爵位ゲットだぜ!泣 (Ⅳ)
結局、報告書と矛盾の無い供述や、ユーリアの態度を見て理性では納得したが感情がどうしても納得しないラムード老の求めにより郊外の馬場で魔導戦車のデモンストレーションが行われた。
弾代などの消耗品の費用は主催者もち、公務(出勤)扱いにするというピグリルさんの約束のもとこの日は車長であるテルトと、装填手のフルーもそろっていた。。
まず魔道エンジンの爆音を響かせて、軍馬と同じ速度で馬場を疾駆する全力運転のデモンストレーションのあと、砲撃がギャラリーの前で実演される。
もうもうと上がる土煙の中金属の塊とは思えない速度で疾駆する姿を見て、ギャラリーの全員が土煙に見るからに高級そうな服が汚れるのもかまわず唖然としている。
それから主砲の実弾射撃のデモンストレーションに移る。
【カッ!!】
関係者の目の前で砲口から火焔が吹き上がったと思う刹那、魔法の有効射程外はるか先からプレートメイルよりも何倍も分厚いミスリルの鋼板がたやすく撃ち抜かれ大きな破孔が生じる。
【カッ!!】
続く試験ではマグヌスさんから提供された人の背丈のみ倍ほどもある黒曜石のような硬質な体でできた試作品の戦闘用ゴーレムが文字通り爆散、四散。
ラムード老をはじめ懐疑的だった者たちも戦慄とともにユーリアたちがあの冥府の番人を打ち破った事を認めざるを得なかった。
ちなみにラムード老は、ミスリルの鋼板を打ち抜いたあたりから体をわなわなと振るわせはじめ、目の前で戦闘用ゴーレムが爆散した瞬間に奇声を発し、自分が撃ち抜かれたかのように顔を真っ青にして昏倒した。
当然デモンストレーションのあとでこの魔道戦車の仕組みについての質問が相次いだが、肝心なところは全て曖昧にされるか全く出鱈目の情報がテルトにより吹き込まれる。
8.8 cm Kwk 36L/56魔導砲は『爆裂系呪文によって砲弾を打ち出す』と言う、原理の一部のみが故意に説明される。
魔導エンジンは『再現不可能な古代エルフ文明の失われし技術』というそれ以上は誰も追及のしようがないトンデモ設定で済まされたがエルフの存在自体が人間にとって未知のためか、それ以上追求しようとするものはいなかった。
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さて、この魔導戦車の圧倒的な力を見せつけられて戦慄したのは王国の中枢にある権力者たちである。
ロームやラムードをはじめとする権力者たちはこの強力すぎる個人所有の兵器をどうするかと言う事で喧々諤々の議論を戦わせることになった。
最初は王国に強力な魔導兵器が誕生したことを単純に喜ぶ者達もいたが、次第に彼らも不安になってきた。
なぜならばこの兵器が帰属するのはテルトと言う一個人、いや一エルフの所有物であるというのであるということに思い至ったからである。
この魔導兵器は魔術学院の所有物でもなければ、製作者であるマグヌス氏のものでもない、勿論御三家のものでもなく、王家のモノではない。
人間相手であれば接収や徴発も考えたかもしれないが、王国の人々にとってエルフとは尊い種族であり、大森林に結界を張って暮らすエルフとは半神のような存在である。
その信仰心にも似た人々の視線を集めているテルトと揉め事を起こすのはどう考えても悪手だ。
第一製作を請け負った一般にはエルフと不仲と言われるドワーフのマグヌス氏は、
『テルト達3人の手から離れてしまえばタダの粗大ゴミ』
と断言するのだから、強硬な手段によって手中にしたとして、何かメリットがあるとは思われなかった。
エルフのロストテクノロジーを唯一運用可能な鍵がテルトである以上彼女の協力が得られなければ何の意味もない。
さらに、調べが進むにつれテルトと言うエルフ自身の存在も冗談としか思えないものだという事を彼らも理解する。
肩書だけ見れば、名誉騎士であるユーリア王都審査官の部下である補佐官の一員であり彼の部下だ。
いままでこの王都に『テルトと言うエルフがいる』、と言う事を知らない者はいなかった。
だが権力者たちにとって地位も権力もないテルトは単なる『王都に住み着き、魔法の才はあるのに補佐官職に甘んじている変わり者のエルフ』という認識しかなく、まともに能力や人物について知ろうとはしなかったのである。
補佐官職の傍らナスネル家からその絵の才能を買われて『ウキヨエ』絵師、工房『ホクサイ』の工房長としての肩書きも持っているが、彼らにとって問題なのはそこではない。
『竜眼』の情報によれば4元素すべての魔法を上級まで使いこなし、公には否定されているものの、違法奴隷の一件では上位精霊であるエフリートまで使役する光景を多くの人々が目の当たりにしたといって憚らない。
4元素どころか一元素ですら上級まで行使できるのは魔術師の中の一握りの存在だけであり、4元素すべてとなると王国にもラムードをはじめ片手ほどしかいない。
ましてや上位精霊を使役する人間など伝説の中だけの存在であり、王国にはおろか周辺諸国を探しても上位精霊を使役できるような人間はいない。
そんな存在はもはや神話か英雄譚の領域である。
また、王国に来る前までの足取りは全てが解明されたわけではないが、王国へ来訪する以前にはリタ王国におり、そこでは古代都市の迷宮を踏破したと言われている。
