爵位ゲットだぜ!泣 (Ⅰ)
ここは王宮の黄の間、静寂を保ったその中に儀典官の声が響き渡った。
「ユーリア・アシュール殿!」
「ほひっ!」
投げかけられた声に、自分の基準から言うと明らかに装飾過剰な白亜の鎧が身震いに合わせてカチャリと音を立てる。
(しまった! 声裏返ったっ!)
ユーリアは内心狼狽えるが、勿論それを笑う者など誰もいない。
ユーリアを快く思っていない一部の『伝統ある貴族』や『代々の騎士の家柄』と言う事だけを己の存在証明として誇示したがる者も少なからずいるはずだが、モナド国王の前で自ら進んで自分の醜聞を広める趣味のある者はいないようだった。
ユーリアは緊張のあまり裏返った声に身を縮こまらせたくなる思いを抑え、玉座に待つモナド国王の元へとゆっくりと歩み寄った。
そして上司のピグリルさんに教わった通り、ややぎこちないが中々堂々とした所作で玉座への階が始まる手前のあたりで歩みを止めると平伏し言葉を待つ。
静寂の中、衣擦れと羊皮紙の巻物を広げる微かな音が聞こえ、威厳のある声が広間に響く。
「汝、ユーリア・アシュールに男爵の地位を与え、領地としてペントーナの地を与える。」
「・・・はっ、陛下の御厚情感謝の念に堪えません。より一層の忠義を尽くすことをお誓いいたします。」
ピグリル仕込みの完璧な作法に則って滞りなく口上を述べたユーリアはの胸中は激しく荒れていた。
(どうしてだ! 一体どうしてこうなったっ?!)
それは今から一週間ほど前、テルトがサイン会を行っていたあの日に遡る。
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「はい! 問題ありませんよー。 ではモルガンさん良い滞在を!」
証明版に通関の証明を魔法的に刻みながらユーリアは満面の笑みで商人のモルガンに預かっていた証明版を手渡す。
「あぁ・・・ありがとうございます。」
懐にしまいながらモルガンは王国の中級官吏らしくないその態度に若干の戸惑いを見せていた。
王都の審査官を務めるような中級官吏と言えば、威厳を保つためと思っているかはわからないが尊大な態度をとる者も少なくなく、下手をするとへりくだっているととられかねないユーリアのような振る舞いは好印象を通り越して不可解であった。
高級料亭や、色街、高級な宿屋などの一部の例外を除き、サービス業において『サービス精神』と言うものの欠如が著しいこの世界では無理もない事である。
元々彼は『お・も・て・な・し』の国に生きていたいう前世の記憶に対して妙な自負を抱いており、普段からサービス精神を発揮することにやぶさかではないのだが、この日は普段にも増してそれに磨きがかかっていた。
(それとも平民の出ながら名誉騎士の称号を賜っている人物と言うのはやはりそれだけ好人物ということなのだろうか? ナスネル家子飼いの騎士として数々の事件を解決したというが、見た目は・・・お世辞にも美男子とは言えん普通の若者だな・・・。いやはや、わからんものだ・・・。)
そう考えても、モルガンも商人の端くれ、間違っても態度や表情に出す事はない。
通関の手続きが済んだ以上とどまっている理由は無く、同じく有名人である補佐官の獣人を横目で見ながら、馬車を牽いて通り過ぎていく。
ユーリアはもちろんモルガンに内心で『地味メン』評価を下されたとは気づかず彼の立派な荷馬車を見送りながらユーリアはニコニコと傍らに控えるフルーに告げる。
「いや~、何もない日常って素晴らしいね! フルー君!?」
「お、おう。 なんかやけに機嫌良いな?」
「当たり前じゃないか! 久々に、僻地に行って占領された自治領を開放したり、戦闘服のコスプレをして戦車に乗って気持ち悪い化物と戦わなくてもいい、平和な日々が戻ってきたんだぞ?」
ユーリアの発言の中身はどう考えても毎日王都の街門でルーティンワークに追われる審査官のそれではない。
どちらかと言えば軍団規模の兵力か、特殊工作に秀でた戦力にでも割り当てられそうな物騒な案件ばかりである。
そのはずなのだが、実際はユーリアの主張は誇張でも妄想でもなく、彼自身と補佐官職に就いている獣人のフルーとエルフのテルの3人が全て解決してきたことである。
