爵位ゲットだぜ!泣 (Ⅲ)
「おぉ! 覚えていてくれたか! ユーリア殿の噂はかねがねうかがっている。私も会えてうれしく思う。」
ユーリアが遠慮がちに問いかけるると偉丈夫の騎士の方、ボッフェン家の現当主ロームは破願して、親しげにユーリアに呼びかけた。
「こちらこそ仰いできて光栄です閣下。」
「よいよい、礼は不要だ。 非公式な場なのだから。さぁ掛けてくれたまえ。」
跪こうとするユーリアを押しとどめるようにヒラヒラと鷹揚に手を振りながら言うと、自分も椅子にどっかりと腰かける。
ユーリアはチラリとラムードに目を向けるとその皺に隠れた奥の瞳と目が合ったような気がした。
「うむ、はよぉ二人とも座るがよい。 立っていては話も出来ん。」
穏やかで、年齢のわりにしっかりとしたハリのある声が同じくユーリア達に告げる。
先ほどから沈黙を保っていたが、どうやらグイグイ押しまくるロームの勢いに押されて口を挟むタイミングを逸していただけのようである。
「では、お言葉に甘えて。」
「し、失礼します・・・。」
二人が腰かけるのを見計らってラムードが口を開く、
「まずは急な呼びだてをして済まなかった。 実は今回ユーリア君を呼びだしたのはほかでもない、この資料の件について聞きたいことがあってきてもらったのじゃ。これは先日の利潤周辺における『小競り合い』について纏められた『竜眼』からの報告書。魔術学院ではワシをはじめとする一握りの高みにある魔術師。軍でも騎士団長クラス以上の者しか閲覧の許されない極秘の資料じゃ。」
そう言いながら、纏めて冊子のように綴じられた羊皮紙の束をユーリアの元へ押しやる。
「はぁ・・・。」
「リジュンでの事件自体は一月以上前の話しじゃが、調査に意外に時間がかったようでな。つい先日ワシ等の手元に届いたというわけじゃ。」
いまいち内容が呑み込めず、差し出された冊子を手に取ってみる。
そこには『リジュン防衛戦と冥府の番人についての報告』
と言う簡素な表題が付けられていた。
焼印でナスネル家の紋章が押されているがそれ以外は実用重視のごく質素な見た目だ。
「? 冥府の番人、ですか・・・?」
耳慣れない響きの単語を口にしたユーリアに目の前の二人は深く頷いていた。
「左様。」
ラムードは一言だけ重厚な口調で言うと、それ以上何かをいう気配はない。
「「「・・・・。」」」
(えっ? 説明おわりっ? 何にもわからないんですけどーっ!? )
応接室には沈黙が流れ、ラムードも、ロームも
『そうだよキミ、「アレ」だよ、アレ!』
という顔でこちらを見ているが、ユーリアには何の事だかさっぱりわからない。
横にいるピグリルさんにも視線を送るが、
『ささっ! 早くご説明しなさい!』
という風に、緊張の汗をにじませた顔を引きつった笑みで歪めているだけで、何の役にも立ちそうに無い。
(何なんだよー。ぜんぜんっわかんないぞー。)
仕方が無いので、二人の意図を探るべく探りを入れてみることにした。
「あ、あのー。失礼ですが、お二方の言うその、冥府の番人とやらは一体なんのでしょうか?」
おそるおそる問いかけるユーリアに、皺の奥に隠れていたはずのラムードの瞳が大きく見開かれる。
「なにぃ?! どういう意味じゃ!?」
嘘や誤魔化しは許さないとでも言うようなオーラーをバリバリ感じさせるラムードの鋭い視線にタジタジになりながらも仕方なく言葉を続ける。
「あっ、はい。エーと、えーっと。話が見えないというかなんというか。・・・そもそもその、冥府の番人って何ですか?」
その言葉を聴いて、ロームは腕を組んだまま、ラムードは髭をしごいていた手を止め固まると、首だけを横に振ってお互いの顔を見合わせていた。
そして数瞬ののち二人超大型新人(悪い意味で)を迎えた現場の教育担当のような顔でユーリアを見つめててくる。
(えっ、なにその目っ?! なんか不味い事言った?! なんか知って当たり前な常識なのそれっ?!)