そこで一体ごとが強力な力を持つミノタウロスやマンティコアなどの本来であれば討伐に騎士団規模での戦力が必要な魔物たちを複合魔法で殲滅したともエフリートを服従させたともいわれているのだ。
「なんだこれは? 狂人の戯言か?」
「話半分としても、しかし・・・・。」
口々に集まった面々が戸惑いを口にする。
正直ここまで来ると冗談としか思えないレベルだ。
自分たちと同じ人間がそう宣ったとしても一笑に付していたろうし、騙りだとしか思えない。
どこまでが本当でどこからが嘘なのかは判然としないが、話半分としてもある意味彼女一人でも魔道戦車に匹敵しそうな戦力を秘めた存在に喧嘩を売って良いわけがなかった。
彼女の魔道戦車(ティ―ガー)に対する偏愛ぶりは既に巷でもよく知られており、暇さえあれば厩舎を改造した車庫に入り浸っているらしい。
いつもはなかなか仕上げてこない下絵もティーガーをモチーフにしてよいとなると自分から仕上げてくるなど露骨な戦車愛を見せているという。
「もし、そんな彼女から偏愛する魔道戦車を奪ったら・・・。」
誰かが発したその言葉の先を想像して、関係者の間に等しく悪寒が走る。
「提案、平和的手段、且つ融和的な態度で臨むべきだ。 かのエルフの半神は従える能わず。」
「「「賛成だ。」」」
ロームが発した声に全員が深く頷き賛成の意を示す。
「しかし、どうやって取り込む・・・いや、友好関係を今後も維持していくかが問題だ。」
もしテルトに魔道戦車ごと国外へ移住されでもしては一大事である。
『戦略兵器に乗った戦略兵器』が国外へ流出するなど悪夢以外の何物でもない。
「俗な考えじゃが、地位や名誉で縛る、と言うのはどうじゃろうか?」
ラムードの言葉に何人かが頷くが、ロームは渋い表情である。
「しかし竜眼も資料によると、ナスネル家から再三名誉騎士などの内示があったようだがことごとく辞退しているようだぞ。 そんな人物が今さら地位や名誉を求めるとは思えないのだが?」
「「「・・・。」」」
場に再び重い沈黙が流れるがそこへロームが自分の投げかけた言葉を取り繕うように声を励ます。
「ま、まぁしかしテルト殿が補佐官職に甘んじてまでユーリア審査官の元にいるという事はそれなりの理由があるはず、そうではないか?」
「つまり、男女の仲と言う事かね?」
これが美男美女の取り合わせであればローグも確信をもって同意できたのであろうが、せいぜい十人並みのユーリアの顔を思い出したときローグはどうしても安易に首を縦に振ることが出来なかった。
冷静に考えれば、フルーも獣人と言う人間よりも肉体的な才能に優れ、エルフと同じく排他的な種族でありながら同じく補佐官の身分に甘んじていることにも思考が及んだだろうし、そう考えれば男女の仲ではなくもっと別の何かがこの3人を引き寄せていると考えることが出来たかもしれない。
しかしかれらはいままさに『戦車ショック』と言ってもよい精神状態であり、強烈すぎるインンパクトを放つその魔道具と所有者に目を奪われて完全にもう一人の補佐官の存在は思考の端に追いやられていた。
「う、うむ。、私もそこまでは断言できないがどうもそれも違う気がするな・・・。まぁいずれにせよユーリア審査官がいることがテルト殿が王都に身を置く動機づけになっていることは確か。 であればナスネル家がやってきたようにユーリア殿と王国の権威との結びつきを強めて間接的にテルト殿と王国の関係を強固なものにするのが最善ではないかな?」
「賛成!」
「異議なし!」
「どこか適当な領地を見繕って貴族にでもしてしまおう!」
「そーだ! それが良い、名案だ!」
参加者の口から次々に賛意を示す言葉があがる。
それを聞いたローグは全員の言葉を引き取る様に言う。
「ではナスネル家と調整のうえ、リジュン防衛の恩賞として適当と思われる領地、及び男爵位を与えると言う事にしよう。」
ローグのその言葉に承認を与えるように拍手が響く。
ことほど左様にユーリアは王国の権力者のみなさんの妥協と、安全保障政策の一環としてめでたく、別に欲しくない男爵位とそれに伴う領地を与えられる事になったのであった。
ひとまず方針を決して精神的な重荷がなくなり、安堵の息を吐いた面々であった。
が、後日マグヌス工房から回ってきた鉄鋼弾二発分の請求書を前に再び費用の分担を巡って喧々諤々の議論、というか醜い押し付けあいをすることになるのだが。
因みにフルーに対する恩賞は完全に忘れ去られていたので、マクスが当主のクライバ―・ナスネルにかけ合って、自由騎士の称号を新設し、テルト共々その称号を与える一文を潜り込ませたのであった。
「おおっ! 自由騎士! 自由の騎士かぁ=! なんかわからんけどかっこええやん! 」
「「まったく・・・。」」
後に『とりあえずツバつけとこうという奴にはコレ』と王侯貴族の間でいわれる事になる、『自由騎士』。
ユーリアとテルトの嘆息をよそに新しく設けられた白い兜の徽章と副賞の金一封を手に、フルーだけが無邪気に喜んだのは言うまでもない。
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