そんなわけで、審査官でありながら遠征や潜入やら多忙の日々を過ごす彼にとって久々の審査官業務を送る日々であり、定時上がりの続く日々はユーリアにとって至福の毎日であった。
「うーん、まぁ。気持ちはわからんでもないけど。 でも退屈じゃね? それにユーリアも何気に戦車の運転とか、戦闘服とか気に入ってたような気がするんだけー」
「シャラァアップ! ない、断じてそんな事はないぞ?! あれは・・・、そう緊急避難的な意味だな、な、やむを得ず・・・。」
ブツブツと言い訳を始めるユーリアにテルトはひやかすように言葉を継ぐ。
「いいじゃんかー照れなくてもさぁ? でもなんか退屈なんだよなぁ、なーんか単純作業って無意味に腹減るし、動いてないのに・・・。」
「はぁ・・・、なんだその謎理論は。」
そう言いつつ腹を抑えるフルーとあきれ顔でそれに応じるユーリア。
因みに最近は半獣人状態を隠してはおらず、トーク帽はかぶっていない。
ピンと立った耳と、フサフサのシッポが人目をはばかることなく、時折リズミカルに動いていた。
以前のように何故獣人化を隠していないのかと言うと理由は主に二つ。
一つ目はフルーが獣人であると言う事は城門でのレギナ、バルタスペアの大捕り物で半獣人化して見事に奴隷を発見した(直前まで屋台に気を取られたいたという説もあるが)手並みや、『ヤキュウ』での半獣人化してのパワープレイなど露出が多すぎてもはや隠すのもバカバカしくなったと言う事。
そしてもう一つは彼の獣人としての技能や身体能力が人々の間で広く知られるようになった結果、獣人化していた方が抑止力になると判断したからである。
確かにその効果はてきめんで、自分の並んでいる列がユーリアたちの列であるとわかると、そそくさとUターンしようとする脛に傷を持つ者達が少なからずおり、その挙動を見とがめられて衛士に捕縛される者も多かったからである。
そんなわけで以前に比べても、ユーリアたちの審査業務は協力的な国民の皆さんのおかげで滞りなくすすむようになっていた。
もちろん何事にも例外はあり、エルフであるテルトを『生き神様』扱いして、『偶然出会えたら一年無病息災』と言うパワースポットのような扱いをしているじーさんばーさんが来るとお祈りや、お供え物が始まり若干厄介なことになるのだが、あいにく(?)きょうはサイン会と言う事でここにはフルート自分の二人しかいない。
「ふぉぁ~。退屈だなぁ。なんか面白そうなことないかなぁ。」
大きな欠伸をしながら、突き出した真っ白な犬歯をのぞかせてノンキな事を言うフルーをユーリアは慌てて制止する。
「シャラァアアアアップ! フラグをたてるなぁああ!」
「? お、おう。『ふらぐ』の意味がよくわからんけどなんかスマン。」
「『嘘から出たまこと』っていうだろ、そう言う事。」
「なるほどねぇー。」
そう言ってポリポリと頭を掻くフルー。
「まぁ、単なる俺のゲン担ぎなんだけどな。・・・さっ! 早いとこ目の前の仕事を片付けてしまおう。目指せ定時上がりっ!」
「お、おぉ~」」
拳を握り、力強く宣言したユーリアに、フルーはややなげやりながらも答える。 そんな締まらない雰囲気にの中、ドタドタトした足音とともに背後の王都内部から声が聞こえてくる。
「・・・くん!お~い・・・。」
よく見るとそれはユーリアの上司であるピグリルさんその人であった。
「お~い! ユーリア君大変だっ! 今すぐ私と来たまえっ!」
その顔は必死の形相で、ユーリアたちの元へ駆けてきていた。
「おーい! ユーリア君っ!きこえないのかっ?!」
「「・・・。」」
明らかにする厄介事の匂いしかしないシチュエーションに、二人は顔を見合わせて何とも言えない表情を作る。
そして数瞬見つめ合った後、ユーリアがフルーを批判するような半眼でぽつりと言った。
「あーあ、フルーがフラグ立てるから・・・。」
「ええっ!? 俺のせいかよっ? 酷くない?」
「じょーだんだよ・・・。」
そう苦笑しながら答えるユーリアは、ピグリルさんに気づいたという合図を送るため手を振り、走ってきたのだろうか汗だくになって到着した彼を迎えたのだった。
(なるべく大げさな事になりませんように・・・。)
淡い願いを心の中で呟きながら。
お読みくださりありがとうございますm(__)m




