてるよね?」


「……」


 未だ僕にしがみついてるハクに問いかけるが、応答がない。


「ハク?」


「……くんかくんか。」


「ん?」


「くんかくんか、ふがふが。」


「うわぁっ!?何、そんなに必死に匂い嗅いでんの!?」


 僕は驚きすぎて、思わずハクを引っぺがす。


「やー……おにぃちゃんの匂ぃ……」


「だから何故に!?」


「おにぃちゃん、あったかぽかぽかお日様の匂いする……すき。」


「あ〜、分かるぅ!ルル、抱きつくと凄いいい匂いするよね!」


「私も分かります、なんというか安心する匂いと言うか……」


「ルル様の匂いは一級品のポーションより効果がありますからね。」


「なんと!?主様の匂いにはそんな凄い効果が、流石主様です!」


「いや、無いからね!?それとそんなに人の匂いを連呼しないで、凄い恥ずかしいから!!」


 何故かいつの間に、『ルシエルが如何に素晴らしいか〜六年前から現在に至るまで〜』と言う決して本人の前で話すようなことじゃ無い談義をハクにし始めた。それを懐かしむ様にアークやガレオスまで参戦し、時に笑い、時に懐かしむ、そんな和気藹々とした雰囲気になった。

 ……その話の中心の僕はその雰囲気に耐えられず、呻き悶えながら地面を転げ回ったんですが、何か?


 そうした新たな家族を加えての暖かく、和やかな団欒は夜が更けるまで続いたのだった。

ハクたそ、かわえぇ……あまえんぼです。

服装いめーじは白レンです。気になる方はググってね。

ほのぼの回は書いていてほっこりします。

次回投稿は6月11日(日)20時予定です。


感想や評価等お待ちしてます(੭ुㅎ.ㅎ)੭ु⁾⁾

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