「あっ、あの、えと・・・・?」
言葉を捜すユーリアのあたふたした様子に何を納得したのか二人とも悩ましげに首を振るとロームが口を開く。
「ユーリア君、リジュンの防衛線でキミ達が魔導・・・、そう魔導戦車を操って倒した敵がいるな?」
「え、えぇ。 あの骨の鎧のような外郭に覆われた巨人の事ですよね? はい、確かに私たちの魔導戦車でたおしました。ですが、それが何か?」
平坦なトーンで言うユーリアの口調になぜかロームは若干鼻白み、ラムードはプルプルと震えているが、ユーリアには当然そのリアクションの意味がわからない。
隣では眉間に深く皺が刻み込まれるほど眉根を寄せ、これ以上ないほど目を見開いた不気味な形相の上司がユーリアの横顔を凝視していたが幸い凝視されている本人はそれに気づいていないようだ。
「う、うむ。 あの巨人こそがその冥府の番人なのだが・・・。やはり君たちはそうと知らずに戦いを挑んだ、とそういうわけだな?」
「あー。・・・なるほど、そういうことなんですねー。そうですね、初耳ですが・・・。えっ?! もしかして倒してはいけなかったのでしょうか? ハッ?! 実は知的なモンスターで話し合いによって解決できる存在だったとか、そういうわけですか、閣下?!」
前世から引きずっている平和脳のせいかとんでもない勘違いを口走るユーリアに、小刻みに震えていたラムードの絶叫が迸る。
「んなわけがあるかぁあああ!! このたわけめぇえええ!! あやつは、あの冥府の番人は冥府より高度な死霊系の召喚魔術によってのみ呼び出す事の可能な化け物じゃぞ?! 死を言祝ぎ、血を浴び、魂を喰らうことに喜悦を感じる奴等に話し合いの余地なぞあるかあぁあ嗚呼!!」
絶叫しながら立ち上がり、手にした杖で応接室の床をガンガンとうちつけるラームドだがやはりその見るからにインドアな風貌と年齢からしてあまり体力はないらしく、叫び終わるとぜぇぜぇと肩で息をしていた。
因みにピグリルはユーリアに向けた視線をはずし、ラムード老・・・では無く、老人の杖で容赦なく打ち据えられた床を気遣わしげに眺めている。つくづく苦労人である。
「ま、まぁ、まぁ。 落ちつかれよ、ラムード老。 ユーリア殿は何も知らぬようだからな・・・恐ろしいことに。」
いきなりのこの国随一の魔術師の狂態に若干引き気味になりながらも、ラムードの背に手を伸ばし、気遣わしげにさする。
ラムードも言いたいことを言って少し落ち着いたのか椅子に座りなおすと、背もたれに体を預けるように寄りかかるように疲れた様子でユーリアに向き直った。
「間違いじゃ、何かの間違いに決まっておる・・・。」
ただ虚ろな目でブツブツと呟き始めたのでこれはこれで怖いが。
「あ、あのー、すみません、なんと言うか・・・。私のせいで興奮させてしまったようで。」
「いや、かまわない。 少々、いやずいぶん発想は突拍子も無いものだったが別に謝罪する類のことではない。こちらこそいきなり呼びつけてぶしつけな質問をしてすまなかったな。」
ユーリアはあわてて謝罪するが、ロームは苦笑して応じる。
「い、いえ。 しかし、それほどのものだったのですね、あの巨人は。」
「まぁ、表向き巨大ゴーレムの一種、ということになっているからな。」
「えぇ、巷ではそのように言われていましたから私もてっきり・・・。」
「あえて国民には知らせぬようにしているのだ。聖竜教にまつわる英雄譚の中に冥府の裂け目から現われた巨人と聖竜の加護を受けた騎士たちの戦いがあることは知っているだろう?」
「えっ? い、いえ、審査官の試験では神話の類はでないとローグさ・・・教えを請うた師にに言われたので、その辺はあんまり・・・。」
「・・・そうか、それなりに有名な話なのだがな。まぁ、とにかくその中の冥府の裂け目から現われた巨人というのがユーリア君たちが倒したという冥府の番人なのだ。それが辺境とはいえあのような場所に現われたなどとなると少なからず民心は動揺するだろうからな。 リタなど周辺諸国との通商にも影響が出かねないのでな。」
「えっ・・・、うえっ!?」
「もちろん伝説には冥府の番人は冥府からの軍勢の尖兵のように描かれており、他にも強大な力を持つ魔物や死霊の類は数多い。だが、その冥府の番人でさえ騎士団レベルの規模の軍勢か、上級魔術を使える複数の精鋭魔術師がいなければ対処できない存在だ。」
「・・・。」
「どうかな? ラムード老の驚きも納得がいこうというものだろう?」
「え、えぇ・・・。理解しました。 無知ですみません・・・。」
「いや、聖竜教を信仰するものなら必ず知っている類の話なのでな。む!そうか、君のお父君は元傭兵で今は腕の良い鍛冶師だったか? ならば精霊信仰や、戦神の信仰でということもあるわけか、いやいや、これは失念だった。」
「いっ、いえ! お気になさらず!」
軽くとはいえ謝罪のようなものを口にするロームにユーリアのほうが慌てる。それにしても家族の情報まで仕入れているとは。
普段から人の上にたつ者としてのロームなりの人身掌握術なのか、それだけ注目されている人物なのか、自分自身で判断がつきかねるユーリアであった。
(特に信仰してる神様なんていません。 とかいったらまた叫ばれそうだからやめておこう・・・。)
ガリアは聖竜王国の名を冠しているとおり、王族や貴族、騎士階級には聖竜教を信仰する人々が多く、民衆も少なくない人々が聖竜教の信者だが、他宗教には寛容である。
だがそんな中でもユーリアのような前世的感覚の『無宗教』な人と言うのは珍しい。
寛容というのはあくまでも
『みんな(神様が)違ってみんないい』
と言う話なのであり、
『そもそも神様なんているの?いるとしても別に―。』
という無関心、無頓着な人間はまずいないので、かなり奇異な目で見られる事疑いない。
そんなわけで普段宗旨を云々されることは無いのだが、これ以上余計な『燃料』を投下するのはやめておこうとユーリアはそっと決意するのであった。
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